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第32話:種明かし

 《怠惰(たいだ)のベルフェ》を倒し、勝利を確信していたレイチェル=ライザールに向かって、ボクは言い放つ。


 ――――まだ勝負は終わっていないと。


「それでは“種明かし”をしてやろう! 無能なキサマにも理解できるようにな! 【強制召喚(エクス・サモン)七大魔人(セブンス・デーモン)】!」


 ボクは魔法を発動。

 《七大地獄(セブンス・ヘル)》を制覇した者だけに使える、特殊な召喚魔法だ。


 シュワ――――ン。


 直後、目の前に、一人の男が姿を現す。

 短めの金髪で、眠そうな顔の青年だ。


「なっ……ベルフェだと⁉ どういうことだ⁉ 復活魔法か⁉」


 まさかの光景に、レイチェル=ライザールは目を丸くしていた。

 大賢者の杖を構えて、こちらを警戒している。


 これが復活魔法だと?

 現物を出して種明かししてやっても、この愚かない大賢者は、まだ理解できていないのだ。


「はっはっは……まだ分からないのか? 今のは復活魔法などではない! このベルフェこそが本物。先ほどキマサが一生懸命に倒したのは、義体だったのだ!」


 愚か者にも分かるように、レベルを下げて説明してやる。

 先ほどの《怠惰(たいだ)のベルフェ》は、いつもの学園生活をしていた義体ベルフェ。


 ボクにも初見では分からない高い精度で、ベルフェは義体はバージョンアップしていたのだ。


 本体は寮の自室で休んでいた。違和感に気がついたボクは、強制の召喚魔法でベルフェの本体を呼びだしたのだ。


「…………さすがライン様です」


 少し気まずそうに、ベルフェ本体は褒めたたえてきた。


 まったくこの男は……本当に究極の怠惰な性格。

 戦いをサボるためには、精巧な義体を更にバージョンアップしていたのだ。


「なっ……バカな⁉ 先ほどのが義体だと⁉ あの手応え……しかも鑑定の結果も、完璧な本人だったはずなのに⁉ この大賢者であるアタシですら見破れなかったなんて⁉」


 事実をまだ受け入れられず、レイチェル=ライザールは言葉を失っている。

 人族にはして多少か賢いかもしれない。

 だが戦いで一番重要な、“観察力”が甘すぎるのだ。


「どうする大賢者様、ギブアップするか? 今なら楽に地獄に招待してやるぞ?」


「ふ、ふざけるな、ライン! 本体が出てきたところで、問題はない! キサマら二人とも焼き殺してやる! 【漆黒地槍(ダーク・グングニール)】ぅうう!」


 半狂乱になりながら、レイチェル=ライザールは術を発動。

 先ほどベルフェを焼き殺した必殺の術だ。


 無数の漆黒の槍が、ベルフェとボクに襲いかかる。


 ガッ、キ――――ン!


 だが今度は届かなかった。

 ベルフェの周囲の特殊な結界が、すべて弾き返していたのだ。


「なっ⁉ そんな馬鹿な⁉ 先ほどは完璧に攻略していたはずなのに⁉」


 まさかの結果にレイチェル=ライザールは再び言葉を失う。

 《怠惰(たいだ)のベルフェ》の反射の防御壁は、【漆黒地槍(ダーク・グングニール)】によって完全に貫通できるはず。


 何が起きたかコイツは理解できずにいたのだ。


「まだ理解できないのか、キサマは? いくら義体が精巧でも、戦闘力は本体に劣る。つまり、これが本来の実力なのだ」


「な、な、なんだと⁉」


「おっと、よそ見をしていいのか? カウンターがいくぞ、キサマに」


 ボクが警告してやった直後。


「……【怠惰黒炎地獄レイジ・ヘル・ファイアー】」


 ベルフェからカウンター魔法が発動される。先ほどの攻撃に対する自動反撃術式だ。


 ゴォオオオオオオ!


「ちっ……だが、それは無駄だと言ったはずだぞぉお! 《極限反射(エクス・ミラー)》!」


 レイチェル=ライザールは反射系の術を発動。

 白銀の光で【怠惰黒炎地獄レイジ・ヘル・ファイアー】の炎を、ベルフェに弾き返そうとする。


 ゴォオオオオオオ!


 だが事件が起きる。

 対抗魔法は効かなかった。レイチェル=ライザールの全身に黒い炎が燃え移る。


「な、な、馬鹿な⁉ 《極限反射(エクス・ミラー)》! 《極限消火(エクス・キュア)》! ひっ、消えない⁉」


 焦ったレイチェル=ライザールは、次々と対抗魔法を連発。だが、全ての魔法は効果がない。


「ひっ⁉ ぎゃあああああ、熱い! 熱いよ――――!」


 レイチェル=ライザールは情けない悲鳴を上げ始める。

 そのまま全身の水分が沸騰。

 生きたまま全身が、焼け落ちていく。


「あがぁああああああ!」


 信じられないほどの激痛に、声にならない甲高い叫びを発していた。


怠惰黒炎地獄レイジ・ヘル・ファイアー】は普通の炎攻撃ではない。

 辛うじて生きているのが災いして、苦痛が無限のように続いていくのだ。


「ふむ。素晴らしい響きだな、これは!」


 無様な叫びが第二階層に響き渡る。

 ボクにとっては、優美な交響曲(シンフォニー)のように心地よい。


「ん? 死んだか」


 レイチェル=ライザール断末魔が聞こえなくなった。

 完全に命が尽きたのだろう。


 ――――そして次の瞬間。


 シュン。


 レイチェル=ライザールが姿を現す。

 焼け死ぬ前の火傷一つない外見だ。


「えっ……? こ、こ、これは、どういうこと⁉ アタシはたしかに焼け死んだはずなのに⁉」


 レイチェル=ライザールはマヌケ顔で、立ち尽くしていた。

 自分に何が起きたか、理解できていないのだ。

 大賢者を名乗っているが、所詮はゲスで無能な勇者なのだ。


 低能な奴にも分かるように、ボクは教示してやる。


「この空間では肉体は滅ぶことはなく、常に再生し続ける。だから互いに“魂の勝負”になる。理解したか?」


「“魂の勝負”だと……? はっ⁉ ま、まさか、あの地獄の苦しみを、また受け続けないといけないのか⁉」


 前回のバーナード=ナックルとは違い、レイチェル=ライザールは理解していた。

 自分が置かれている窮地を察し、全身を震わせている。


 相手の《怠惰(たいだ)のベルフェ》には、自分の攻撃魔法が通じない。

 失敗したら防御不能の【怠惰黒炎地獄レイジ・ヘル・ファイアー】によって、またカウンター攻撃を受ける。


 肉体はすぐに復活するが、焼け落ちる地獄の苦痛の恐怖は、魂を侵食していくのだ。


「ひっ……あんな苦しみを、何回も耐えられるはずはないではないか⁉」


 ようやく自分が置かれている状況を理解して、レイチェル=ライザールは恐怖の表情を浮かべる。

 背中を見せて逃げ出していく。


「臆病者め。いけ、ベルフェ!」


 こうして復讐のパーティーは“メインダンス(絶叫)”へと突入していくのであった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 七大地獄で生き返るのは魔族だけではなかったのですか?
[気になる点] もしや復讐方法って相手の魔人が変わるだけでワンパターン?
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