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ひとりぼっちと孤独の国  作者: しゅるるふしぃ
プロローグ
1/3

1話

「そこは孤独の国なんだよ、要するにさ」


 森がいつものように最近読んだ本について語っている。

 気が済むまでは終わらないだろうから、耳を傾けつつも宿題をしていた。

 放課後の教室。さっきまで居た女子グループはとうとう遊ぶ場所を決め出発したらしい。

 だから今は、ふたりきりだ。


「ひっろい荒野か砂漠の中に、ぽつんってあって。高い壁に囲まれていて、小さくはなくて、大きくもない。平和というには騒がしく、かといって争いをするには相手がいない」


 こうやって放課後まで学校に残ることは、珍しくない。

 特に残ってやらなくてはいけないことがある訳では無いのだが、しばらく学校に居たくなる。

 それはきっと森も一緒だろう。

 それが分かっているから、お互い「なぜ」とは聞かない。

 聞かれても困る。


「ひとりぼっちの国、ひとりぼっちの国民。そこでは全部が全部ひとりぼっち。あ、でも、ひとりぼっちの集まりが出来たら、それはひとりぼっちでは無くなる……かと思いきや結局はひとりぼっちに戻るんだ。少なくとも、この本では」


 森の語りは終わりが見えない。

 たぶんこのまま続けたら、夜になるだろう。

 それでもいい。

 それはいけない。

 そんなの自分じゃ選べなくて。


「つまりそこにある全てがそれぞれ違うってことなんだろうな。そこにある全てが、同じく一つずつで。実際、その国には図書館とか薬局とか文房具屋とか、お店や娯楽施設や病院に至るまで、全部一つずつしか無いって話しだ。売ってる物も置いてある物も、絶対に同じ物は無いらしい」


 空は橙色で、射す日は遠くから来ている。

 もう少ししたら、夜が来る。

 その闇に紛れて帰ろうか、いや。

 それだけは絶対にしないと、あのとき決めたから。

 

 とっくに終わっていた宿題を閉じ、曖昧な気持ちを強引にまとめた。 


「でな、こっからがちょっと怖いんだけど。もしその国に同じ物が二つ出来たら、ひとりぼっちじゃなくなったら、その二つは互いを消し合うらしい。消し合うってことがどういうことかは知らないけど、とにかくどちらかはその国から消えちまうんだ。きれいさっぱり、ね。だからさっきも言ったけど、集まったってまとまったって、結局最後はひとりぼっちに戻るんだよ」


 荷物は既にまとめてある。

 それを手に持ち、森の目をじっと見る。

 じと目で。


「面白いよな? 独りは結局何しても独りで、変わろうとしても……はいはい、日も沈んできたし帰ろうな。そんなにアピールしなくたって、そろそろ終わるつもりだったって」


 

 森が教室の鍵を教員室に返しに行っている間に、下駄箱で靴を履き替えた。

 遅れて森も下駄箱にやって来た。

 校門を出たら、森とは逆方面である。


「あーあ。本の内容まで話したかったのにな……てことで、はいこれ」


 やはり森は今まで語っていた本をこちらに差し出した。

 語った後に読ませる、ここまでがテンプレ。


「じゃ、また明日な」


 そう言って森はこちらを背に、手を振りながら歩き出す。

 そして、すぐに角へと消えていった。

 森とは反対方向に歩き出す……。


 歩き出そうとして、ふと手元の本に目を向けた。

 題名は、『孤独の国』。

 上にはルビで『ロンリネスランド』と書いてある。

 どうやら洋書のようだ。

 作者の名前を探すと、案の定英語で書いてあった。

 日本語読みすると……。

 

『ロンリネスランド』


 どうやら作者の名前は作品名と同じらしい。

 なんだか変わった本だな。

 それとも印刷ミスだろうか。


 微かな違和感を覚えつつ、家に帰った。


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