第六話 ②
上空にぶん投げられた私達は、ぬしに向かって空を行く。
すごい高いねー、いい眺めだよ、お兄ちゃん。ほらー、鳥さんだよ。
「鳥なんか、知らんがな。それより見えてきたぞ」
私達の飛んでいく先、一面に広がる森の中に、ぽっかりと木々のない空間ができ上がっている。ぬしがやったのだろう。
「うん、あたま良いね。私達が植物を操って攻撃すると理解してるみたい。決戦場として場を用意したんだね」
確かに木々に囲まれた森の中では私は無敵だ。
森の中で私を倒すには、まず周囲の木々をすべて排除する必要があるだろう。とはいえ森の中に空き地を作るとはすごいパワーである。
「闘技場を作ったヤツがなに言ってんだ……」
お兄ちゃんがツッコミを入れてくる。もうすぐ到着だ。勝負は一瞬で決まる。
「行くよ。お兄ちゃん!」
「おう!」
まだ私達は上空だが、ぬしの姿はもう肉眼で確認できる。白い大猿の魔物が、森にできた大きな空き地のド真ん中で私達を待ち構えている。
「『植物成長』!」
私の握った手の中の『種』が、一気に成長する。
「つづけて『植物操作《縛》』!!」
さらに『植物操作』で、手の中で成長中の植物を武器化する。腕をぬしの方に突きだす、無数に伸びた木のツタが、ぬしを捕らえようと上空から襲いかかる。
「ギャオオォーーー!」
大声とともにぬしが両手を振り回し、捕らえようと迫るツタを払いのける。ツタがまるで紙切れみたいに千切られていく。ぜんぜん効かない。さすがこの森のぬしだ。
私はそのままぬしに対峙するように、空き地に着地する。手の中の植物は力を使い果たし枯れてしまった。ツタはもう使えない。でも問題なし。
私はぬしと向き合って立つと、一呼吸おいて、あごに手を当てこう言った。
「あたまに何かついてますよ? トカゲかな?」
最初のアタックの時に私の攻撃に紛れ、お兄ちゃんはすでにぬしの後頭部に引っついていたのだ。
「『脱皮《爆破》』ーー!!」
瞬間、お兄ちゃんは大爆発した。
………………
…………
……
ぬしによって森の中に作られた戦いの場は、お兄ちゃんの『脱皮《爆破》』によって焦土と化した。幸いなことにぬしによって木々が引っこ抜かれていたため、森への延焼は免れたが、まだいろいろ燃えている。
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『脱皮《爆破》』
[皮を脱ぐ。脱いだ皮が大爆発する。]
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むむむ、今回は全力で使って良いとは言ったけどさ。私まで巻き込むってどーなの? 離れてたけど私もまあまあHP減ったよ? 服もこげちゃったし。
「ふいー、カジュどうだった? お疲れ様ー」
なんか一仕事終えた風にお兄ちゃんがやって来る。さわやかである。
「久しぶりに『脱皮《爆破》』使ったけど、威力ヤバイな。もう少し弱めて撃てばよかったよ」
そうだね。お兄ちゃんがもう少し手加減して撃ってくれてれば、私は今こうしてアフロヘアーにはなってなかったね。むむむ。
「しかし、さすがぬしだな。タフすぎる」
そうなのだ。お兄ちゃんの言うように、ぬしはまだ生きていた。あの大爆発を頭部に受け、黒こげで虫の息ではあるが、確かに呼吸しているのだ。
「TODOME刺さないとだね」
可哀想だが今回の目的が『ボスを倒して上限突破なるか?』なので、とどめを刺す必要がある。
「『植物操作《槌》』!」
私はてきとーな木から棍棒を作ると、それを手に倒れているぬしに向かう。せめて一撃で殺すからね。ごめんね。
しかし、
「ウキャー、ウキャー!」
どこから来たのか、猿の魔物達が私とぬしの間に割って入ったのだ。
「ウキャー! ウキー!」
ボスを殺さないでー、とでも言っているのだろうか? 猿達は必死に懇願してくる。土下座してるのまでいる。うーん、なんか完全にこっちの方が悪者だぞ。
「どうしよう、お兄ちゃん……」
「うーむ……」
私達は魔物ではあるが根っからの悪者ではないのだ。暴力嫌いだし。戦いはするけど降伏は受け入れる。まあ、放っておいたらこのままお亡くなりになるかもだけど……
うーん。どうしよ。
悩む私達。
その時、ぬしが目を覚ました。
体はぼろぼろで火傷が酷く、今にも死にそうなほどに弱ってはいるが、その瞳はまっすぐに力強く輝いている。
「殺せ……」
ぬしはゆっくりと口を動かした。
………………
…………
……
長い静寂のあと、私達はこう叫んだ。
「「しゃべったぁぁぁーーー!?」」