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短編集

月が綺麗だね

作者: 泣面道化
掲載日:2019/06/08

なんとなく書いてみました。

 涼やかな風鈴の音が不規則に鳴り響く。

 窓の外には小さな庭と曇った空。

 あなたはベットの上で弱い寝息を立てている。

 少し音を立てる木の椅子に座り、私はあなたを見ていた。

 何か出来ただろうか。

 何をしてきただろうか。

 何が出来るだろうか。

 私はそんな答えの出ない問いをグルグル繰り返す。

 思い出は笑い声に満ちていて、見てきた景色はとても美しくて。

 小さな咳き込み。

 あなたは優しい微笑みで私を見ている。

 あの笑い声はもう聞こえない。

 あなたには見えているのだろうか私の事が。


 涼やかな風鈴の音が不規則に鳴り響く。

 窓の外は赤く染まった。

 あなたは苦しそうに咳き込んでいる。

 音を立てて椅子から立ち上がり、私は窓を閉めた。

 拳を握りしめる。

 声の限り叫びたかった。

 荒々しくならないように気をつけて椅子に座る。

 僅かに軋む音。

 あなたは少し息を荒げている。

 弱い息。

 苦痛に歪む顔。


 風鈴の音は響かない。

 窓の外は真っ暗で月も雲に隠れている。


「月が綺麗だね」


 微かな声が聞こえた気がした。

 私はどう返しただろうか。

 そうだねと。

 月なんて見えないよと。

 戸が開く音。

 看護士さんが申し訳無さそうにこちらを見ている。

 あなたの小さな寝息。

 椅子の軋む音。

 確かに刻む足音。


 涼やかな風鈴の音が1度だけ響いた。

 窓の外には小さな庭と突き抜けるような青空。

 あなたはベットの上にいない。

 少し音を立てる木の椅子に座り私は風鈴を見ていた。

 看護士さんの呼ぶ声。

 傍らの鞄を持つ。

 椅子の軋む音。

 深く頭を下げる。

 歪む景色を歩いていく。

 蝉が鳴いている。

 指に食い込む鞄の持ち手が痛い。

 歩き疲れて公園のベンチに座る。

 軋む音は聞こえない。


 ふと響いた風鈴の音。

 空には満ち満ちた丸いお月様。


「月が綺麗だね」


 聞こえたのは誰の声?

 思い出したのはいつかの会話。

 ある文豪が外国の愛の言葉をどう訳したかなんて話。

 涼やかな風鈴の音が響く。

 いつか聞いた協会の鐘の音のように。

 軋む音は聞こえない。

 足元の景色が歪んでいるのは。

 きっと熱さのせい。

 これは、月が綺麗な夜の雨の日の話。

 そんなお話。

読んでいただきありがとうございました。

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