第十八話 兄妹vs魔王①
シュラが右腕を振り上げた──
ただそれだけで、コロンは吹き飛ばされ、ファロンの両目が破壊された。
すごい攻撃だな。なーんにも見えなかったよ? やばすぎ。
「たわけが。この魔王シュラに即死攻撃など効かん!」
うーむ……
即死、効かなかったー。
まあ、そういうこともあるよね。
一応、魔王だし。しゃーなし。
人間きり替えがだいじ!
僕トカゲだけど!
「カジュ! コロンを!!」
「分かってるよー、お兄ちゃん! 『種子生成』ー!」
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『種子生成』
[任意の種子を作り出す。成長するかは育て方による]
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カジュの手の中で魔力がうず巻き、いくつもの種子が作り出される。
「くらえー! 『植物成長』&『植物操作《縛》』──!」
カジュはさらにスキルを同時に発動した。両腕を前に突きだす! くらえー! って、めっちゃ可愛い!
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『植物成長』
[任意の植物を成長させる]
『植物操作《縛》』
[任意の植物を操る。変化させた植物で対象を捕縛する]
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カジュの手の中の種子が一気に成長してツルとなる。大量の植物のツルがシュラに襲いかかる!
「ふん……くだらぬ!」
ガシッ!
カジュが両手から伸ばした大量のツルが、シュラの体を拘束した。
やったー、捕縛成功! てか、本当に攻撃避けないなコイツ。両腕を組んだまま、まったく動いてないし。まだ油断してんだな。少しは反省した方がいいよ。
はー、とカジュはため息をついている。
「本当にぜんぜん避けないね。その植物『爆弾付き』だから気をつけてね」
爆弾付き?
よく見ると、シュラを捕らえている植物のツルには、タコ足みたいな奇妙な物体がたくさん練り込まれていた。
ん? あれ、僕の尻尾じゃん。
コロンのスキル『爆弾』を溜め込んだ僕の尻尾だ。カジュは植物を成長させるさい、あれを大量に練り込んだようだ。すばらしい職人技である。
「ありったけ100発分だよ!」
ドーーーーン……
アリーナにものすごい爆発音が響いた。
すさまじい音を発し爆炎が高く吹き上がった。アリーナがビリビリと揺れる。
「すご!? でも100発分の爆発にしては広がらなかったな!」
シュラを中心に爆炎は高く上がっていたが、周囲には思ったより被害が広がっていなかった。だいぶ熱いけど。
「モンロー効果だよ、お兄ちゃん。爆発を使うなら知っておこう」
なるほど分からん。
カジュがツルを引き寄せる。
ツルの先っぽにはボロボロになったコロンが引っ付いていた。シュラへの攻撃に伸ばしたツルのいくつかで、コロンを回収していたようだ。というか、こっちが本命かな?
「どうだカジュ! コロンは無事か!?」
見た目、死んでるようにしか見えないけど。ちょっとあせる。
「うーん、無事ではないよ。でも『食いしばり』の効果でギリギリ生きてるね。さすがお兄ちゃんの『脱皮《爆破》』を耐えたマシラさんのスキルだよ!」
コロンは生きていた。
マシラの『食いしばり』を『貯蔵』していた僕の尻尾を、コロンに持たせたのは正解だったようだ。魔猿の森を出る時にマシラに『貯蔵』してもらっていたのだ。
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『食いしばり』
[即死級のダメージを受けてもHP1を残し耐える]
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『食いしばり』は僕の全力の『脱皮《爆破》』を受けて木っ端微塵にならなかったマシラのスキルである。どんなヤバい攻撃を受けても絶対にギリギリHP1で耐えるのだ。理屈はまったく分からない。不思議スキルである!
それにしても、カジュはコロンを安全に回収するために今の攻撃を行ったのか? 派手すぎない? シュラに対する目眩ましとしては効果的だっただろうけど……わずかな希望ではあるけど、もしかして今の攻撃で倒せてないかな? どうかな?
シュラが包まれていた爆煙が徐々に晴れていく──
うん、ムリだな。
爆煙の中から現れたシュラは完全に無キズだった。いや、がんばって見てみれば、ちょっと焦げてる気がしないでもない。日焼けかな?
シュラちょっと硬すぎませんかね?
魔王シュラが鎧を着ない理由はただ一つ。自分の肉体よりも硬い物質が存在しないからである。鎧なんて意味ないのだ。
コロンの爆弾100発分の威力でも日焼けした程度のダメージしか与えられないのである。どんな攻撃なら通用するというのか。
「なかなかの攻撃だったが、俺様の体には傷一つ付けられなかったな。まさか今のが切り札とは言うまい?」
シュラは自分の体に絶対の自信を持ってるんだろう。再生力も高いし。すでに日焼けも治っている。そりゃ油断もするわ。
「えー、なに言ってるんですか? 今のはコロンちゃんを安全に引き寄せるための目眩ましですよ? まさか攻撃だと思ったの? 目眩ましを攻撃だと思ったの?」
カジュの精神攻撃だー!
