閑話、死神と呼ばれた殺人鬼
・・・僕は殺人鬼だ。しかし、快楽殺人者では断じて無い。猟奇殺人者でも無い。とはいえ、決して僕は勢い余り殺した訳でも、カッとなって殺した訳でも無い。無いと断言出来る。
周囲の認識では、僕の殺人に理由や目的は存在しない事になっている。しかし、その情報は正確には正しいとは言えないだろう。僕には、自己を満たす為の目的が存在しない。無論、他者の為でも無い。
僕は、救いを求められたから。助けを求める声があったから助けた。・・・それだけだ。
しかし、それもやはり正義の味方を気取っている訳でも人助けのつもりもさらさら無い。僕は本当に人でなしだと断言出来る。人を助ける為、人を害するなど最悪といっても良いだろう。
僕は人を殺す事でしか、人を救う事が出来ない壊れた人間だ。いや、或いはもう人間ですら無いのかも知れないな。僕は、殺人鬼という名の人を殺す鬼だ。そう、鬼なんだろう。
人を救う為に殺して、殺して、殺して、殺す・・・それは、もはや人間の所業では無い。
救いがたい巨悪だろう。しかし、それでも僕はそれを止める事が出来ない。それは、何よりも僕が壊れているからだ。僕は人を救い、人を殺す事でしか心の中の虚無感を埋める事が出来ない。
いや、そもそも虚無感が埋まった事など一度も無い。僕は、何時だって虚無感を引き摺っていた。
何時だって、胸の奥には何も感じなかった。何もありはしなかった。僕は、空虚な存在だ。
・・・それに初めて気付いたのは、一体何時の話だったか。とにかく虚しかったのを覚えている。
虚しくて、虚しくて、虚しくて、どうしようもなく空虚だった。それが、耐えがたかった。
そうして、人を救い、救い、救い、殺し、殺し、殺し・・・人を救った数だけ、僕は血に塗れた。
ああ、理解している。僕はもう、後には戻れないと。もう、僕は何処にも戻る事など出来ない。もはや僕は人間に戻る事など出来はしないんだろう。僕は、人でなしだから。怪物だから。化物だから。
そうして、人を殺している内に・・・気付けば僕は、死神と呼ばれていた。
・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ある古いアパートで、男はパタンと一冊の手記を閉じた。その手記は、本棚の裏の金庫に巧妙に隠されていたのを男が探し出して見付けた物だ。とはいえ、男は盗人という訳では無い。
むしろ、罪を犯した者を捕まえる側の人間だ。男はそっと溜息を吐くと、頭をがりがりと搔く。どうも見付けた物は探していた以上の代物だったらしい。一体どうすれば良いのか?
流石に、爆弾要素が強すぎて扱いに困るだろう。しかし、これは何よりも雄弁な証拠品だ。
だからこそ、放っておく事など男には出来ない。職業柄、そんな事は出来ない。
・・・男は、その手記を手にアパートを出ていった。
一人の行方不明者の残した、一冊の手記。