表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しの星辰《ほし》リメイク  作者: ネツアッハ=ソフ
死病遣いと死神殺人鬼
7/66

5、王と死神

「ひっく・・・っぐ・・・・・・うぇぇっ」


「すまん、そろそろ()き止んでくれないか?」


 ルビの背中を()でながら、僕はそう言った。しかし、ルビは嫌々と首を左右に振って聞かない。


 しかし一体どれくらい時間が過ぎただろうか?軽く三十分は()ぎているのではなかろうか。そろそろ泣き止んで欲しい所だと思う。まあ、ルビが泣いたのは僕の責任(せきにん)だから仕方がないのだが・・・


 ルビはぎゅっと更に強く抱き付き僕の胸に顔を()し付けてくる。ああ、もう僕のシャツがルビの涙とか何かで大変な事になってるよ。もうぐしょぐしょだ。うぇぇっ・・・


 思わず僕は顔をしかめた。しかし、これも僕の責任ではあるので我慢(がまん)するしかないのだが・・・


 そっと、僕は溜息を()く。どうした物だろうか?と、その時・・・不意(ふい)に視線を感じた。


「ふむ、そろそろ()いかな?」


「っ⁉」


「っ、ふぎゅぅっ!!?」


 僕は咄嗟(とっさ)にルビを押し退け、飛び起きた。そして、ルビを(かば)うようにさっと彼女を背後に隠す。ルビは顔を思い切り打ち付けたようで、顔面を押さえて涙目になっている。涙目で、僕を見ている。


 ・・・しかし、今はそれどころではない。目の前には華美な戦装束を身に(まと)った男が居た。


 ターコイズはその姿を見て、目をこれでもかと見開いている。恐らく、この男が・・・


「貴方が、アルカディア国王(こくおう)か?」


「・・・そうだ、()がアルカディア国王。ラピス=アルカディアだ」


 アルカディア国王、ラピスは王者の威風(いふう)を身に纏い、そう名乗った。ふむ、確かにこの男が国王で間違いはなさそうだ。この覇気(はき)はそうそう影武者に真似出来る物ではないだろう。


 先程から、肌を刺すような鋭い覇気が僕を突き刺す。空気が少し重苦しい?


 ラピスは視線だけでターコイズを見る。その視線に、ターコイズはびくっと(ふる)えた。しかし、どうやら部下の粛清(しゅくせい)に来たという訳でも、ルビの再封印に来た訳でもなさそうだ。


 周囲には他に気配は無い。恐らく、国王一人で来たのだろう。わざわざ、此処(ここ)までだ。


 だとすれば、一体何の用だ?僕は怪訝(けげん)な顔をする。何の為に、わざわざ一人で此処まで来た?


 そう訝しんだが、しかし国王は意にも介さなかった。


「・・・部下が先走った真似をして済まなかった。余からも()びよう・・・」


「へ、陛下(へいか)っ⁉」


 ターコイズが愕然(がくぜん)と叫ぶ。しかし、ラピスはそれを意に介さず、静かに頭を下げた。


 その姿に、僕は思わず拍子抜(ひょうしぬ)けする。思わず、怪訝な顔で問い掛けた。


「・・・一応聞いておくが、ルビを再封印する気は無いのか?一応、貴方は国王でしょう?」


 その言葉に、ルビがびくっと震える。そっと僕の背後に隠れ、(おび)えた瞳でラピスを見た。その姿にラピスは流石に苦笑を漏らした。その姿が、あまりにも弱々(よわよわ)しかったからだ。


 ラピスは首を左右に振った。そして、(おだ)やかな瞳をルビに向ける。


 その瞳は、まるで娘を見る父親のようだ。先程の覇気は既に霧散(むさん)している。


「こう言っては何だが、余はその娘を封印する事には賛成しておらん。その娘を犠牲(ぎせい)にして得た平和なんぞは所詮仮初(かりそめ)に過ぎぬのだ。故、むしろそちが封印を解いてくれて感謝している」


「・・・そうか。そりゃどうも」


 僕は照れ隠しにそう答えた。そんな僕に、ラピスは微笑みを向ける。実に楽しげだ。


 どうやら杞憂(きゆう)だったらしい。国王は当時、民衆の混乱を鎮める為ルビの封印を黙認した。しかし国王本人としてはやはり、封印そのものには反対(はんたい)していたという。裏では、何とか封印を無事に解く方法を模索していたとか何とか。しかし、結局見付からず今に至るそうだ・・・


