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第5話:進化と会得

 三年の年月をかけて、第一階層の《第一地獄ジャーナ》をクリアする。

 《嫉妬しっとのレヴィ》を倒したのだ。


 シュ…………


 巨大な蛇《嫉妬しっとのレヴィ》が地面に消えていく。

 彼女はどうなるんだろう?


「はん! 他人の心配とは、随分と余裕だな。安心しろ。魔人はしばらくしたら、またここに復活する」


「あっ、ダンテ叔父さん。そうだったんですか」


 何となくホッとする。

 この三年間、《嫉妬しっとのレヴィ》には一日も欠かさず、剣を交えてきた。


 戦友のような、師匠のような、不思議と情が湧いていたのだ。

 消えていくレヴィに向かって、小さく頭を下げる。


「はぁ? 自分を一万回も殺した魔人に、感謝する奴なんで、初めてみたぜぇ! お前、頭おかしいのか?」


「すみません。小さい頃からママに……母に教えらえてきたので」


 母は色んなことを教えてくれた。

 その中でも大事なのは、他人に敬意を払い、世話になった者に感謝をすること。

 復讐鬼になった今のボクも、そのことは身に付いていたのだ。


「ちっ、姉上か。まったく姉上も、あの性格さえなければ、今ごろは……」


 ん?

 ダンテさん、少しだけ表情が曇る。

 今までの乱暴な顔ではない。

 家族を想う、姉を想う弟としての表情なのかもしれない。


 ヒュィーーン!


 そんな時だった。

 ボクの右手に持つ零剣が、赤く発光する。

 《嫉妬しっとのレヴィ》の消えた場所から、何かのエネルギーを吸収していた。


 ――――シャウン!


 吸収の発光が消えて、自分の目を疑う。

 剣の形状が変化していたのだ。


「これは……?」


「それが《嫉妬しっとのレヴィ》の力を吸収して進化した、第一形態……“壱剣ファースト・ソード”だ」


「“壱剣ファースト・ソード”……なるほどです」


 ダンテさんの最初の話だと、ボクは階層をクリアする度に力を得ていく。

 《七大地獄セブンス・ヘル》には全部で七つの階層がある。

 つまり剣は最高で七段階まで進化をしていくのだろう。


「ん? 左眼が……?」


 急に左眼が痛み出した。

 視界がグルグル回転して、奇妙な感じになる。


「そいつが第一地獄をクリアして、会得した特殊能力。その感じだと、おそらく“魔眼まがん”だな」


「えっ、魔眼まがん? “おそらく”ということは、人によって違うんですか?」


「ああ、そうだ。何を会得できるかは、そいつの資質しだいだ。それに魔眼まがんにも色んな種類がある。最低のFランクの《一里眼いちりがん》から最高ランクSの《即死眼そくしがん》まで、魔眼まがんだけでも数百の種類がある」


