2話
ひらり ひらり
ふらり ふらり
どこか空虚で 宙に浮かぶ
そんな君だから 招待したのさ
はじめは怖い
なにもわからない
でも大丈夫
しだいに慣れる
はじめるなら早いほうがいい
だから今からはじめよう
大丈夫
じきに慣れる
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制服を脱ぎ捨て、ベッドに突っ伏した。
この開放感がたまらなく好きだ。
続けて毛布を体に巻き付ける。
ねむいねむいねむいねむい…………シャワーを浴びよう。
睡魔になんとか打ち勝ち、ベッドから這い出る。
上半身は既にベッドから出ている。
が、問題は下半身だ。
こいつはなかなか出てきてはくれない。
なんせ、毛布の中はぬくいのだ。
好き好んで出てくる下半身など、どこにも居るものか。
といってもベッドから出なければ話にならないので、腰をひねって脱出を試みる。
上半身を床にくっつけ、くねくねしながら前進する。
端から見れば、セルフ海老反り固めをしているドMに間違われるかもしれない。
だが、幸運にも周りには誰も居ない。
自室サイコー!! ガチャ。
「入っていいー?」
と言いつつも返事を待たず躊躇無く部屋に入ってきたのは姉だった。
驚きのあまり、反射的に体が跳ね上がり……足がつった。
「……なにしてんの」
自室の床とベッドを股にかけて悶絶しています。
頼むからゴキブリを見るような目で見ないで欲しい……。
「まあいいや。明日のデートに着ていくから、コート借りてくね」
そう言うと姉は、一番高いコートを掴んで部屋を出て行った。
姉に貸した物は大抵、しばらくは返ってこないし、なにより嫌なものを見られた。
きっと姉はコートを汚すし、今日見たこともネチネチ覚えているに違いない。
なんて女だ、別れてしまえ。
髪を乾かしていると、ふと森に借りた本が目についた。
表紙は、濃い緑と白の二色だけ。
題名からしても、なんだか暗い本である。
別に無理に今日これを読まなくても、明日になれば森が嬉々として語っているだろうが、宿題が終わって暇なため読んでみることにした。
中身は普通の小説だった。
主人公の男が、小説にありがちな境遇で孤独となり、その孤独を嫌って『孤独の国』を立ち上げる。
『孤独の国』とは、孤独なものを集めて、お互いを必要としあい、この世から孤独をなくす為に作られた国である。
国に入る為には、孤独であることが最低条件であり、更には『国』に認められる必要がある。
主人公は自ら『国』のキングになり、国民を孤独から解放するための確実な手段を探し始めた。
冒頭部分はこんな感じのことが書かれていた。
感想としては、
思ったよりもまともな入りで、少々驚いた。
初めて見る世界観で、不思議と心が引き込まれた。
といったところだ。
姿勢を変え、続きを読もうとしたそのとき、
「ごーはーんー!」
母の夕飯コールが聞こえてきたので、読んでいたページにしおりを挟みいそいでダイニングへと向かった。
テーブルの上には、四人分の夕飯が置かれていた。
一方、席に着いたのは三人。
父はいつも、三人が食べ終わってから夕飯を食べに来る。
……もう、気にしてなどいないというのに。
「ママー、ピルンちゃんのご飯、忘れてないよね」
「当番あんたでしょ。……あげといたわよ」
「お、サンキュー」
姉と母のやりとりのせいで、テレビが頭に入ってこない。
因みにピルンは、姉が勝手に買ってきた、ペットの白フクロウである。
リビングの隣の和室をまるまる住処としていて、たまに檻から出て家の中を飛び回る。
喋っている二人よりも先に食べ終え、使った食器を洗ってしまう。
本当は皆の食器も洗わなければいけないのに、母がそれをさせてくれない。
せめて洗濯くらいは、と頼み込んだのは思い出深い。
食器洗いをして、リビングの炬燵に入った。
うん、ぬくい。
炬燵の上にある干し柿の袋に手を伸ばしながらテレビを見る。
昔からやっているクイズ番組。
ネタは尽きないのかな? などと考えていたからか、ちょうど見覚えのある図形のクイズがでてきた。
どこかで見たことがある。絶対ある。
……なんだったっけ。
どうにも思い出せないのがもどかしい。
よし書いてやる! と思い立って、積み重なってるチラシと転がってる万年筆に手を伸ばした。
そのときだった。
突然、視界が灰色に満たされ、景色が白黒に変わった。
それだけでは無い。
あらゆるものが止まった。
時計も、テレビも、音も、そして自分の体も。
動かせるのは、眼球だけ。
世界が、止まった。
……ん?
目の前に、正確には目の前の宙に、なにやら文字が浮かんでいる。
小さいな、と思った瞬間、字ははっきりと読める大きさに拡大された。
字は黒色だったが、白黒の世界とは混ざり合うことの無い、また違った黒色をしている。
恐怖を抑え、目を通す。
【問】万年筆を持ちますか?
▶ 持つ。
持たない。
……なんだ、これ。