「それは良かった。まだ次があるんだな。おまえ達、本当に楽しいぞ!」
笑ってるよこの戦闘狂は……
カジュの精神攻撃は回避された!
「くっ……」
カジュちょっとくやしそうー! かわいい!
「ゲッコー様! カジュ様! この後はどうするであります!?」
マヤはさすがに焦ってきたようだ。あれだけの攻撃が無キズだったので当然だろう。早くこの場から逃げ出したいのかもしれない。
「マヤ、どうするもこうするもないよ。僕達はシュラを倒すだけだ」
「安心してマヤちゃん! シュラを倒すプランは『5』まであるんだよ!」
カジュが手のひらを広げて『5』と表す。手がちっさくて可愛い。
そうなのだ、僕達はがんばって考えた。作戦を五つも。ファロンの策を信頼してなかったわけではないが、魔王の底が見えないのが怖すぎたのだ。この兄妹、じつはかなり小心者である。
「よっし、じゃあ次は『プラン2』だな! 行ってきまーす!」
プラン2は僕の出番だ。
僕は前にでると、シュラと対峙する。
トカゲVS魔王の決闘である!
………………
…………
……
数日前。
地下秘密基地。
「はわ、つまりシュラの体はオリハルコンよりも硬いのです!」
なにぃーー!?
って、オリハルコンってなに? 鳥? ファルコン的な?
「お兄ちゃん! オリハルコンはとても硬い物質だよ! 私もよく知らないけど!」
なるほど。カジュもよく知らないなら僕も知らなくていいや。
「ゲッコー様……要は『シュラには普通の攻撃では、ダメージを与えられない』ということです」
「うーむ、ファロンのスキルがあればいいんじゃないの? 『ファロン+なにかスキル』で作戦を考えようよ」
ファロンの『破防の魔眼』は強いからね。
僕でも分かるくらい強いからね。
「ゲッコー様、それは難しいでしょう……シュラも親方様のスキルは知っています。親方様が関わるとしたら、よほど脆弱で弱々しい攻撃でないと油断はしないでしょう……」
「そうなんだよ、お兄ちゃん。ちょっとでも強そうな攻撃だと油断してくれないよ」
「うーむ、クソザコなめくじ的な攻撃でないとダメなのか……難しいな……」
僕達兄妹だとちょっとシュラの油断を誘うのは難しいかもだね。
魔力かなり強いしなー。
「はわ、クソザコなめくじってなんです……?」
「うん。コロンちゃんには関係ないから大丈夫だよ」
うーむ。
「シュラに弱点はないのかな? 急所とか、普通はありそうだけど」
カジュが質問する。
たしかに急所への攻撃なら防御力は関係ないと誰かに聞いたような気がする。カジュだったか……マシラだったか……
「急所ですか……ないことはないですが、攻撃するのは難しいかもしれません」
難しい? まさか玉か!? 玉を狙うのか!? 男には難しいがカジュならやるぞ! 容赦なくやるぞ!
「金玉なら私、気にせず砕けるよ!」
ほら、カジュがやる気まんまんですよ。
「違いますカジュ様。オーガ族であるシュラの弱点は《心臓》なのです。心臓を破壊すれば、いくら驚異的な再生力を持つオーガ族であっても死んでしまうと言われています」
金の玉ではございません──セバスチャンは悲痛な表情で言った。
うーむ、心臓破壊……それってどの魔物でも普通に死ぬよね。これ盲点なのでは!? その手があった! 心臓破壊すれば勝てるじゃん! これは勝ったぞ!
「うーん、心臓かあ……外皮を破ってシュラの心臓を破壊するのは難しいよね? そもそもそう言う話だし。困ったなー」
カジュが困ってる。
なんで?
「カジュなんで困ってるの? 心臓くらい僕なら簡単に破壊できるよ?」
「え? お兄ちゃんこそ、なに言ってるの?」
カジュが首をかしげる。
疑問顔は久しぶりにみたけど、めっちゃ可愛なのである。
………………
…………
……
「そんじゃ、おまえ今から死ぬけど、覚悟はいいか魔王?」
僕はシュラと向かい合う。距離は20mってとこかな?
