最終話 ②
朝日が窓から差し込み、鳥達はチュンチュン鳴いている。
はっ! 朝チュン!? 寝坊だよ!!
私は自室のベッドで目覚めた。
ここは地上200m。
私達が『シュラの樹』と名付けた大樹の天辺に、この部屋はある。
とても見晴らしがよく安全なので、私達兄妹はここに王室を作ってもらったのだ。
お兄ちゃんは部屋にいない。
私が寝てたから先に王都に行ったのかな?
起こしてくれても良かったのに。むむむ。
私とお兄ちゃんは王様になった。
魔王である。
二人で一人。この国には魔王が二人いる。
国の名前は【ゲッカダム】。
お兄ちゃんの名前と私の名前を合わせたらしい。コロンちゃんが考えた。正式名称は【魔双国ゲッカダム】。いい名前だよ。さすがコロンちゃん!
「さーて、今日もがんばって、復興するよー!」
私はうーんと、体を伸ばす。
あの戦争から一ヶ月が過ぎた。泥兵軍団による進行は王都に大ダメージを与えた。半壊どころではない。ほぼ壊滅だ。爆薬の量が多すぎたのだよ。爆薬の量が。
あのあと、王都の惨状をみたファロンちゃんはめっちゃ怒っていた。プンプン言ってた。素になってた。
そんなこんなで、王都民総出で復旧工事を行っているところなのである。
もちろん私もお兄ちゃんも連日作業を手伝っている。
「しゅっきーん!」
私は窓から外に向かって飛び降りる。地上200mからの飛び降りだけど、魔王にとってはなんということもない日常だよ。
ヒューーーーン!
てし。
「着地!」
最初は地面にクレーターができていたけど、最近は音もさせずに着地できるようになりました。さっそく工事現場に行こうっと。今日は王都の北側だったかな?
私はお兄ちゃんの脱皮した皮をムシャりながら(朝ごはん!)、現場へ向かうのであった。よし。
………………
…………
……
「おう、カジュ! おはよー!」
現場に到着した私を見つけて、お兄ちゃんがさっそく声をかけてくる。
「お兄ちゃん。手伝いに来たよー」
寝坊したことをおくびにも出さず、お兄ちゃんに挨拶する私。堂々としている! これぞ王の風格!
まあ、お兄ちゃんも王様なんだけどね。
「カジュ、もうちょっと早くこような? もうお昼だぞ?」
もう昼だったか。
朝チュンではなかったようだ。
「カジュ様、おはようーであります!」
「おはよー、マヤちゃん!」
マヤちゃんはメイド服を着ている。なんとメイドさんに転職したのである。戦うことも嫌いではないが、メイドさんにすごく憧れを持っていたらしい。親から自由になってさっそくメイドに転職したのである。今では王つき(お兄ちゃん&私)の専用メイドに任命されている。
うんうん、幸せにしてやるぞよ。うふふ。
ちなみに、お兄ちゃんは現在マヤちゃんの頭の上に乗っかっている。
くそー、その役目は私のモノなのにー!
「よっこいしょっと」
ぴょーんと、お兄ちゃんがマヤちゃんの頭から私の頭に跳び移ってきた。やっぱり私の頭の方が良いみたいだね。くふふ。新米メイドさんには負けないよ!
「んじゃ、マヤはさっき頼んだことよろしくー」
「はいであります!」
元気よく返事をしてマヤちゃんは去った。
え? 仕事を頼んでいたから乗り換えただけとか? お兄ちゃん、そんなことないよね? 私の頭が一番だよね!?
「はー、やっぱりカジュの頭は落ち着くなー」
お兄ちゃんが私の頭をさすさすしてくれた。
良かった。
良かったのだ。
「ゲッコー様、カジュ様……おはようございます。親方様が二人にご用事があるそうです。お時間はありますか?」
執事さんがファロンちゃんに頼まれて、私達を呼びに来たようだ。ファロンちゃんは変わらず宰相兼、ホーロン領主をやっている。
立場的に「王様を呼ばずに宰相が己で来い!」と言われそうだが、この国では問題ないのだ。ファロンちゃんは多忙だから。そして、私達はひまだから!
この国を管理しているのは私達魔王ではなく。実質ファロンちゃんなのである。こんな状態で、なぜ自分達がえらいと思えようか!?
我が王室は完全な傀儡政権なのである!!
指示待ち王室なのである!!
楽だから問題なし!!
「それじゃ、ファロンのところ行くかー。頼むぞカジュ」
「うん。分かったお兄ちゃん!」
私とお兄ちゃんと執事さんは、ファロンちゃんの待つ王城の執務室へ向かうのであった。
………………
…………
……
「はわ!? ゲッコーさん! カジュさん! 私ですー!!」
王城の門をくぐった先で、見慣れた可愛い顔のコロンちゃんが話しかけてきた。全身泥まみれで重そうな土石をよろよろと抱えている。似合う! 石運びが!
