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桜のような人生を君と  作者: ほっぺむ
5/20

名前

オレンジ色の豆電球の明かりの下で、テンは母・可奈子の肩に頭を預けるように抱かれ、ゆらゆらと揺られた。


「ねーんね。ねーんね」と囁く可奈子の声と、背中をトントンと優しく叩く手がとても心地よい。


仕事から帰ってきた父・達弥が、スーツ姿のまま可奈子の後ろからにこにこと見守り、その後ろに浮かぶレイも、穏やかな笑顔で一緒になってゆらゆらと揺れている。


「おぅー」―サーチャンって言ってましたけど、私のことですか?


―さぁちゃんって可愛いわよね。本名は「小柳津(おやいづ)さくら」っていうのよ。


「あぅあぅ」―サクラ?それが今の私の名前ですか?


―そうよ。テンが見るのを楽しみにしてる、あの桜よ。


「おー?」―木のお花の?


―そうそう。私が決めさせちゃった。


サクラとサチとサキコであまりにも悩んで決まらなかったので、両親にギリギリ見えるか見えないかの波長で「さくら」の文字に光を射し、ギリギリ聞こえるか聞こえないかの波長で「さくら」と囁いたのだという。

御告げ係がよく使う手法だそうだ。


とにかくどうしても「さあちゃん」と呼びたかったらしい、とレイが笑った。


―桜のように、人に愛されて人を癒す存在になるようにって願いが込められているのよ。


「ああぇ?」―えっ、名前に意味があるんですか?


さくらが大きな声を出したので、達弥と可奈子は驚いて顔を見合わせ、声を抑えて笑った。

レイもつられて笑いながら


―そうよ。いいわよね~

と返し、揺られるテンの頭の上にうつ伏せになり、ひとつ大きなあくびをした。


天界では名前は人を識別するための記号でしかなく、そこに特別なものは込められていない。

テンは目を輝かせた。


(願いを込めて名前をつけるなんて素敵!)


「逆に目が冴えてきちゃってない?」


達弥が可奈子に耳打ちした。


「たっくんが見てるからじゃない?ちょっとそのまま寝たふりしてみてよ」


「寝ないなら俺抱っこしたいんだけど。俺が寝かしつけるからお願い!」


懇願する達弥に可奈子は嬉しそうに微笑むと、肩にもたれさせていたさくらを慎重に達弥の腕に渡した。

テンの頭に乗っていたレイもふわりと浮かび上がり移動した。


レイが達弥の肩の上から覗き込みながら、サチは「幸せになり、幸せを与えられる人間になるように」、サキコは「花のように咲き誇る一生になるように」という願いだった、と補足した。


達弥ががっしりとした腕に仰向けに抱くと、綻んだ頬をさくらの額にぎゅっと押し当てた。

達弥の毛穴から飛び出そうとする髭が、ざりざりと当たった。


「ちゃくら~!可愛いなぁ。あー可愛い。絶対幸せになってな」


体全体をすっぽりと包む腕に安らぎを感じ、さくらは力を抜いた。


「おー、あーぃ」―お父さん、お母さん、ありがとう。


笑った!と達弥と可奈子が同時に声をあげた。


「ちょ、見た今の?めちゃくちゃニッコーって笑ったな。可愛い~」

「ねぇ~!写真撮っとけばよかった!さぁちゃん、ととさんの顔がそんなに面白いのー?」

「いやぁ惜しかった。シャッターチャンスだった」


(コウさんは、どんな名前になったんだろう。どんな意味を込められたんだろう)


どんな姿に生まれたんだろう、早く会いたいな、と思いながらさくらは心地よい眠りについた。



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