第七話 大猿と兄妹①
僕とカジュは【魔猿の森】のぬしである、白色の大猿マシラの住みかに案内されていた。
二年住んでたけど名前あったんだな、この森。
マシラの住みかは巨大な大樹だった。この森の中で最も大きい樹ではないだろうか? 少なくとも僕は異世界に来てから、この大樹より大きな樹は見ていない。ところどころ幹に穴が空いており、そこが手下の猿達の住みかにもなっているようだ。
「ボス! 気がねなくくつろいでくだせい。なにかご不便ございやしたら、あっしが何とかするんで」
「いえ、ご不便ないです」
マシラに「ボス!」と呼ばれたのはカジュである。
戦いのあと情けをかけてとどめを刺さず、しかも『果実生成』で作った『ヒールベリー』を猿達に分け与え治療まで行った少女。マシラ含め、猿軍団は完全に堕ちてしまっていた。カジュの魅力に。
まるで女神である。
森のカリスマ。猿軍団のボス。ドライアドのカジュここにあり。
「やっぱりカジュはすごいなあ。お兄ちゃんは感動したぞ……」
「や、やめてよお兄ちゃん。私なんかよりお兄ちゃんの方が絶対すごいよ」
カジュは照れくさそうだが、満更でもないようだ。僕には分かる。アホ毛がピコピコしてるし。
「ゲッコーの兄貴も、どうぞお入りくだせえ」
「お、おうよ」
マシラの口調に影響されて、返事がおかしくなってしまった。いかん、これでは任侠ものになってしまう。
「それにしても立派な樹だね……普通の樹とは違う魔力を感じるよ」
カジュはマシラの住みかである大樹を見上げつぶやく。
「さすがボスお見事ですぜ。この大樹は《デビルズシード》に寄生された、『ドラゴン』が元になってできてるんでさあ」
マシラの言葉を聞き、僕は考える。
ドラゴン、やっぱりいるのか。
同じ爬虫類として意識せずにはいられなかったが、やはりこの世界にはいるんだな……僕はぜったいに負けない。爬虫類内格差を僕がぶっ飛ばす。
「しかし『悪魔の種』とは恐ろしい名前をしてるなあ。この世界にはドラゴンだけでなく、悪魔までいるんだな」
「ん? デビルズシードはただの植物だよお兄ちゃん。通常の植物との違いは魔力を栄養にして育つってとこだね」
「魔力?」
「魔物に寄生してその魔力を栄養に成長するの。魔力量の多い魔物に寄生すれば、それだけ大きな樹に育つってわけだね」
なるほど、つまりこの世界のドラゴンはデビルズシードがここまでの大樹に成長するほどの大きな魔力を持っているということか。さすが爬虫類の王様、優秀である。嫉妬。
「やっぱりカジュは植物に詳しいなあ」
我が妹ながらホントに感心である。
「ええー、私はスキルで知っただけだよ?」
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『植物図鑑』
[植物の情報を得る]
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スキルとはいえ才能だよ? なにを遠慮してるの? 植物のことにおいてカジュより詳しいものは存在しないよ。だってドライアドだもの。樹の精霊だもの。
ちなみに僕はトカゲに詳しくない。
「僕もドラゴンと同じ爬虫類として、寄生されないように気をつけないといけないな」
寄生とかめちゃ怖い。
「安心してくだせえ兄貴。普通に生活していてデビルズシードに寄生されるなんてこと、まずございやせん。弱ってたり、弱点に偶然『種』が付いたりして発芽するんでさあ。ここのドラゴンも死にかけだったところに運悪くデビルズシードに寄生されたんでしょうぜ」
マシラはそう言うと、
「ささ、ご兄妹。食事の用意もできてますので、どうぞお入りくだせえ」
僕達を中へ案内してくれた。