13本目
それらを適当にあしらいつつ足を進める。
町の明かりがすっかり後方にて小さくなってきた頃、ウィルが前方に見える明かりを指差し着いたと告げた。
すっかり日も暮れてしまった闇の中に浮かぶ小さな明かり。
近づくにつれ全容が見えたそれはとても小さく、今にも折れてしまいそうなほど細い燈火の樹だった。
てっきり大樹のみが光るものだと思っていた飛鳥は少しばかり驚く。
どうやら小さな方も光るようだ。
燈火の樹のそばには建築の知識などない素人が作ったような小屋が建てられていた。
よく倒壊せずに建っているものだと感心するレベルではあるが、ここに住んでいる住人と住む事になった経緯を考えれば逆によくこれだけのものを建てられたなと称賛したいほどだ。
もし飛鳥が家を建てろと言われても、せいぜいが板を張り合わせただけの豆腐小屋ぐらいしか無理だろう。
しかも出来たとしても簡単に壊れるだろうとも予測できる。
つまり、絶対無理、である。
飛鳥が小屋に感銘を受けている間に家の中の気配が動いた気がした。
外からでも聞こえてくるドタドタという足音と子供特有の甲高い声が近づいてきたと思ったら、勢いよく玄関であろう扉が開かれた。
バターンという効果音がつきそうなくらい勢いよく開けられた扉は、壁にぶつかり衝撃で小屋を揺らす。
「あー! やっぱりウィルにぃだー!」
「やっと帰ってきたッ」
「おかえりなさーい!」
「ウィル! 無事で良かった!」
「魔物に食べられちゃったのかと思った……」
「マリン!」
「……ごめん」
「あはは。ごめんねみんな。色々あって遅くなっちゃった」
扉からわらわらと出てきた子供が一斉にウィルを囲み、口々に言葉をかけるなかウィルもそれに応える。
ウィルと同じくらいであろう子供が三人。そしてさらに小さい子供がニ人。
全員がウィル同様痩せておりボロボロの見た目をしている。
みんなウィルのことを心配していたのか無事に帰ってきた姿を見て笑顔を浮かべていた。
「ウィル!」
少し遅れて小屋から姿を見せたのはボロボロの黒いローブを纏った男。
小屋のそばにある燈火の樹の頼りない光に照らされて見えるその顔は不安や安堵、様々な感情で彩られていた。
「あ、神子様。ただい――」
「――ッ良かった! 本当に良かったっ……無事で、いてくれてっ!」
ウィルが返事を言い終えるよりも早く男はウィルへ近づき力一杯抱きしめる。
「こんな時間まで何処に行っていたのですか!? 昼を過ぎてもまったく帰ってくる気配もなくッ……本当に、心配したのですよ!」
「ごめん、なさい……なかなか集まらなくて……遠くに行けばまだあるかな、って――」
「――だとしても! 一度戻ってきて、きちんと伝えてくれなければ何かあったんじゃないかと心配になるでしょう! それに、いくら守り袋を持っているのだとしても危険な事に変わりはないのです! 万が一があってからでは遅いのですよ……貴方まで失ってしまうのかと、また、私は……私は……」
「……ごめ、ざぃ……ひっく、みござま、ごべん、なしゃ」
「…………いえ。私の方こそ、大きな声を出してしまいすみません。次は私も一緒に行きますので、ちゃんと声をかけてくださいね」
「は、い……」
ウィルの涙を優しく拭い、頭を撫でる神子なる男。
初めに扉から出てきた時とは違い、今の彼の表情は安堵に満ちていた。
「神子様の言う通りよ。あんたはなんでも一人でやろうとしすぎ! もっとあたし達を頼りなさいよね!」
「……留守番くらいちゃんとできる。なめるな」
「グスッ……うん。そうだね、ごめんねアンリ。マリンも」
茶色の髪と青い髪の少女達が順番にウィルに文句を告げる。
「そうだぞウィル。オマエだけに無理させられっかよ」
「うん。ありがとうハルト」
「そうだそうだー。もっとたよれー」
「たよれー」
「フランツ、エミリーも。ごめんね、ありがとう」
少女達に続き茶髪の少年、そして一番小さな二人の子供達が続く。
ウィルは赤くなった目を擦りながら彼ら一人一人に返事を返す。
「ウィル」
神子の呼ぶ声にウィルが顔を向けた。
「――お帰りなさい」
「――ただいま、です!」




