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町中の異界3

ビルからビルへと飛び移りながら睦月は二人を探す。

だが、立ち込める霧がそれを容易とはしない。


『くそ、めんどくせぇ!』


焦りだけが募っていく。

どうにか出来ないだろうかと移動を繰り返しながら考えを巡らせる。


⦅そういえば大まかな感知くらいは出来るって言ってたな⦆


睦月は目を閉じて気配を探る。


⦅確かにこの空間に漂う変な気配は何となくだけどわかる⦆


これは生きていた時では感じられなかった感覚。

けれどなぜかこの感覚が相手の呪魂だというのは理解できる。


⦅二人を襲っているってことは間違いなく二人のそばに敵がいるってことだろ? くそ……気配があたりに充満してて分かりにくいぜ……⦆


自らの魂に語り掛け、さらに深く集中していく。


⦅……なにかひと際濃い気配がある気がする……こっちか⦆


睦月は感覚に従って移動を再開する。

感じ取った気配が近づいてくる。


⦅あのビルか……。

っ!? あれは……、マズイ!!⦆


二人をようやく発見した。

その時、既に呪魂は二人を追い詰めていた。

振り上げられる右腕。

狙われた友梨佳。

それを突き飛ばすなずな。

睦月は即座に反対のビルの壁へと跳躍する。


『間に合え、間に合えええ!!』


壁が崩れそうな力で二人がいる階の窓へと飛ぶ。


――ガシャァァン!!


⦅間に合う!⦆『おらぁぁ!!』


――ギィン!


睦月の放った鎖が異形の腕をはじいた。

そのまま飛び込んだ勢いで二人を守るように背後に置き、異形の正面に相対する。

焦っているのかどうかわからないが、相手はすぐに行動を移そうとはしない。


今の隙に二人へ安心させるように声をかけ、昇陽へと連絡をする。


『間一髪だったな。

昇陽、二人を見つけた。

JOWビルの三階だ』


【でかした! 儂もすぐに行く、その場はお主に任せる】


『OK、任された。

お前も早く来いよ。

……さーって、好き勝手やってくれたな?

このお代は高くつくぜ。

支払は……』


ホルスターから拳銃を抜き、相手の頭部に向ける。

ジャラリと左腕に巻き付いた鎖が音を立てた。


『テメェの(いのち)だ』


異形がその言葉と同時に切りかかってきた。

どうやら睦月を倒さねば獲物を狩ることが出来ないと判断したようだ。


――ギィン!