 当然だ。民の為とはいえ、他でもない守るべき民の一人を犠牲にするなど既に破綻(はたん)している。その時点で何かがおかしいと国王自身、感じていたらしい・・・


「そちも、本当に済まない。民衆の混乱を(しず)める為とはいえ、そちを犠牲にして申し訳ない」


「いえ、私も解っていた事ですから。当時は私が封印されれば皆が納得すると信じてましたし。やはりそれでも私は人を信じていましたから・・・」


「そうか、ありがとう・・・」


 ラピスはそう言って、優しい笑みを浮かべた。それは、娘を(おも)う父親のような笑みだった。


          ・・・・・・・・・


 ・・・と、次の瞬間。一条の光線(こうせん)が奔った。


「ぬぐぅっ!!?」


 その光線はラピスの背中から胸を貫通(かんつう)し、心臓を射抜いた。僕とルビ、ターコイズは目を見開く。


 直前にぎりぎり気付いた僕は、ルビを庇った。故に何とか僕とルビは助かった。しかし・・・


 ラピスはかなりの重傷だ。心臓を貫通し、決して少なくない血を(うしな)っている。


 見ると、ラピスの背後。遥か彼方にフードを目深に(かぶ)った魔女の姿があった。その姿を確認するとラピスは目を大きく見開き、叫んだ。その絶叫は、周囲一帯に響き渡る。


「やはり・・・やはり貴様かっ!クリスっ!!!!!!」


 その絶叫に、フードの魔女クリスは微笑みを浮かべた。その笑みを見たターコイズの中で、何かが切れるような音がする。それは、果たして何が切れた音か?


 ターコイズが天にも届かんばかりの咆哮(ほうこう)を上げる。そして、足元の大地を踏み砕かんばかりに踏み締め地を疾走する。残像を置き去りに、駆け抜けるターコイズ。


「っ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!」


 一気に駆け抜け、己の背丈程もある大剣で斬り掛かった。しかし、遠すぎる。


 クリスは嘲笑を浮かべ、そのまま消え去った。ターコイズの大剣が(むな)しく空振る。斬風が空間を撫でて通り過ぎるが其処には既に誰も()ない。魔女の姿は、もうそこに居ない・・・


 まるで、最初から誰も居なかったかのように。其処には既に誰も居なかった。恐らく、空間転移。


 テレポートの(たぐい)だろう・・・


 ターコイズは、(あわ)てて振り返る。其処には、既に虫の息のラピスが僕に()きかかえられていた。


 その瞳は既に何も映してはおらず、ヒュー、ヒュー、と(たよ)りない呼吸を繰り返すのみ。


「っ、陛下!!!」


「・・・・・・っ、ごふっ‼ターコイズ卿、命令だ。すぐに境界(きょうかい)の山脈を越え、魔王領にっ行け。そしてそこに居る・・・っ、二人を連れて、魔王(まおう)コランを頼るのだ・・・」


「陛下っ‼くそっ・・・どうすれば・・・・・・」


 ターコイズは(あせ)る。焦るがばかりで国王を救う方法が浮かばない。そうしている間にも、ラピスの身体は冷たくなるばかりだ。もう、命はあと(わず)かだろう。


 ラピスの胸元から流れる血が止まらない。次第に、その顔から血の気が()せてゆく。それが、更に僕達の焦りを加速させてゆく。しかし、どうにもならない。此処は人気の無い封印の洞窟前だ。


 宙をさまよう手を、ルビが(にぎ)り締める。ラピスは、ルビに微笑み掛けた。


 血の気が失せたぎこちない笑み。しかし、その笑みに僕達は笑みを返す。もう理解(りかい)していた。既にラピスの命は残り僅かだと。理解したからこそ、それぞれラピスに笑みを返した・・・


 ルビなんか、涙をぼろぼろと流していたけど・・・


 諦める気は無い。諦める訳にはいかない。けど、もう既に気付いていた。もう(おそ)いと・・・


「今まで、本当に済まなかった・・・。これからは、そちも幸せになると・・・良い・・・・・・」


 そう言うと、ラピスの瞳から命の炎が()えた。その顔には、満足げな笑みが浮かんでいた。


 アルカディア国王、ラピス=アルカディア。その人生に(まく)を下ろした瞬間だった。


「っ、陛下っ、国王陛下っ!!!」


「ちくしょうっ‼何で、俺は・・・・・・っ‼」


 ・・・ルビはラピスの手を握り締めて泣き叫び、そしてターコイズは地面を殴り(なげ)いた。そんな二人を目の前にして、僕は静かにラピスに(ちか)う。必ず、この(むく)いはあの魔女に支払わせると。


「必ずだ。必ず、この報いはあの魔女に・・・必ず、この死神(しにがみ)が支払わせる」


 そう言って、僕はそっと王を前に合掌した。きっと、この高潔な魂が天に()されると信じて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