第八話 ホーロンの街①
僕達は【ホーロンの街】を歩いていた。
草原にあるホーロンの街は大きな壁に囲まれていた。中に入るには門を通らねばならないのだが、門番に名前を告げるだけで入場は許された。人語を話せる魔人なら誰でも街に入れるようだ。オープンである。
街の中は石畳が敷かれている。舗装された道は歩きやすく、しっかりした感じである。この世界にもきちんと文明があるようだ。
まあ僕はいつものようにカジュの頭に乗っかってるだけだけどね。
ホーロンの街はかなり活気があった。
聞いてたとおり街にはさまざまな魔人がいた。犬の魔人、猫の魔人、ペリカンの魔人。カジュの足元を小さなコアラの魔人が歩いていく。こんな小さな魔人もいるんだなあ……僕の方が小さいけど。
とにかく街の活気はすごかった。
「すごいねえ、お兄ちゃん」
カジュが街の賑やかさに感心している。
二人とも二年間森に引きこもっていたから、こんなに人がいる場所に来るのは久しぶりだ。というか異世界では初めてだな。
「これだけ人がいるなら、チンピラに絡まれる心配もなさそうだな」
「うん、この棍棒も必要なかったかもね」
カジュは現在、くっそ禍々しい棍棒を装備している。カジュの身長の3倍はあるその棍棒はホラーゲームに出てきそうなほど恐ろしいデザインをしており、見るものを恐怖に誘う。カジュはこの棍棒を《ヨグ=ソトース》と名付けた。
「チンピラ避けのつもりで作ったんだけど逆に目立ってるね、お兄ちゃん」
「そうだな……なんか拝んでる人もいるし」
巨大な禍々しい棍棒を持って歩くカジュ。見ようによっては特殊な巡礼者に見えるのかもしれない。主に悪魔崇拝的な。
「お兄ちゃん、これもう捨てていい……?」
「ええー、もったいないよ。もう少し持っとこうよ」
カジュが一生懸命デザインしたヤツだし。
こんな怖いのポイ捨てしたら街の人に迷惑かけるかもしれないよ。思いやりは大事。確かに街で邪教を広めようとしている兄妹がいるなど噂になっても困るけどさ。
「分かった。じゃあもうちょっと持ってる」
「カジュはえらいなあ」
頭をなでなでしといた。
うむうむ。
「でもさカジュ。この国って魔王がいるんだよね? いきなり出会ったりはしないかなー?」
「うーん。それは大丈夫だと思うよ。魔王はこの街じゃなくて、王都のお城に住んでるんだよ。もし出会っても逃げちゃえばいいよ」
うーむ。
この国の名前は【魔鬼国オーガス】。
聞いた話では、オーガスの魔王はかなり凶暴らしいのだ。めっちゃ戦争するらしい。繰り返される戦争で国自体はボロボロらしいのだ。
「でも、国はボロボロなハズなのに、なんでこの街はこんなに活気があるんだろうな?」
「さあ? 領主が優秀なんじゃないのお兄ちゃん」
領主が優秀ならその領主が王さまになればいいと思うんだけど僕が間違っているだろうか?
「マシラさんも魔界は力がすべてだって言ってたでしょ? 政治が上手くできてもあんまり意味ないのかもね、お兄ちゃん」
そんなものなのかー。
魔界ってバイオレンスなんだな……
とりあえず、僕達は魔王に会ったら逃げるという方針に決めたのだった。
「そんなことより異世界といえばギルドだよね。早くギルド行こうよ、お兄ちゃん」
「そうだな、ギルド行ってみるか」
魔人の街にギルドがあるのか分からないが、僕達はギルドに行くことにした。
………………
…………
……
結果的にギルドはあった。
しかし、新たな問題が発生した。
お金がないのである。
「まさか冒険者登録にお金が必要とは……」
「私達お金とは無縁の生活を送ってたからね……」
僕達兄妹、もとい文無し兄妹は噴水広場のベンチに腰かけていた。
「どうにかしてお金稼がないとなあ」
「お兄ちゃん、なにか当てはあるの?」
あるわけないよ。
僕働いたことないし。カジュもだけど。お金ってどうやって手に入れれば良いの? そもそも子供がお金稼ぐなんて無理だよね? よく考えたら僕トカゲだし。無理じゃん。不可能じゃん。
「うーむ……」
カジュと二人して悩む。
戦いなら負ける気はないけど、お金を稼ぐというのは未知の領域すぎるんだよなー。
噴水の泉の中に何枚か硬貨が沈んでいるのが見える。これに手を出したら人として終わりな気がするが、最後の手段として覚えておこう。僕トカゲだから人として終わってもいいし。
僕達が頭を抱えていると、
「良い稼ぎ話がありますよ。お嬢さん」
怪しいおっさんに話しかけられた。
怪しい。
実に怪しい。