睦月は慌てる様子もなく鎖で刃を受け止める。


『自慢の刃も俺の鎖は斬れねぇみたいだな、オラ!』


――キン


力任せに腕を振り上げて相手の刃をカチあげる。

目の前にはがら空きとなった頭部がある。


『人の顔の皮で出来た服とか悪趣味な、どこに売ってるんだ? まあいい、脳漿ぶちまけろ……なに?』


脳漿があるかと聞かれれば否ではあるが確実に眉間をとらえたはずの弾丸は異形をすり抜け背後の壁に当たる。


異形は即座に体勢を整え、再び切りかかってくる。


『くおっ! どうなってやがる』


再び刃をいなし、今度は鎖を伸ばして横に薙ぐ。

だが、それもすり抜ける。


『霧になって躱してる? そいつはズルいな』


「きゃあ!」


「友梨佳! うわぁ!!」


背後から悲鳴が聞こえた。

見れば二人がゾンビに掴まっている。


『こいつらは二人を相手にしないんじゃなかったのかよ!』


即座に一番近かったなずなを摑まえているゾンビの頭を殴り壊し、友梨佳の方へと銃弾を放つ。

二人をゾンビから解放し、安堵した瞬間背中に衝撃が走った。


『お前の攻撃はこっちに通るってのか……なかなか卑怯な手を使ってくれんじゃんか、なりふり構っていられなくなったか?』


呪魂骸である睦月に痛覚は殆ど無い、だがダメージはある。

二人を守りつつ攻撃の当たらない相手とゾンビを相手にするには少々荷が勝っていると言えよう。


『まだか昇陽!』


【安心せい、紫電!】


昇陽からの言葉が聞こえると同時に通路を塞いでいたゾンビたちが雷に撃たれ、崩れ落ちる。


階下から悠々と昇陽が姿を現した。


「真打登場じゃ、待たせたの」


「ひので!?」


「ひのでちゃん!」


『おせぇよ昇陽』


「二人とも無事なようじゃの、睦月よよくやった。

さて……あやつが呪魂じゃな? なんと禍々しき姿よ」


昇陽は右手を前に突き出し術式を選定する。


――不動明王、術式展開「咎殺剣」、発動待機


昇陽の目の前に陣が浮かび、そこから剣を持った武骨な腕が現れる。


「斬り裂け!」


不動明王剣が異形に向けて振り下ろされるが異形はふわりと雲散し、即座にすがたを形成した。


『気を付けろ、こいつ攻撃が効かない』


「やはり幻夢に対しては無意味か。

ならば」


――風天、術式展開「大嵐」、発動待機。


「清浄なる風よ吹き荒れろ!」


――起動。


瞬間昇陽を中心に風が巻き起こる。

それは当たりに立ち込めていた霧を吹き飛ばし、辺りを清らかな空気で包み込む。


「うそ……」


「化け物が消えちゃった……」


『……倒したのか?』


「いいや、倒してはおらん。

あ奴はこの霧を媒介にして現界しておるから一時的に風で散らしたにすぎん。

じゃが、これで落ち着いて話が出来るの」


『霧だって? それにさっきから言ってる幻夢ってなんだ?』


「異界のヌシは幻夢と呼ばれる分身体を使って中に居る獲物を襲うのじゃよ」


『分身ってことはいくら攻撃しても無駄ってことか』


「そうじゃな。

異界というのはどこかに本体となる核が必ずある。

核そのものに攻撃能力はないから見つけてしまえば倒すのは容易い。

まあ確実に言えるのは核を破壊せねば脱出が出来んという事かの」


『そもそも異界っていうのはなんなんだ?』


「そういえば説明が中断したままじゃったの。

異界というのはじゃな……」


異界、それは悪霊が獲物たる人間を引きずり込むための狩場。

いわば悪霊の世界。

敵の胃袋とでもいうべき場所。


『どういうことだ?』


「んー、家みたいなもんじゃ」


『??』


「なんて言ったらいいかのう……」


「えっと……途中からついていけなかったけど、今の話なら何となくわかった」


「友梨佳、本当? アタシさっぱり」


「要するに異界って言うのは牢屋なんだよ。

私たちがそこに閉じ込められた罪人。

ね? ひので」


「確かにその表現の方がしっくりくるかのう、罪人ではないがの。

そういう表現で言うなら儂らは間違いなく冤罪じゃな」


『今のたとえなら俺も分かった。

で、結局どうすればいいんだ?』


核を破壊すればいいと最初に言ったことはすでに頭から抜けているようだ。


「牢屋から出るには鍵が必要。

で、その鍵にあたるのが核でしょ?

という事はそれをどうにかすればいいってことだよね」


「ザックリ言うならそうじゃな。

あ、一応現実的ではない方法もあるぞ?」


『聞こうか』


「大出力の呪をぶつければ核でなくとも分身体、ひいては空間そのものにダメージを与える事が可能じゃ。

まあ、術師が5人くらいで一週間動けなくなるほど全力で呪を放たねばならんがの」


『そりゃマジで現実的じゃねぇな、しかもあくまでダメージときたもんだ』


「破壊するならそれを最低数回といったところじゃな。

ま、そういう力技もあるってことじゃ」


脳筋過ぎると睦月、友梨佳が言ったところでなずなが発言する。


「というか今普通に話に混ざっていたけど……ひのでちゃん、あなた何ものなの?」


その言葉で友梨佳がそういえばという表情になった。


「はあ……友梨佳、アンタの方がひのでちゃんと付き合い長いんだからさぁ……」


「私はひのでがこんな事できるなんて知らなかったよ。

というかオカルト好きな私でもこんな体験初めてだし信じられない。

なずながいるから現実なんだろうとは思ってるけどそうじゃなかったら絶対夢だって思ってる」


ある意味現実逃避していたからこその馴染み具合だったようだ。

脅えて動けなくなるよりかはよっぽど良いが。


「細かい話はあと回しでよいか?

