第九話 コロンとセバスチャン①
ホーロンの街の領主代理コロン。
まだ少女な見た目の彼女は、カジュより少し身長が高いくらいだ。見ただけではなんの魔人か分からない。それくらい人間っぽい。
その執事セバスチャン。
スーツを着た狼である。老齢ではあるがスラッとして長身だ。顔が狼なので、オオカミの魔人で間違いないだろう。
「フッ! はあッーー!!」
セバスチャンが爪による攻撃を放ってくる。狼だけあってとても素早い。連続の爪攻撃は瞬きする暇がないくらいだ。
まあ、カジュは普通にそれを避けてるけど。
「スキル! 『爆弾』です!」
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『爆弾』
[爆弾を生成して投擲する]
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セバスチャンの攻撃の合間をぬって、コロンがスキルを使ってくる。彼女のスキル『爆弾』は文字通り手のひらサイズの爆弾を作りだして、投げつけてくるものだ。
ドカーン!
なにかに接触すると爆発する。
威力はまあまあだ。
カジュは爆弾を避けすらせずに手で払い除けた。爆発してもまったく気にしてない。さすがカジュ! つよいぞ! カッコいいぞ!
「すみませんコロン様! 私を巻き込まないで下さい!」
「はわ! わざとじゃないです! ごめんさいですー!」
なんならセバスチャンの方にダメージがあるみたいだ。
直撃してなお無傷のカジュと爆風でダメージを受けるセバスチャン。差は歴然である。このままでも余裕で勝てるだろう。
「カジュ、僕も何かやりたい」
でも、なにもしないのも暇である。
「そうだねー。この狼の人けっこう速いし、連携技使おうかなお兄ちゃん」
「なるほどいいねー。殺すんじゃないぞー」
いまいち連携の取れていないこの二人に、僕達の連携技を見せてあげても良いだろう。殺さないようにちゃんと釘も刺しておく。
領主代理を殺して、懸賞金をかけられてもマズイからね。
「なめられてるです? 負けないです!」
なめてるよ。心配もしてるけど。
「『爆弾《乱》』です!!」
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『爆弾《乱》』
[複数の爆弾を同時に生成して投擲する]
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コロンがそう叫ぶと一瞬で空中に大量の爆弾が出現する。
おお、必殺技か! でもこれセバスチャンは大丈夫なのか!?
「コロン様、ご乱心をーーー!?」
あせってる、大丈夫じゃなかった。
「『狼王拳』!!」
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『狼王拳』
[ステータスが2倍になる。速度がさらに上がる。ただしHPが減少する]
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セバスチャンも必殺技を使うようだ。これ僕もなんか使った方が良いの? ノリ的に。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。私が受ける!」
カジュはそう言うと、両腕を胸の前で組んで仁王立ちした。え? 受けるって? ボディで? 僕カジュの頭に乗ってるんだけど? これ僕、普通に食らうよね?
ドドドドン!
ドドドドーン! ドガーン!
凄まじい轟音が辺り一面に響いた。
僕は普通に爆撃を受けた。
そして、普通に無傷だった。
爆弾によって起こされた煙から僕達が姿を表す。
カジュは先ほどと同じ、両腕を胸の前に組んだポーズだ。カッコ可愛いだろ、うちの妹は!
「お兄ちゃん。それじゃ、こちらも攻撃しちゃおうか」
そうだな。そろそろケリをつけるか。
「はわ!? 無傷……!? う、うそです……!!」
見ると、コロンの前にセバスチャンが守るように立ち、爆風からかばっていた。爆弾スキルって自分にも被害くる可能性あるんだな。怖。
「お兄ちゃん! 《ライトニング・コンボウ》!!」
カジュが叫びながら、僕を相手に向かって山なりに放り投げる。
コロンとセバスチャンは何事かと、飛んでくる僕を注視する。
「『属性変化《光》』!!」
カッ!!
瞬間、僕からものすごい閃光が放たれた!
「クッ!!」
「キャッ……! です!!」
目をかばうがもう遅い。
完全に二人は視界を奪われた。
「必殺……! ダブル腹パン!!」
視界を奪われ、動きが鈍った二人にカジュが正拳突きをくらわせる。
ドカッッ!!
ぐふ……という、腹の底から出る痛そうな声を上げ、二人は倒れた。
「必殺ダブル腹パンは同時に二つの対象に腹パンを決める技。ちなみにスキルではないです」
カジュは神妙にそう言った。
同時とかすごい。
確かに音が一回しか聞こえなかったし。