第十三話 ②
西の森は天気が良かった。
爽やかな新緑の香りが心地よい。
森では小鳥達が遊んでいる。
その鳴き声に混じって──重い破壊音が辺りに響いた。
木々が大きな音をたてて、なぎ倒されていく。
私達は絶賛戦闘中だった。
相手は討伐対象のハンバーグマ。四本の腕を持つ大きな熊さんだ。倒した相手をミンチにしてハンバーグにする恐ろしい魔物である。口から炎も吐けるので焼きも可能だ!
「いけます! 任せるであります!」
マヤちゃんが前にでる。
ハンバーグマは四本の腕を大きく振りかぶって、攻撃!
ドガガッ! ガッ!
「マヤちゃん!?」
マヤちゃんは避けずに正面からハンバーグマの攻撃を受け止めた。うーん、また避けなかった。
たしかに攻撃を止めてはいるけど、熊爪が体に食い込んで血が大量に飛び散ってるんだよね。すごく痛そうなんだけど。
「大丈夫であります! せいッ!!」
マヤちゃんのパンチは空を切る。ブォン! という音からして威力はすごそうなのだが、いかんせん当たってない。マヤちゃんもうちょっと狙ってー。
ハンバーグマの反撃!
マヤちゃんはまた避けずに正面から受け止める。肩口が切り裂かれドバシャーと瑞々しい音がした……マヤちゃんの出血音だよ?
「マヤなにやってんだ! ちゃんと避けろ! 死ぬぞ!」
私の頭に乗っかってるお兄ちゃんもさすがに怒っている。
「大丈夫であります!」
マヤちゃんの体はキズだらけの血まみれだ。──が、その体はどんどん回復していく。
これがオーガの持つスキル『超再生』の力である。
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『超再生』
[身体を素早く再生し回復する。死亡以外は回復する]
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むむむ。
でも『超再生』のスキルがあるからって攻撃受けすぎだよね? すごく痛そうだし。MPなくなったら終わりだよ? あーほら、今度は腕がとんでいったよ……見てるとすごく可哀想なんだけど……
「えーい、もう僕がやる! 『属性変化《炎》』!!」
見ていられなくなったようだ。お兄ちゃん怒りの火の玉攻撃である! ハンバーグマは火の玉お兄ちゃんにひっつかれると、すごい勢いで燃え上がって黒コゲになった。
「あ……」
「マヤちゃん、『あ……』じゃないよ。あんな戦い方してるとすぐに死んじゃうよ? ダメでしょ?」
私は私で久しぶりに、おこだった。
………………
…………
……
私とお兄ちゃんとマヤちゃんの三人は森でキャンプファイアーを囲んでいた。討伐クエストは全て達成したが、夜も遅くなったので三人でキャンプすることにしたのだ。
マヤちゃんは私の作ったバーベキューを美味しそうに食べている。
「マヤちゃん、どうしてあんな無謀な戦い方してるの? 無謀すぎて見てて怖いよ?」
マヤちゃんは全ての攻撃を避けずに受け止めていた。傷つきながら。
バクダンゴムシの転がり攻撃に潰され、ハンバーグマの爪攻撃で切り裂かれ、ダッチョウのモツ煮込み攻撃でやられる。いくら『超再生』があっても私達がいないと、とっくに死んでると思う。あまり心配かけないでほしい。
「すみません……自分は上級討伐の魔物と戦ったのが初めてでありまして……」
「それでも攻撃を避けるくらいはできるだろ? あんな戦い方してるといずれ死ぬぞ?」
お兄ちゃん正論である。マヤちゃんは戦闘中まったく攻撃を避ける素振りがない。避けたら負けと思ってるのかな? そういう宗教かな?
「父上が……『避けるな』と」
「「は?」」
は? お父さんがなにって?
「父上は私に『攻撃は避けずに全て受けろ』と教えてくれたであります。そうすれば『超再生』の上に行けると……」
え? スキルのランクアップの話かな? 『超再生』の上のランクがあるの? それでも自分の娘にわざと攻撃を受けろって言うか? 父親ヤバくないか?
「自分の家は、父上の方針で子供が9歳になるとみんな戦場に送られるであります。兄姉全員そうでした」
は?
