第十五話 ③
地上部隊の進行は順調だ。
泥兵軍団による爆弾投擲の効果は凄まじく、すでに王都の五分の一を制圧した。
「火の海ではありますが……問題はないでしょう」
「ケロー、俺の泥兵軍団がヤバいケロ。悪魔みたいだケロ」
マルマッド様は自分の泥兵の火力に引いているようだ。確かに爆弾を投げているだけとはいえ、100体もの泥兵による爆撃は凄まじい。私も正直──引く。
シュラさえいなければ、このままこの国を落とせそうな勢いではある。ふむ、親方様を助けた時に国を得ているというのはどうだろう? いつものように可愛くプンプンと怒りなさるだろうか? ふむ、悪くないですね……
私は思案する。
しかし、今日の私の役割は国を落とすことではない。陽動である。なるべく多くの魔王軍兵を引きつけ、コロン様達がシュラと有利に戦える場を整えなければならない。
私はポーチの中からトカゲの尻尾を一つ取り出す。少し魔力を込めて投げれば、あとは何かに接触するだけで大爆発を起こすのだ。
「スキルを貯蔵するとは……本当に恐ろしいスキルです」
私は尻尾爆弾を適当に放り投げる。一時置いて、遠くで爆炎が上がった。
「ケロー! セバスチャン! 魔王軍がきたケロ! あっちケロ!」
見ると、泥兵と魔王軍兵の戦闘が始まっている。爆撃で応戦しているため非常に派手な戦いになっている。
「ようやく軍が動いてきたようですね……打ち合わせでは協力者が謀って全軍を連れてきてくれる予定ですが……」
魔王軍のかなり上層部に親方様の協力者はいる。というか、魔王軍幹部である四天王のうち、二人が協力者なのだ。親方様の人徳は素晴らしい。万歳! 親方様万歳!
「マルマッド様、予定通りお願いします」
「分かってるケロ! 俺は打ち合わせ通り、魔王軍を街の北側に引きつけるケロ! セバスチャンはウサ爺の相手を頼むケロ!」
「承知しました、マルマッド様。御武運を……」
マルマッド様は今日のために用意した自分用の特別な泥兵に乗っている。通常の泥兵とは違い、足が八本ある、クモのような姿をしている。二足歩行の泥兵とは違い、瓦礫などの悪路でも簡単に踏み越えていけるのだ。ゲッコー様のアイデアである。
グッドラッケロ!──と、言ってマルマッド様は泥兵達を引き連れて王都の北側へ向かう。おそらく魔王軍はほとんどあちらに誘導されるだろう。
「さて、私の相手は貴方様ということですか……」
私はその相手に向かい合う。
「ほーう、覚悟は決まっとるようじゃな、セバスチャン」
そこには、崩れた石塊にポツンと座る年老いたウサギの魔人がいた。
我々の協力者の一人であり、魔王四天王の一人でもある、『電光のウサザネ』である。
「お嬢は素晴らしい仲間を獲たようじゃな。まさかここまで引っ掻き回せるとは……だからこそ残念じゃ」
電光のウサザネ。通称ウサ爺。親方様の幼少の頃からの教育係であり、戦闘術の師匠でもある。ものっそい強い。ちなみにコロン様の教育係も引き受けたが三日で投げた。ふむ。
「ウサザネ様、今からでも親方様を助けに行きませんか? こちらにはシュラを倒せるだけの策があります」
「無理じゃ」
返答早ーい。
「シュラは倒せん。誰にもな。あれはバケモノじゃ。魔物としても魔王としても、次元が違う」
ウサザネ様の仰ることももっともだ。今の発言は誰にも否定はできないだろう。
「あの二人以外は…………ですね」
「ん? なんじゃー?」
「いえ、ウサザネ様には大変お世話になりました。協力者とはいえ、無茶なお願いをたくさんしてしまいました」
今回も我々が混乱を起こした後、魔王軍全軍でこちらの泥兵の対処に来てもらうようお願いしたのだ。今、処刑場のシュラの護衛はすっからかんのはずである。
「あー、気にするな。お嬢のためにやったことじゃ。それも今日で最後じゃがな……」
ウサザネ様は遠い目をしている。親方様との思い出を思い出しているのだろうか。
「わしもかなり危ない橋を渡ったからのう……シュラに目をつけられとる。悪いがお主の首と、あのカエルの首はわしが貰っておくぞ」
まだ死にたくないのでのう……──言うと、
凄まじい殺気を放ちながら、ウサザネ様は立ち上がる。老体とはいえ魔王四天王の一人。凄まじい魔力である。電光の二つ名の通り、バチバチと体に紫電をまとっている。
「セバスチャン。生き残りたければ、わしを殺してみよ……」
「殺しはしません。親方様にはまだまだ貴方様が必要ですから」
「ふはははは。ならばわしを倒してお嬢を救って見せよ」
「もちろん、そのつもりでございます」
さーて。
………………
…………
……
ウサザネ様は予想通り、めちゃくちゃ強かった。いやもう速い。なんといっても速い。痺れるし。とにかく速い!
