10本目 悪い大人に気を付けろ
この回から意識して改行してみたのですが、改善されていると嬉しいです。
結論から言うと、飛鳥の食料調達は惨敗であった。
武器として使っていた木の棒を釣竿代わりにしようと試みたが、釣り糸にできそうなものが見つからず断念。ならば直接。と、一か八か裸足になり川へと入ってみたが、うまく捕まえられず断念。
そんな飛鳥を見かねた炎陽が飛鳥を小馬鹿にしつつ意気揚々と魚が居る場所へと飛び込むも、その衝撃によって魚が散ってしまい断念。それを見た飛鳥が炎陽を指をさして笑い、笑われた事に腹を立てた炎陽が飛鳥へと飛びかかり二人してバシャバシャと騒がしく水面を揺らす。
結果、飛鳥たちの周囲には魚の影すら見えなくなり、ただただ濡れ鼠になった二人だけが残された。
己のサバイバル能力のなさに絶望しながらも、大人しく別の食料を探しに行こうかと飛鳥が考えていたところに颯爽と現れた救世主がウィルだった。
裸足になりズボンを膝まで捲り上げたウィルは、飛鳥達と入れ替わる形で川へと入っていく。
そうして魚がいるポイントへと静かに近寄り、狙いを定めて、一気に掴み取った。
惨敗組の送る拍手と歓声に照れながらも、両の手でしっかりと掴まれた魚は離さない。
その見事な手腕により無事に三人分の魚が確保されたので、ウィルに借りたナイフで簡単に下処理を施し炎陽の起こした火で焼く。
ウィルがゴソゴソと籠を漁りナイフを取り出した時は驚いてしまったが、護身用と聞き納得。
しかしそれが調理用なのかそれとも別の用途にも使っているナイフなのかが少しばかり気になる飛鳥だが、今はそんなこと気にしている場面でもないので目を瞑った。
魚が焼けるのを待つ間に、調理を始める前に脱いで絞っておいたパーカーと――ポケットの中身はもちろん取り出してある――自分自身を乾かすように火にあたる。
一日に二度も、それも短時間の間に服を乾かすはめになるとは飛鳥も想像していなかった。意図せずに口からため息が溢れる。
この世界の今の季節はわからないが、飛鳥が飛ばされた時期と重なるのであれば秋ぐらいだろうか。
聖地と地上では環境が違いすぎて断言はできないが、地上だけで言うならば飛鳥のいた時期と変わらない気がする。
天気も良いし、比較的気温も暖かく過ごしやすい。これならばあまり時間もかからずに服もある程度は乾くだろう。風邪をひく心配はしなくても良さそうだ。
そうこうしていると魚の焼ける良い匂いが飛鳥の鼻をくすぐる。
ふと炎陽を見ると涎を垂らしながら尻尾を揺らし、キラキラした目で焼ける魚を見つめていた。
放っておくと今にも火に突っ込んでいきそうな勢いを感じた飛鳥は、念の為にと炎陽を膝に乗せ確保しておく。
不満そうな瞳が飛鳥を貫いてくるが、雑に頭を撫でることで無視をする。
魚が焼け、しっかりと火が通ったのを確認した三人はそれぞれ焼けた魚を手にし齧り付いた。
塩があれば良かったのだが、無いものは仕方がないので魚本来の味を飛鳥は楽しむ。
しかし、自分達の分は自分でと言っておきながらこの体たらく。塩を振っていない筈なのに、何故かほんのり塩の味がしたのは気のせいということにしておきたい。
なんという魚か飛鳥には判断がつかなかったが、とにかく美味しかった事は確かだ。
「ご馳走様でした」
ウィルに多大な感謝を送りながらも昼食を済ませた飛鳥は、ウィルに町への道案内を頼んだ。
快諾してくれたウィルの案内の下、町を目指す。
道中、魔物の姿を遠目に見る事はあっても襲ってくる気配はなかった。
試しに飛鳥がわざと近付こうとしたが、すぐさま背中を見せて離れるように遠ざかる。
飛鳥達を認識していないというわけはないので、それでも襲われないという事実にポケットの中の存在の大きさを飛鳥は身をもって知った。
(これは無くさないでおこう)
途中休憩を挟みつつも三人――炎陽は飛鳥の肩に乗っているが――は歩き続ける。
しかし歩けど歩けど飛鳥の目に入るのは、地面、草、木、川、空、魔物、と代わり映えのない景色。
もちろん地形的な意味では景色は変わっているのだが、目に入るものが淡白すぎて飽きる。
誰かとすれ違ったりすることもなく、目新しいものがあるわけでもない。
歩き始めからしばらくはウィル達との会話も続いていたが、こうもずっと歩き詰めだと次第に口数も減ってくるというものだ。
ウィルは慣れているのかまだまだ余裕そうで、炎陽とのお喋りを楽しんでいる。
今は食べ物の話で盛り上がっているようだ。焼肉や、親子丼、いなり寿司などなど飛鳥にも馴染みのある名前が炎陽の口から次々とあげられ、その説明にウィルは目を輝かせて自分もいつかは食べてみたいと零している。
……しかしそこでふと飛鳥は疑問に思う。知識として与えられて知っているのだろうが、炎陽は産まれたばかりで実際に食べた事はないはずなのに、どうしてこうも得意げに語れるのだろうか、と。
ましてやいなり寿司が好物だと言い切っている肩の上の毛玉に疑問は尽きないが、口を挟む元気はないので心の内に秘める事にした。