「自分はいま8歳……9歳までにできるだけレベルを上げておかなければ……戦死するであります」
「えー!? 9歳で戦場って、そんなの無理だよ!? まだ子供だよ!?」
なにそれ? 親はアホなの? どーしよもないほどアホなの?
「それって……他の兄姉達は誰も文句言わないのか? 僕だったら絶対いやだけど」
お兄ちゃんの質問にマヤちゃんは、
「兄姉はみんな戦死したであります」
と言った。
「「ブーーーー!!」」
私とお兄ちゃんは飲んでいたジュースを同時に吹き出した。
「どどどどどどど毒親やないかい!?」
お兄ちゃんがすごく動揺している。謎の大阪弁だ。
「どどどどどどどどど毒親どころじゃないよ!?」
私も動揺している。
「自分には兄が四人、姉が三人いました。全員9歳で戦場に送り出され、すぐに戦死したであります」
悲惨な話だった。
マヤちゃんの父親はとにかく戦うことが好きで、自分の子供にも強くなることを強要するらしい。幼いうちに戦場に放り込んで死地を体験させれば、それで強くなると思っているのだ。アホである。じっさい全滅してるし。
次男が反対したこともあったそうだがボコボコにされて、そのまま戦場に捨てられたらしい。なんというディーブイ。ドメスティックバイオレンス。そろそろ私の怒りも溜まってきたよ。
「マヤお前の親父なんなん? クレイジー過ぎない?」
「父上は……戦闘狂です。戦うことにしか興味がないであります」
「さっさと家出した方がいいよ、そんな家。僕達のところに来るか? 歓迎するよ?」
お兄ちゃんがナイスな提案をする。
ちなみに私達はホーロンに家を持っている。『カルラファミリー討伐』の副報酬である。
「いいかマヤ。次その親父に会ったら『私は家を出ていきます! さようなら!』って言うんだぞ。僕達の家に来ればいいんだから」
「そうだね、マヤちゃんはお父さんと離れた方がいいよ。お父さんイカれてるし。なんなら私達が殺してあげよっか?」
私達は前世の境遇から毒親が大嫌いなのである。やるよ? やっちゃうよ? 久しぶりにダークカジュちゃんでちゃうよ?
「ゲッコー様、カジュ様……心配していただいて……ありがとであります。自分は間違っているでありますか……? このまま父上の言う通りには、しない方が良いでありますか?」
「うん、しない方が良いよ。さっさとバイバイするべきだね」
私は思ったことを即答した。
「マヤちゃんはぜったい家を出るべきだよ」
後押ししておこう。
「もし出て行く時、もめそうだったら僕達を呼べばいい。ぜったい助けてあげるから」
「ゲッコー様……」
マヤちゃんの目がうるうるしている。お兄ちゃんのカッコよさに気づいたのかな? 私のお兄ちゃんはトカゲでもカッコいいんだよ!
「マヤちゃん良いこと教えてあげる。お父さんにダメージを与えたいならね、問答無用で『臭い』と『死ね』を大声で連呼すればいいんだよ。それで大抵の父は倒せるから」
※注意:現実での使用は絶対に止めて下さい。
「はは、なんでありますかソレは」
マヤちゃんが小さく笑った。
「うふふ、マヤちゃんやっと笑ったねー。今までずーっと笑ってなかったからね。ダメだよ、たまには笑わないと」
「うん人間笑わないとな。いや、人間じゃなかったけど……生き物はみんな笑うべきなんだよ。トカゲだって笑えるんだぜ?」
お兄ちゃんが目を閉じて口を微妙にニヤリと動かす。トカゲスマイルだ。
「ゲッコー様、カジュ様。自分は父と話してみるであります。たぶん無理でしょうが……いざという時はお二人のお世話になるであります!」
「分かった! がんばれマヤ、応援してる! えーと、僕達ついていかなくていいか?」
「いえ……大丈夫であります。自分でがんばるであります!」
受付のおねーさんが言っていた通り、マヤちゃんは良い子だった。
私達は友達になった。
(^o^)/「戦争は魔王シュラが勝手に他国にケンカを売りに行くことで起こります。シュラが飽きてきたと思ったらファロンが勝手に休戦協定を結びます」
(o^-^)o「この世界でのクエストは『ギルドカード』に直接記憶され、達成すると自動で『済』マークがつきます。謎のハイテク技術です」