ウサザネ様はスキル『疾風電撃』を駆使し、容赦なく攻撃してくる。油断すれば一瞬で殺られるだろう。
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『疾風電撃』
[体に電撃を纏う。速度が大幅に上がる]
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電撃のダメージはまだ気合いで耐えられるが、とにかく動きが速すぎて手も足もでない。ステータスの差も大きいようで、スキル『狼王拳』がなければとっくに殺されていると思う。きつい! 本当にきつい!
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『狼王拳』
[ステータスが2倍になる。速度がさらに上がる。ただしHPが減少する]
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「『狼王拳』か! よいスキルじゃ! だが足らんのう!!」
電撃と化したウサザネ様は速度を生かし上下左右稲妻のように不規則な攻撃をしてくる。空中で軌道を変えられるなんてズルい!
「ふむ、やはりキツいですね……」
満身創痍だ。もういつでも倒れられる自信がある! 親方様ー!
「親方、様……!!」
足を踏ん張って耐える。気合いだ! 思い出せ! 思い出すのだ! 親方様の可愛らしいところを思い出すのだ! あんなこととか、こんなこととか、全て思い出すのだ! あとついでにコロン様も!
ひざをつきそうになったが、こらえた。
「ふう……何とか親方様達への忠誠心で、倒れるのを防げました……」
我ながら見上げた忠誠心である。セバスがんばった。
「お嬢は……シュラとマヤ殿の口喧嘩を見て笑っておったぞ」
「そうですか……」
「良い笑顔じゃった」
「そうですか……」
「ここで処刑されたとしても満足じゃろう」
は? そんなわけはありませんねー。
「今すぐ撤退せよ。コロンまで殺すつもりか?」
ふむ……
変わらない。
やはりウサ爺はウサ爺でしたか……親方様も大変喜ばれるでしょう。
「ウサザネ様……我々はシュラを倒す方法を複数持っています。その一端をお見せしましょう」
貴方様を倒すことで──言いながら、私は胸のポケットからトカゲの尻尾を二つ取り出す。
「シュラを倒す……か。その珍妙な爆弾で倒せると思うのか?」
「いえ、この尻尾に『貯蔵』されているスキルは、『爆弾』ではございません」
私は一本づつ尻尾をそれぞれ両の手に持ち、魔力を流す。
込められたスキルを解放する。
貯蔵解放『狼王拳』──、
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『狼王拳』
[ステータスが2倍になる。速度がさらに上がる。ただしHPが減少する]
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二本の尻尾に込められたスキルは、私のスキル『狼王拳』である。
「通常の『狼王拳』で私のステータスは2倍。さらに二本の尻尾に込められた二つの『狼王拳』を使うことで、私のステータスは──8倍です!!」
「なんと!?」
瞬間、私の体は弾けた。疾風より速く、電光より速く、一瞬の間も開けずウサ爺様に迫り、その体に拳を叩き込む。
「失礼……勝負あり、ですね」
ウサ爺様は私の拳を受け、吹き飛んで建物の壁に突き刺さった。
「ぐ……見事じゃ……」
『狼王拳8倍』は私の体では五秒しか持たない。負担が大きすぎる。私の体から血が吹き出す。
ウサ爺様の言葉に答えることもできず、私はそのまま前のめりに倒れた──。
ふう、せめて親方様の夢が見られますように……
あとは、お願いします……みな、様……