シュラはかなり背が高いので、トカゲの僕と対峙すると画面構成が大変だ。アングルがんばって! うわー、かっこいい構図ありがとー。
「たわけが。俺様を殺すことは誰にもできぬ!」
「殺せるよ? だって僕トカゲだもの。トカゲって強いんだよ? おまえトカゲの能力知らないだろ?」
僕もこの世界に来るまでトカゲについてはよく知らなかった。でもトカゲはすごいのだ。意外となんでもできるのだ。わりと頑丈だし。とっても可愛いよ。みんなもお金を貯めてレオパードゲッコーを飼おう!(宣伝)
「ならば見せてみよ! 貴様が強者であると言う、証をなあッ!!」
──『危険察知』!
「『脱皮《離脱》』!!」
僕が先程までいた場所に大穴があく! シュラが一瞬で突っ込んで来たのだ! まったく見えない! ホントに速すぎだろコイツ! 『危険察知』がないと一瞬で死ぬこれ。
「空間転移か! おもしろい!!」
シュラが両手で連続手刀を振るう。斬撃がバンバン飛んでくる!
「あっぶな! 『脱皮《離脱》』──二十七連!!」
脱皮連続二十七連!! これが限界! これ以上連続でやると、ちょっと皮膚が痛くなるのだ!
ズバババババーーーーッ!!
………………!
…………!
……!
シュラの動きが止まった!
完全に避けきった!
シュラは連続手刀の反動で動けない! よし後ろをとったぞ!
僕はシュラの背中に引っつくと──
ガシッ!!
「え!?」
「お兄ちゃん──!?」
あれー?
マジで?
捕まっちゃった。
シュラを見ると、肩口から両腕とは別にもう一本腕が生えている。これに捕まったのだ。技終わりの隙と見せかけたフェイントかよ。
ええー、もう一本手があるなら先に言ってよ……
「たわけが」
シュラは手の中の僕を握りつぶした。
………………
…………
……
「なにぃ──!?」
シュラが驚くような声をあげる。そりゃそうだろう、僕を完全に見失っているのだ。手を開いても誰もいない、なにもない。
「やっほー。この魔王やろう。僕がいまどこにいるか分かるか?」
「なんだ!? どこから声がする!!」
焦ってる、焦ってる。
さすがに、自分の体の中から声が聞こえるのは怖いかよ。
──スキル『属性変化《霊》』。
僕はいま物理無効のゴースト属性になって、シュラの体内にいるのだ。
シュラの心臓部に。
「おまえ心臓が急所なんだろ? 急所って防御力関係ないらしいじゃん」
「ば、バカな……! どうやって体内に!?」
言うわけないよね。今から死ぬヤツに。
「じゃあ僕、いまから爆発するんで──」
「うおおおおお!! スキル『大鬼神鎧羅』!!」
とつぜんシュラが叫んだ。
え! なに!? 人の話聞かないヤツだな!?
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『大鬼神鎧羅』
[防御力が大幅に上がる。さらに、火属性・土属性・聖属性のオーラを同時に纏う]
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シュラは何かしらのオーラをまとったようだ。体内のゴースト属性の僕にもダメージが入っていく!
「うっそー! なにこれ!? 痛たたた! HPガンガン減ってく!? 怖っ!? でも、もう遅いけどね!!!」
僕はスキルを発動した。
──『脱皮《爆破》』!!!!
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『脱皮《爆破》』
[皮を脱ぐ。脱いだ皮が大爆発する。]
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音が消えた──あまりの爆発に目の前が真っ白になる。全力の『脱皮《爆破》』。シュラの心臓を破壊し、肋骨を砕き、胸部に大きな穴を開け、僕は外へ飛び出した。これだけの爆発で背中すら貫通してないとは、さすがシュラというところか。
ってか、これ胸のところ破れなかったら僕、巻き込まれて死んでない?
「やったーー! さすがお兄ちゃん!」
カジュが手を振りながらピョンピョンしている。はー、かわいい。
シュラの方を見ると胸に大きな穴を開け、立ったまま動かなくなっている。心臓ぶっ壊したし、さすがに死んだよね?
疲れたし、早く可愛い妹のところに戻ろう。
全力の『脱皮《爆破》』でMPもほとんど残ってないからね。よく分からないスキルでHPもそうとう削られたし。
いやー、よかった、よかった。
倒せて良かった。
「カジュどうだ? やったぞー」
「うん、お兄ちゃん! カッコよかったよー!」
カジュが僕を両手で抱えあげてくれる。
トカゲな僕をカッコいいと言ってくれるのはカジュだけだ。やはり持つべきものは妹だね。兄妹バンザイ!
「それじゃ、お兄ちゃん! 次は『プラン3』だね!」
は?
見ると──、
心臓部を破壊され、
胸に大穴を開けているシュラが、
天に向かって、
「ガアアアアァァァッーーーー!!!!」
吼えた────
うん、もう胸のところ治ってきてるじゃん。
なにそれ?




