第一話 ②
気がつけば私、森島果樹は夜の森にいた。
夜空には三つの月が出ている。
白色光に輝く大小三つの満月。
暗い森の奥からは、聞いたこともないような生き物達の鳴き声が聞こえてくる。
不気味である。
ここが異世界なんだと実感させられる。
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カジュ・モリシマ
LV 2 《種族・ドライアド》
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頭の中で思い浮かべると、自分の名前やレベル、ステータス、スキルなどが表示される。むむむ、すごく異世界に来た感じがする。
『ドライアド』というのは、確か『樹の精霊』だったはずだ。自分の姿を確認すると、小三くらいの身長で女の子で長髪。髪の毛の先は木の枝みたいになっていた。
「うん、すごく樹の精霊っぽい」
自分の前世の名前は森島果樹。果樹。果物の樹でドライアドか……確かに魂は一致しそうだが、むむむである。
「さすが邪悪神。てきとーです」
しかし名前で転生先の種族が決められたのだとすれば、お兄ちゃんはすごく期待できるかもしれないと考える。森島月光。月光ってすごい立派な名前ですよ。お月様ですよ。これで生まれ変わるなら、月の精霊とか? 月の使い? むむむ、何なら夜空にある三つの月のうちの一つは、お兄ちゃんじゃなかろうか、どうだろうか?
そんな、現実逃避を一瞬だけして、自分の前にポツンと落ちている、小さな生き物に声をかけた。
「お兄ちゃん起きてー。来世だよ」
「え……なに? ……朝?」
そうつぶやくと、その生き物(お兄ちゃん)はむくりと起き上がった。
「……なに? ……え? でか!? 誰!? ってか、でか!?」
その生き物(お兄ちゃん)は私を見上げるとビックリしたように声をあげる。そりゃそうだ、サイズ差がありすぎる。てかお兄ちゃんが小さすぎる。
私はお兄ちゃんを両の手ですくうように持ち上げると、顔の前に近づける。
「お兄ちゃん。おはようございます。妹のカジュです」
「え……カジュ? どゆこと?」
お兄ちゃんは寝ぼけているのか、混乱しているのか。まったく現状を理解できていない。うん、お兄ちゃんらしくて良いよー。
「お兄ちゃん、“ゲッコー”って何か知ってますか?」
「えっ? 月光? 月光は僕の名前だろ?」
私の質問の意図が伝わらなかったようだ。
「違います。ゲッコーとは『トカゲ』のことです」
「トカゲ?」
はい。
「お兄ちゃんはトカゲになってます!」
そうである。
トカゲである。
お兄ちゃんは、体調25cmくらいのトカゲの魔物に転生していたのだ。
「え? …………ええぇぇ!!」
お兄ちゃんの叫び声が夜の森に響き渡った。
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ゲッコー・モリシマ
LV 1 《種族・モリゲッコー》
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