3話
今回、少しグロテスクな表現を含みます。
苦手な方は、あまり想像をせずに読み通して頂くだけでも構いません。
ただし、今回の描写は、今後たくさん出てくる『比喩』達に重みを持たせるように書きました。
そういった意味で、今回は今後に向けての重要な話です。
文章自体はメチャクチャ短いけどね
全く状況が掴めない。
周りのものは何一つ動いておらず、自分の体さえも動く気配が無い。
体が動かせないのって、こんなにも居心地が悪いものなのか。
息をしていない自分が怖い。
聞こえない心臓の鼓動、気味が悪い。
日常から、非日常へ。
普段から当たり前のようにあった物が、急に無くなったこの絶望感。
まるで一人だけ世界から取り残されたかのような疎外感。
そんな中で突如現れた、選択肢。
唯一、そばに来てくれた存在。
それならば選んであげたい。
なんとかして、応えてあげたい。
でも、どうやって選ぶのだろう?
試しに目で伝えようとしてみたが、どうにも伝わらない。
あーもどかしい。
ちょっと下に動いてみてよ!
そう念じたら、左側の▶が下に動いた。
んん?
……あ、分かった。
たぶんこれって、頭の中で起こってることなんだ。
それなら、なんとか納得できる。
夢にしては、意識がはっきりしてるけど。
少しだけ安心。
この現実に、端っこだけでも自分が関わっていることにほっとした。
えーっと、万年筆を持つか持たないか?
今まさに使おうとしていたから、持つに決まっている。
……でも、いいのかな。
こんなことが起こっている今、選択肢には特別な意味があったりして?
だけど、持ってはいけない理由が思いつかない。
とりあえず、早く応えてあげよう。
【答】万年筆を手に取り、クイズを解くことを選んだ。
▷ 持つ。
持たない。
選ぶと▶が▷になった。
世界が、動き出した。
色が戻り、体の拘束も解けた。
今までの世界が嘘であったかのように、流れるように時間が始まった。
苦しくない、ここは苦しくない。
息を吸うのが楽しい。
なんだか凄くすっきりした気分だ。
これが、選び取った今なんだ。
っと、気づいたら右手に万年筆を握っているではないか。
たかがこんなことに、大げさだなぁ。
「あら? 勉強するの?」
すると母が、珍しいものを見る目で近づいてきた。
言い返してやろうとした、その時。
母がつまずいた。
充電コードの束に足を取られたまま、こちらに倒れてくる。
けっこうな勢いで母の頭が近づいてきて、そして。
右手に着地した。
その瞬間を見たか見ていないかは、自分でも分からない。
目をつぶっていた。
力の限り、まぶたをきつく閉めて、ギューッと。
こんな夢、早く終わりますように。
こんな世界から、早く抜け出せますように。
目を開けたら、きっといつも通りの日常のはずだ。
楽しくって。
明るくって。
ひらり ひらり
ふらり ふらり
いつの間にか、光を失った。
……………っ!!
一気に目を開いた。
まず目に入ったのは、見慣れたカエルのぬいぐるみ。
じっと見る。
目を離さない、離したくない。
だんだん視界がぼやけてくる。
なんにも見えなくなってようやく、涙を拭い、辺りを見回した。
自室のベッドの上だった。
手には、例の本を抱えている。
開くと、最初のページにしおりが挟まっていた。
またなんにも見えなくなった。
拭っても拭っても、全然ダメ。
そんなことをしばらくしていると、
「ごーはーんー!」
母の夕飯コールが聞こえた。
その声を聞いた途端、私は大声を上げて泣き出した。