第十七話 魔王シュラ①
「はわっ……これは……です?」
シャティアを倒したことで、コロンの石化が解けた。コロンはすぐには現状をはあくできないのか、寝起きのようにボケーとしている。早く起きろー。
ファロンとマヤも石化が解除されたようだ。処刑台の上でよろよろと自分の状況を確認しているのが分かる。
「はわ! おねーちゃん! ですー!!」
コロンがファロンに駆けよっていく。
ファロンは右腕を失って出血してはいるが、とりあえず生きてるしなんとかなりそうだ。うん。生きてるし。生きてるし。
「コロちゃん……助けにきてくれたの?」
「はいです! おねーちゃん! 大丈夫です!?」
「うん……平気……ありがと」
「おねーちゃん! よかったですー!」
コロンがファロンに抱きつく。おい、ファロンはけが人だぞ。自粛大事。
「ファロン宰相……これは……? え!? ゲッコー様!? カジュ様!? どうしてここにであります!?」
マヤもこちらに気づいたみたいだ。とりあえず元気そうで良かった。
「ふふーん、マヤちゃん。もちろん助けにきたんだよ! 友達でしょ!」
マヤはカジュの言葉を聞いてうるっとしている。マヤ泣きそう。まだ泣くなよ。
「マヤちゃん、すごくがんばったみたいだね。私のじょ、助言まで実行して……あとは私達に任せてね!」
じょうだんって言おうとしたな。
「あとは……でありますか?」
「うん! あとは──だよ!」
この間──、僕達兄妹はある人物からいっさい目をそらさなかった。
先ほどまでVIP席でえらそうに座っていたのに、シャティアがやられるとすぐにアリーナに降りてきたのだ。徒歩で。背筋を伸ばし堂々としているのに顔はめちゃくちゃ嬉しそうである。
ゆらりっと、アリーナの空気が揺れた。
「おまえ達強いな。どうだ? 俺様の部下にならんか?」
地を震わすような低音の声。それほど大きな声ではないのに、声の振動がアリーナ全体に響きわたる。
すごいプレッシャーだ。これが魔王か。
魔王シュラ。
種族・サタンオーガ。
このオーガス国の魔王。
五大魔王の一人であり。最強。
戦狂。黒滅。暴虐鬼──!
うーん、あと何かあったかな?
「『暴れん坊で人望がなく、嫌われもの』ってのも足しといて。お兄ちゃん」
暴れん坊で人望がなく、みんなから嫌われている!
「はわ! あとは『いじめっ子』もお願いするです!」
いつの間にかコロン達三人が僕達の近くまでやってきていた。ファロンの指示かな? ケガしてるのに冷静だなー、助かる!
しかし、いじめっ子は暴れん坊と被ってる気がするが、どうだろう? まあコロンが言うなら足しとこう。
いじめっ子!
「ゲッコー様! 『DV父親』も追加でお願いするであります!」
DV父親!
「『ゴミ』……」
ゴミ! ──って、これただの悪口だよファロン。
「えーと、これをまとめると……」
「まとめんで、いいっ!!」
シュラが吼えた。闘技場全体が震えるほどの大声だ。こわっ。冗談の分からんヤツだなー。
「まあいい。もう一度だけ言ってやる。どうだ? 俺様の部下にならんか?」
うむ? さっきからなに言ってんだコイツ?
「おまえ、魔王のクセにバカかよ。部下になりたいなら、ちゃんと正門から入って受付を通るよ? トカゲでも分かるよ? もう少し自分が嫌われてるって自覚して?」
「お兄ちゃん。バカにバカって言わないで。カバになるよ」
うーむ。
トカゲとカバだったら、ぎりぎりカバの方が良い気もするけど……どうだろう? 哲学。
「そうか、ならば戦闘だ。正直、断ってくれて嬉しいぞ。俺様も久しぶりに本気を出せる! さあ来い!」
さあ来い! とか言われても……
魔王の本気とかぜんぜん嬉しくないし。
むしろトカゲ相手に本気とか正気か?
「待ちなさい……シュラ。おまえの相手は……私」
ファロンがよろよろと僕達の前に立つ。右腕を失いダメージはあるが、その背中は凛としている。
「コロちゃん、短剣を渡して……持ってきたよね?」
シュラを殺すための切り札《タナトスの短剣》。伝説の神器の一つらしい。コロンが忘れていなければ、ウエストポーチに入っているはずである。忘れていなければ! ……さすがに忘れてないよね?
「は、はわ。ダメですお姉ちゃん! そんな傷では戦えませんです!」
だから──言って、コロンはタナトスの短剣をポーチから取り出し、ゆっくりと鞘から抜いていく。
「シュラは私が倒すです!」
コロンは短剣を構えると、シュラを睨みつけた。