 なるほど、会得できるのは人によって違うのか。

 それなら高ランクじゃなくてもいいから、“有能”な魔眼まがんだといいな。

『勇者に復讐するために、有能な魔眼まがんと特殊能力』が欲しい。


「はっはっは! クソガキのくせに、相変わらず復讐心だけは、ブレねぇな!」


「そうですね。少しだけ強くなっても、まだボクは十歳の非力な人族の子どもなので」


 三年間の試行錯誤で分かったことある。

 この《七大地獄セブンス・ヘル》では肉体や魔力の強さは、それほど意味を成さない。

 重要なのは心と精神と魂を、いかに強く鋭く真っ直ぐに、持つことだ。


 だからボクは“自分自身”を絶対的に信じていた。

『死んでも必ずアイツ等に、復讐をしてやる!』という自分の復讐心を、一日たりとも忘れなかったのだ。


「ふん。三年前よりも少しは、マシな面構えになったな。それじゃ、次にいくぞ」


 ボクの返事も聞かず、ダンテさんは先に進んでいく。

 気が付くと目の前に、大きな扉があった。


「この先が第二階層だ」


 ダンテさんは門に手をかける。

 ゴゴゴゴー、と大きな音を立てて、門が開いていく。

 二人で中に入ると、また大きな音を立てて、地獄門は閉まってしまう。


 足を踏み入れた直後、ボクたちは別の空間に移動していた。

 ここが第二階層なのだろう。


「さて、ここが第二の階層……《第二地獄モアブ》だ。そして、アイツが階層の主、《怠惰たいだのベルフェ》だ」


「えっ……あの人が?」


 ダンテさんが指差した先にいたのは、一人の青年だった。

 短めの金髪で、真っ白な肌。


 歳は人でいったら十八歳くらい。

 杖を持っているローブを着て、好青年な魔術師のように見える。


「なるほど。今回はあの人を認めさせるか、屈服させればいいんですよね!」


 前回の最初よりも、今は少しだけ自信が出てきた。

 何故なら《怠惰たいだのベルフェ》は、それほど肉弾戦は強くなさそう。


 《嫉妬しっとのレヴィ》を倒した時のように、ひたする接近戦を挑めば、簡単に倒せる気がするのだ。


「だが、あの《怠惰たいだベルフェ》には……」

「いきます!」


 ダンテさんの話を最後まで聞かない。


 ボクは一気に斬り込んでいく。

 狙うは《怠惰たいだのベルフェ》の急所と思われる場所。

 進化した“壱剣ファースト・ソード”で、一気に勝負を決めにかかる。


 ――――だが思惑は見事に外れる。


 ガッ、キーーーーン!


 ボクの斬撃は直前で、弾かれてしまう。


「くっ! どうして⁉」


 その後も連撃を加えていく。

 だが微動たりしない《怠惰たいだベルフェ》に、全ての斬撃は弾かれてしまう。


 これは防御壁などという、生易しいものではない。

 時空が歪み、攻撃が弾かれてしまうのだ。


 ――――直後だった。


 ……【《怠惰黒炎地獄レイジ・ヘル・ファイアー》】


 何かの呪文を発動される。


 ゴォオオオオオオ!


 直後、ボクの全身が、漆黒の炎に包まれる。


「くっ⁉ 転がって消化しないと⁉ なっ、消えない⁉」


 受けた攻撃は特殊な魔法。

 決して消すことが出来ない、黒い炎だった。


「ああああ、熱い! 熱いよー!」


 全身の水分が沸騰。

 生きたまま全身が、焼け落ちていく。


 信じられないほどの激痛だ。

 先ほどの《嫉妬しっとのレヴィ》の消化地獄以上の、激痛と苦しみだった。


 ――――そし意識が途絶える。またボクは死んでしまったのだ。


 直後、肉体は復活。


「くっ……今のは」


 気が付くと、またボクは元の場所に立っていた。

 ため息をつく魔族公爵ダンテが、隣にいる。


「はぁ……人の話は最後まで聞くもんだぜ、自信過剰なクソガキさんよ。ちなみに《七大地獄セブンス・ヘル》の中で、あの《怠惰たいだのベルフェ》には一切の物理攻撃が効かない」


「えっ……一切の物理攻撃が効かない」


 まさかの事実に言葉を失う。

 だが先ほどの感触は、明らかに普通ではなかった。

 つまり本当に物理攻撃が効かないのであろう。


「それじゃ、どうやって……」


「簡単さ。物理攻撃は効かないが、魔法は効く。ただし《怠惰たいだのベルフェ》は魔族レベル6,000で、魔界有数の魔法障壁の持ち主だ」


「えっ……それって……」


「まぁ、頑張れよ、クソガキ」


 くそっ。そういうことか。

 前回の強くなった剣術と接近戦が、まるで意味が無くなった。

 この階層では、一から魔法を練り上げていくしかないのだ。


「でも……やってやる! 必ず力を得てやる!」


 《第二地獄モアブ》の主《怠惰たいだのベルフェ》に魔法で挑む日々が、こうして開幕するのであった。


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[気になる点] 色つきのビックリマーク使うのやめて欲しいです。 普通のビックリマーク使ってください。
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