何人かの魔人と一緒に、土砂を運んでいるようだ。コロンちゃんはここで復旧工事を行っているのだろう。
「よー、コロン。今からファロンのところに行くんだけど一緒に行くかー?」
「は、はわ! でも仕事が!」
コロンちゃんは真面目可愛い。
王城に泥兵爆弾の被害はなかった。しかし隣接している闘技場で発生した大樹が、お城の城壁を大きく破壊していたのだ。この部隊はそれを修繕していたのだろう。
「コロン隊長! 問題ないにゃ! 行って下さいにゃ!」
ネコの魔人と思われる女の子がコロンちゃんに話しかける。
「はわ、で、でもですー……」
「問題……ないです!!」
「問題ないっす、コロン隊長! というか、お願いですから行って下さいっす!」
「「「邪魔です!!」」」
コロンちゃんの部下達かな? すごく連携が取れてて良いね。
はー、コロンちゃんそういえば出世して『魔王四天王』になったんだよねー。こんなに部下から慕われてるなんてえらいよー。さすが『爆愛のコロン』だね。可愛いよー。
「は、はわ! なんですその言い方です! 私はいない方が良いです!?」
「「「はい!」」」
「はわですーーーー!!」
泣いているコロンちゃんを見てその部下達はホッコリしている。恐ろしい部隊だよここ。しかし、命をかけてコロンちゃんを守ってくれそうなオーラを感じる。謎の忠誠心ありそうだし。コロンちゃんの人心掌握術半端ないよ。
「ほら、行こうぜ。コロン」
「えぐ、えぐ……は、はわですー……」
泣きながら鼻水をすするコロンちゃんが仲間になった!
「素晴らしい……素晴らしいです……コロン様……」
なぜか執事さんも泣いていた。
………………
…………
……
ノックをして執務室に入る。
ファロンちゃんは仕事中だった。
ファロンちゃんの机には大量の書類が積まれている。それを右から左へとバンバン片付けている。本当に処理しているのかというスピードで書類が流れていく。すごいよファロンちゃん、神技だよ!
ファロンちゃんは最近は顔色も良くなり、かなり健康的になった。だいぶんストレスが緩和されたようで嬉しいよ。王様冥利につきるよ。
「親方様……お二人をお連れしました」
「ん。ゲッコー様、カジュ様……ご足労……ありがとう」
ファロンちゃんが私達に気づいて仕事の手を止める。うーん、まだ『様』付けだねー。『ちゃん』って呼んでくれて良いのになー。
王都爆破で怒った時のファロンちゃんは素が出てしまい、私とお兄ちゃんのことを『ゲッコーちゃん』『カジュちゃん』とちゃん付けで呼びながら説教したのだ。プンプンファロンちゃんは可愛かった! 正座はきつかったけど!
普段もちゃん付けで呼んでって何回も頼んでるのに、なかなか実行されることはないのだった。残念なのだった。
「ファロンどうした? おまえが僕達を呼ぶなんて珍しいじゃん」
お兄ちゃんが質問する。
たしかに。この一ヶ月で予定なく急に呼ばれたのは始めてだった。
何かあったのかな?
「はわ、お姉ちゃん何か問題です?」
コロンちゃんも心配している。
「問題ではなく……大問題」
え!?
大問題!? なにそれ!?
「この書類を……読んで……ほしい」
ファロンちゃんが私に紙を一枚渡してくる。
えーと?
なになに?
「『我が国、魔海国シーラクーンは、魔双国ゲッカダムに戦争開始を宣言する』」
ん?
戦争開始?
どゆこと?
「なんだ? カジュどういうことだ?」
お兄ちゃんもよく分かっていないみたいだ。
「えーと、ファロンちゃん。説明お願い」
とりあえず、一番分かってそうな人に聞いてみる。
「シーラクーンは……この国の南東に……隣接する国」
ラグーンじゃなくてラクーン? アライグマ的な?
「ゲッカダムは……その国に『宣戦布告』された」
宣戦布告……?
え!?
戦争するってこと!?
「はわ!? どうして宣戦布告されるです!? シュラは死んだです! この国は安全になったです!?」
コロンちゃんもビックリだ。
戦闘狂魔王シュラは死んだ。他国にはわりと迷惑かけたかもしれないが、こちらは国名と国王が代わったんだよ? いま国もボロボロで忙しいし。わざわざ戦争しなくていいよね? あれ? だからなのかな?
「書類は……あと三枚ある」
ファロンちゃんがさらに不穏なことを言う。
「え? ファロンあと三枚なにって?」
「お兄ちゃん、まさか……」
「その……まさか……大問題」
ファロンちゃんは三枚の書類を渡してきた。紙面は三枚とも、私達の国ゲッカダムに対する宣戦布告だった。
「うそだろ……カジュ……」
「お兄ちゃん、隣接四ヶ国が同時に宣戦布告ってことは……」
私達の平穏は?
スローライフは?
「その通り……やられた、」
ファロンちゃんはハーっとため息をついて言った、
「これは……ゲッカダム包囲網!」
私たちの預かり知らぬところで、ゲッカダム包囲網はすでに完成していたようだ。
むむむむむ。
「ゲッカダム包囲網!? なにそれ!? なんかカッコいい!」
お兄ちゃん、国がピンチなのにカッコいいとか言っちゃダメだよ。不謹慎お兄ちゃんだよ! ダメだよ!
そもそも包囲網という言葉を理解してないよね? あとで説明しないとだよ。
それにしても、ゲッカダム包囲網かー。
隣国四ヶ国による同時の宣戦布告。
これって合従軍が来るってことだよね。
それぞれの国に魔王がいるとして、四人の魔王と同時に戦うってこと?
こっちはお兄ちゃんと私の二人なのに?
うーーーーん、
私達兄妹もようやく平穏に暮らせると思ってたのになー。
「カジュ……どうする?」
お兄ちゃんが聞いてくる。
もちろん、やるべきことは一つだ。
「決まってるよ、お兄ちゃん!──」
私達はどんな困難も乗り越えてきた。
これからも、きっと大丈夫。
「──作戦会議だよ!!」
私達兄妹に幸あれ。
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