第三話 スキルをためす①
とりあえず、異世界での当面の目標は決まった。
邪悪神をシバき倒す。
こんな弱っちい姿に変えやがって。とんでもない邪悪さだ。さすが邪悪神だよ。感心するよ。
僕は改めて自分の体を観察する。体長は25cmくらい。尻尾を含めての長さなのでそんなに大きくはない。日本のトカゲというよりは、妹曰く、「レオパっぽい」だそうだ。僕はそのレオパとかいうトカゲを知らないのだけれど、外国にはそういうトカゲがいるらしい。
「レオパは“レオパードゲッコー”の略ね、お兄ちゃん。ちなみに日本名は“ヒョウモントカゲモドキ”といいます」
ヒョウモントカゲモドキといいます。と、言われてもまったく現物は想像できないのだが、カジュが物知りなことは分かった。
トカゲ“モドキ”っていう部分がすごく気になるけど、自分のアイデンティティが吹き飛びそうなので気にしないことにする。僕はモドキではありませんように。
「それじゃ、スキルを試してみるか……」
「がんばってお兄ちゃん!」
僕はステータスを開いてみる。
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[スキル]
『脱皮』
『自切』
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『脱皮』って皮を脱ぐやつだよね?
『自切』……は、よく分からん。
てか、二個しかないのかよスキル。さすがトカゲだな。カジュのスキルはもっといっぱいあったような気がするけど。うん、気にしないことにする。
「お兄ちゃん。頭の中で『スキル解説ーー!』って念じると、そのスキルの効果が分かるよ。試してみて」
カジュが教えてくれる。どうやってそんな機能を見つけたか気になるが、これも気にしないことにする。カジュに任せておけば全て上手く行くだろう。トカゲの僕がなんか考えるよりはね!
「いろいろと試してみたからね。お兄ちゃんもやってみてよ」
「うん、分かった」
スキル解説ーー!
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『脱皮』
[皮を脱ぐ。少しだけ成長する]
『自切』
[尻尾を任意に切り離せる]
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絶望しかない。
完全にトカゲですわ。
脱皮はもうスキルとかなんとかじゃなくて、習性ですよね? なんなら成長における生理現象ですよね? 自切もトカゲが尻尾切って逃げるアレだよね? 尻尾って切れたらまた生えてくるの? 怖っ! 試すこともできないよ!
「『自切』は切ったあとに生えてこなかったらアレだし……とりあえず『脱皮』を試してみようよ、お兄ちゃん」
アレとはなんだ妹よ。アレとは。
カジュが可哀想な目で僕を見てくる。良いんだよ。お兄ちゃんを笑っても良いんだよ。トカゲってほら、可愛いじゃん。愛でて良いよ。むしろ愛でて。
冗談はさておき、スキルを試してみる。
「『脱皮』!!」
叫び声(スキル詠唱)とともに身体が白くなってくる。
……おお、皮が! 皮が!
皮が脱げた!!
完!!