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短編集

月が綺麗だね

作者: 泣面道化

なんとなく書いてみました。

 涼やかな風鈴の音が不規則に鳴り響く。

 窓の外には小さな庭と曇った空。

 あなたはベットの上で弱い寝息を立てている。

 少し音を立てる木の椅子に座り、私はあなたを見ていた。

 何か出来ただろうか。

 何をしてきただろうか。

 何が出来るだろうか。

 私はそんな答えの出ない問いをグルグル繰り返す。

 思い出は笑い声に満ちていて、見てきた景色はとても美しくて。

 小さな咳き込み。

 あなたは優しい微笑みで私を見ている。

 あの笑い声はもう聞こえない。

 あなたには見えているのだろうか私の事が。


 涼やかな風鈴の音が不規則に鳴り響く。

 窓の外は赤く染まった。

 あなたは苦しそうに咳き込んでいる。

 音を立てて椅子から立ち上がり、私は窓を閉めた。

 拳を握りしめる。

 声の限り叫びたかった。

 荒々しくならないように気をつけて椅子に座る。

 僅かに軋む音。

 あなたは少し息を荒げている。

 弱い息。

 苦痛に歪む顔。


 風鈴の音は響かない。

 窓の外は真っ暗で月も雲に隠れている。


「月が綺麗だね」


 微かな声が聞こえた気がした。

 私はどう返しただろうか。

 そうだねと。

 月なんて見えないよと。

 戸が開く音。

 看護士さんが申し訳無さそうにこちらを見ている。

 あなたの小さな寝息。

 椅子の軋む音。

 確かに刻む足音。


 涼やかな風鈴の音が1度だけ響いた。

 窓の外には小さな庭と突き抜けるような青空。

 あなたはベットの上にいない。

 少し音を立てる木の椅子に座り私は風鈴を見ていた。

 看護士さんの呼ぶ声。

 傍らの鞄を持つ。

 椅子の軋む音。

 深く頭を下げる。

 歪む景色を歩いていく。

 蝉が鳴いている。

 指に食い込む鞄の持ち手が痛い。

 歩き疲れて公園のベンチに座る。

 軋む音は聞こえない。


 ふと響いた風鈴の音。

 空には満ち満ちた丸いお月様。


「月が綺麗だね」


 聞こえたのは誰の声?

 思い出したのはいつかの会話。

 ある文豪が外国の愛の言葉をどう訳したかなんて話。

 涼やかな風鈴の音が響く。

 いつか聞いた協会の鐘の音のように。

 軋む音は聞こえない。

 足元の景色が歪んでいるのは。

 きっと熱さのせい。

 これは、月が綺麗な夜の雨の日の話。

 そんなお話。

読んでいただきありがとうございました。

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