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第7話:仲間

 七年の年月をかけて、ボクは《七大地獄(セブンス・ヘル)》を完全に踏破する。


「ふう……」


 全ての力を手に入れて、ひと息つく。


 シュン!


 次の瞬間、気がつくと《地獄門ヘル・ゲート》の前に立っていた。


 《七大地獄(セブンス・ヘル)》をクリアしたために、最初の入り口に戻ったのであろう。

 一緒に魔族公爵ダンテさんも戻っている。


「ダンテ叔父さん、お待たせしました。今日までありがとうございました!」


 ダンテさんはこの七年間、ほぼ毎日のように立ち会ってくれた。

 かなり待たせてしまった感じだ。感謝の言葉を述べる。


「…………」


 ん?

 ダンテさんが先ほどから無言で、固まっている。

 どうしたのだろう?


「い、いや、何でもねぇ! お前の戦いに、感極まっていた訳じゃなぇからな! それに礼をされる筋合いもねぇぞ、テエェには!」


「ん? いえ、それでも感謝しかないです。ダンテさんがいなかったら、完全攻略は不可能でした」


 ダンテさんは攻略中、厳しい辛口だけど、微かにアドバイスを送ってくれた。

 時には無言で(うな)りながら、ボクの挑戦を見守ってくれていたのだ。

 本当に感謝しかない。


「ちっ…………魔族に礼なんて言うんじゃねぇよ。まったく、テメェと話をしていると、調子が狂うぜ」


「あっはっはっはっ……申し訳ないです」


 どうしても魔族と人の子“半魔”だという意識が、自分にはない。

 だから母から教わった“人としての礼儀”が、つい出してしまうのだ。


「ふん、そうか。おい、ところで、これからお前は、どうするつもりだ? 早速、勇者を探して、惨殺しに行くのか?」


「いえ、いきなり殺しには行きません。だって、それじゃつまらないでしょ? ちゃんとアイツ等の身辺調査をして、最高の復讐をプレゼントしようと思います!」


「はっ! 相変わらず、その部分だけはブレない奴だ、テメェは」


 この七年間、勇者六人に復讐することだけを考えてきた。

 だから焦って急いだりしない。


 予定として、まずは自分の身を隠しながら、アイツ等の近くに潜入。

 対象者が一番大事にしているモノを調査。


 それを最高の形で壊して、絶望を与えてから、復讐をしていくのだ。


「ボクの調査によると今、連中は《勇者育成学園》という教育機関で、教師をしているようです。まずはそこに潜入してみます」


「《勇者育成学園》か……次世代のクソ勇者を育成する、あの厄介な場所か。それは面倒だな。ん? なんで、テメェは地上の情報を知っているんだ?」


「はい、実は第四層で会得した《究極探知(エクス・スキャン)》という能力で、地上の様子を探っていたんです」


 《究極探知(エクス・スキャン)》の能力はかなり便利。

 遠くの場所の情報を入手できるのだ。


 弱点としては、結界が張られている場所や、隠密で消えている相手は、知ることは難しい。

 あとは相手にも感知される危険性もある。


 だが上手く使えば、探知もされにくい。

 今回のように対象者本人ではなく、まずは周りの人を探知。

 それから情報を得ることで、勇者相手にも気がつかれずに、情報を得ることを可能なのだ。


「なっ……《究極探知(エクス・スキャン)》っていったら、またSランクの特殊能力じゃねぇか⁉ まったく引きが強ぇな、テメェは!」


「あっはっは……ラッキーでしたね、ボクは」


 今回の試練のお蔭で、七つの特殊能力を入手することが出来た。

 《究極探知(エクス・スキャン)》と《真偽魔聴(しんぎまちょう)》など戦闘用ではないが、全て使える特殊能力ばかり。

 勇者に復讐するために、有効な手段ばかりなのだ。


 あと七体の魔人の力を吸収して、ボクの剣も凄く進化していた。

 能力は強力すぎるので、まだ試してはいない。


 一応は名前を《七魔剣(セブンス・ソード)》と名付けている。

 勇者相手に使うのが、今から楽しみだ。


「Sランク特殊能力のオンパレードときたか。まったく、とんでもない化け物を、姉上は残してくれたな。だが覚えておけ、クソガキ。勇者も規格外の加護を持つ、最悪な存在だ。今のテメェ一人でも危ない可能性がある。だから仲間を見つけることだな!」


