第二話 ②
お兄ちゃん弱い!
弱すぎるよ!
悲しいくらい弱いよ!
トカゲっていうのを考慮しても弱いよ!
なに? 一桁ってなに?
HP以外一桁ってなに?
魔物ってそんなものなの?
ホントに人間に仇なすものなの?
悪意だ……悪意を感じる……!
邪悪神の悪意をすっごく感じる……!
嫌がらせのオーラをビンビンに感じるよ!
「お兄ちゃんにこんな仕打ちを……絶対に許さない!」
私の中で邪悪神は完全に敵認定された。
「カジュ……僕この世界で生きていける気がしないんだけど……」
先ほどまで激おこモードで尻尾をブンブンしていたお兄ちゃんだが、ひとしきり怒ったことで落ち着いたようだ。現実を直視してかなり落ち込んでいる。
怒りからの落差がすごい。お兄ちゃんは怒ったコトとかすぐに忘れちゃうからね、私がしっかり覚えておこう。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん! お兄ちゃんは私が守るから!」
私が人生で言いたいセリフ第三位を言える日がくるとは……なんだかんだ異世界に来て良かったかもしれない。ちなみに第四位は「お兄ちゃんどいて、そいつ殺せない!」であり、第二位は「お兄ちゃんこそ、天下無双の豪傑だよ!」である。第一位は秘密だ。
「うん、頼むよ……」
しかし、お兄ちゃんの元気は戻らない。
むむむ、ホント邪悪神許すまじ。
「お兄ちゃん、落ち込まないで。ほら、私だけなぜかレベル2だし(たぶんこれも邪悪神の嫌がらせ)。この世界は1レベル上昇する度にすっごくステータスが上がる世界かもしれないよ」
「どゆこと? っていうか、カジュなんかこの世界に詳しくない?」
「この世界というか、異世界転生モノ全般かなあ。詳しくはないよ。学校の図書館で何冊か読んだ程度だね」
「異世界転生モノ?」
「うん、私たちみたいに異世界に転生する物語だよ。だいたい疲れたサラリーマンが過労死して転生するの」
「サラリーマンって、その人達は大丈夫なのか?」
普通の異世界転生モノの主人公は、最初にチート能力を手に入れる。だから大丈夫なのだ。手に入れたチート能力を駆使して、システムの裏をつき、無双して、いつの間にか成り上がっていく。それが異世界転生モノの王道ストーリーである。
しかし、私達にそれは当てはまらないかもしれない。チート能力どころか転生担当の神様から、嫌がらせを受けているくらいだ。
むむむ、過酷です。
「お兄ちゃん、異世界モノの重要ポイントはあきらめないことだよ! 主人公達は過酷な運命に直面するけど、持ち前の努力と知恵でどんな困難も乗り越えるの! 私達もあきらめず、兄妹二人で頑張ろう!」
たぶん探せばそんな路線の物語もあるだろう。
王道より邪道の方が硬派なんて、異世界転生モノは奥が深いなあ。
私達のこれからも、すっごい地味な展開になるかもだけど、「友情」「努力」「勝利」路線でがんばろう!
仕方ないよね、だってトカゲと樹霊だもの。
「お兄ちゃん。とりあえず、ステータスはあきらめよう。次はスキルをチェックだよ。何かしら活路があるかもしれないし」
「活路と言っても、僕トカゲだからなあ……」
そして私達は気づくのだった。
この物語が、王道異世界転生モノだったということに。