今は安全地帯ではあるがここがまだ異界という事に変わりはないからの」


「……わかった」


不承不承といった感じではあるが一応はそれでとなずなは引き下がる。

友梨佳はどっちでもいいといった感じだ。


『それで、核ってのはどこにあるんだ?』


「この異界のどこかじゃ」


『はぁ? いちいち探すのかよ』


「儂を誰だと思うておる、儂にはコレがあるじゃろが」


懐からいつもの式紙を取り出した。

やはり補助系の術の場合はこちらの方がいい。

嵩張るのが嫌だからデバイスを作ったのでは? と思うが、攻撃用の符が減るだけでかなり量が少なくなる。


『あ』


「既に何十とこの異界に飛ばして核を探して居るわ」


それほどの枚数を同時制御するのは本来であれば困難。

一般的な術者であれば平均三体、多くても五体が限界。

それを優に超える数を操り、平然としている昇陽は伊達に陰陽庁のNO,3をやってはいないという事だ。

それを知らない三人からすれば昇陽がどれほど凄いことをやってのけているのかはわからないのだが。


「む?」


『どうした』


「核の在処がわかったぞ」


『どこだ!』


「この近くじゃ、ついてまいれ」


「私たちはどうしたら……」


「ん、そうじゃのう……一応ここは安全じゃが」


『ついてきたらいいんじゃねぇか? 万が一襲われたら目も当てられないしよ、それにお前の呪なら二人くらい容易に守れるだろ?』


睦月とは違い昇陽の術は広範囲に影響を及ぼすことが可能。

現在の状況から見ても間違いない。

それを見越しての発言だ。


「そうじゃの、目の届く範囲に居てもらうほうが儂らも安心か。

助けに来ておいて合流までしてやっぱダメでしたーなんてことになったら最悪の最悪じゃ。

そういう事ならちょっとまっておれ」


――摩利支天、隠形術式「神隠」起動。


四人を不思議な光が包み込む。


「これは?」


「コレは摩利支天の力を借りた隠形術じゃ。

これで儂らの姿は相手から視認できん」


「もうなんでもいい、アタシは何が起きてももう驚かない」


なずなも思考を止めたようだ。


「詳しく説明するならば摩利支天の神格は陽炎、その身は実体がなく捉えられず、焼けず、濡らせず、傷付かないと言われておる。

古来より武士の中で信仰があったらしいの。

これはその摩利支天の力の一旦である光の屈折を利用した隠形術じゃ。

直接触れさえしなければ外部からは一切感知出来ん。

無論相手が理外の存在だとしてもじゃ。

あ、当然喋ったら位置はバレるからの」


『ステルス迷彩かよ……カッケェ……』


「さて、このままあの切り裂き魔の下へ向かうぞ。

道中ゾンビどもがおるじゃろうが一々相手をして居っては身が持たんからの」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


四人が向かったのは今までいた場所からかなり近い建設中の建物がある場所。


「(ここ?)」


「(なんか嫌な空気……)」


呟く二人に昇陽は口に指先をあてる。


「(ここからは一切喋るでないぞ、ゾンビに狙われるからの)」


その言葉に二人は先ほどの事を思い出して身震いする。


崩れたバリケードを乗り越えて敷地内に入ると昇陽の予測通りゾンビがひしめいていた。


四人はその間を縫うように慎重に進んでいく。

昇陽の後に続く二人は生きた心地がしない。

大人しく待っていればよかったと思い始めた時、資材を置いてある場所で昇陽が動きを止める。


何かあったのだろうかと全員が立ち止まると昇陽がまた動き出した。

今度は進むというより何かを探しているような動きだ。


昇陽が三人の方に振り返り、手招きをする。

近寄るとそこには地下へと続く階段があった。


ひんやりと冷たい空気が足元にまとわりつく。


昇陽は三人の目を見てコクリとうなづくと階段を降りていった。

友梨佳となずなはゴクリと唾を飲み込む。


『(置いてかれるぞ)』


睦月が背後からぼそりと二人に声をかける。

二人は互いに見つめあい、ぎゅっと口元を引き絞ってうなづきあう。


階段の下では昇陽がこちらを見て待っていた。


四人は地下へと進んでいく。

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