「仲間ですか。たしかに、そうですね。アドバイスありがとうございます!」


 仲間を集めることは、実は自分でも考えていた。


 何しろ相手も普通ではない。

 何回も魔王を討伐してきた勇者の力を、連中も持っているのだ。


 おそらくボクと同等の加護や特殊能力を、有している可能性が高い。

 だからサポートしてくれる仲間が欲しかった。


「とりあえず仲間は探しながら、地上で動いていきます。ん?」


 ――――その時だった。


 誰かが《地獄門ヘル・ゲート》の前にやってくる。

 人型の男の魔族だ。


「おや? そこにいるのは《裏切り一族》のダンテではないか?」


「ちっ……ニクロスか。面倒な奴が来たな」


 やって来たのは、ニクロスという名の魔族。

 態度からして、かなりの上級魔族なのだろう。

 ダンテさんに対して、かなり厳しい言葉を放ってくる。


「ん? この人族臭いのは? もしかして、そっちの小僧は、半魔か⁉ はっはっは……ダンテも落ちたものだな! まさか半魔を側におくとはな!」


「ちっ……」


 あのダンテさんが一言も返さずにいる。

 どうしてだろう。

 よほど身分の相手なのだろうか。


「ダンテ叔父さん、あの人は……?」


「あいつは魔族皇太子ニクロス。今の魔界で、高い地位にいるクソ野郎だ」


 魔族皇太子ということは、今の魔王の息子なのだろうか。

 それならダンテさんが我慢しているもの、何となく納得がいく。


「ん……『ダンテ叔父さん』だと? なるほど! その半魔の小僧は、あの《裏切りリリス》の息子か⁉ はっはっは……これは傑作だな!」


 リリスはボクの母さんの名前。

 でも《裏切りリリス》とはどういう意味だろう。


「ん? その顔だと、当人は知らないのか? お前の母リリスは、魔王族の血を引きながらも、その責務を破棄。こともあろうか人族の男と、駆け落ちをしたのだぞ!」


「えっ……母さんが、魔王族の血を引いていた?」


 まさかの事実だった。

 でも少しだけ納得も出来る。


 母さんは、どこか品があり、お姫様のように美しい人だった。

 魔族のお姫さまだったのか。

 ちょっとだけ嬉しくなる。


 ――――だが次の言葉で、ボクの感情は反転する。


「そうか《裏切りリリス》の息子か! 人族の男に腰を振った、あの売女の息子か! こいつは傑作だな! はっはっは……!」


 大事な母さんのことを、ニクロスは売女呼ばわりしてきた。

 最低な侮蔑の言葉を、息子であるボクに吐いてきたのだ。


 ドス黒い感情が、ボクの心から湧き上がってくる。


「ふう……ねぇ、ダンテ叔父さん。コイツ、“殺して”いいですか?」


 怒りで頭の中が沸騰しそうだ

 だが《七大地獄(セブンス・ヘル)》を踏破して、ボクは冷徹さも身につけていた。

 だから無礼な相手に対して、静かな怒りで対応することにしたのだ。


「な、何を、言ってやがるんだ、クソガキ⁉ さっきの話を聞いていなかったのか? こいつは仮にも魔族皇太子なんだぞ⁉ 殺していい訳だいだろうが!」


 そうか殺したらマズイのか。

 でもボク的には、コイツは許しておけない。

 何や良いお仕置き手段はないかな?


 ――――そう思った時だった。


 ボクの背後に“何か”が出現する。


 七つの巨大な魔の力が、急に出てきたのだ。

 こんな時に、いったい誰だろう?


「ば、馬鹿な……あ、あれは……」


 最初に声を出したのは、前にいるニクロス。

 顔を真っ青にしながら、ボクの後ろを凝視ている。


 かなり怖いモノを見ている表情だ。

 いったい何がいるんだろう。

 とりあえず見てみることにした。


「あっ……キミたちは……」


 ボクの背後にいたのは七人の魔人だった。

 《嫉妬(しっと)のレヴィ》と《(たいだ)のベルフェ》をはじめ、最後の《傲慢(ごうまん)のルシファ》まで。

 七人が勢ぞろいしていた。


 みんなボクの方に向かって、膝を付いている。

 この物々しい雰囲気は、一体どうしたのだろう。


「はっ! 我々は主ライン様に、永遠の忠誠を誓うモノたち。本日よりライン様の手足となります!」


 七大魔人のリーダー格、《傲慢(ごうまん)のルシファ》が宣誓してきた。

 なんと七大魔人の全員が、ボクの仲間になってくれという。


 言い分によると《七大地獄(セブンス・ヘル)》を最初に完全踏破した者に、彼らは忠誠心を誓うというのだ。


 それに最初に反応したのは、またニクロス。


「ば、ば、馬鹿な……あの《七大地獄(セブンス・ヘル)》を完全クリアだと⁉ 歴代の魔王様でも不可能だったのに⁉ こ、こんな半魔の小僧が⁉」


 信じられないような表情で、ボクのことを見てくる。

 明らかに怯えていた。


「ライン様。その無礼な者を、処罰してもよろしいでしょうか?」


「別にいいけど、一応は皇太子みたいだから、“殺さない”であげてね」


「はっ! 【無限回廊地獄(むげんかいろうじごく)】!」


 《傲慢(ごうまん)のルシファ》は必殺の暗黒術を発動。


「なっ⁉ アギャー⁉」


 直後、ニクロスは漆黒の空間に堕ちていく。


無限回廊地獄(むげんかいろうじごく)】はボクも試練で、何度も食らった強力な術。

 死ぬことはないけど、死よりも辛い無限地獄に落ちてしまうのだ。


 あれは本当に辛かった。

 戻って来た時、ボクは何度も廃人になりかけたものだ。


 シュン!


 あっ、ニクロスが戻ってきた。

 髪の毛が全て抜け落ち、顔に生気がない。

 死んでないけど、廃人になってしまったのだ。


 まぁ、自業自得だ。

 お蔭で静かになったし、放っておこう。


 そして何より今のボクは機嫌が良い。

 何しろ最強の七人の魔人が、忠実な仲間として配下になってくれたのだ。


「よし、それでは完全な復讐のために、皆で地上に行くぞ!」


「「「はっ!」」」


 最強の魔剣《七魔剣(セブンス・ソード)》と、七大魔人の仲間を手に入れた。


 勇者たちへの最高の復讐劇が、こうして幕を開けるのであった。


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