六、偵察
「なんじゃそりゃ。そんなこと、あるわけなかろう」
「いやいやいや、見たんだってばあ」
「ばあじゃない、じいじゃ、じい」
「いや、そういうんじゃなくて……」
おじいさんと野ウサギがもめています。
「だいいち、あのかぐや姫が、そんな……」
「いやいや、本当なんだって」
「なんじゃいこの、バクハツブツ野ウサギめが」
おじいさんが野ウサギの耳をわしづかみにします。
「ああ、痛い痛い、やめてえっ……」
わけはこうです。野ウサギが、かぐや姫が夜な夜な出かけていって、しばらくしてから若い男を連れて戻るのを見たというのです。そんなこと、おじいさんにはにわかには信じられません。なにせかぐや姫は、おじいさんにとても従順で、これ以上ないほどのかわいらしい存在だったのですから。
根っからの楽観主義者であるおじいさんは、野ウサギのいうことをなかなか信じようとせず、かぐや姫のこしらえた特製ハチミツ入りきびだんごをむしゃむしゃとほおばっておりましたが、やがて野ウサギの必死な説得に根負けして、夜中、かぐや姫の部屋の出入り口を野ウサギと一緒に見張ることを約束しました。
「まあでも、たまにはこういうテーサツごっこっちゅうのも楽しいかもしれんのう」
その夜。
満月より少し欠けた月を、はいいろの雲がやさしく、しろい包帯で包むかのようにおおっていきました。
アオオウン……
オオカミの声に、野ウサギは耳をふさぎ、身体をふるわせます。
「なんじゃ、怖がりじゃのう」
「な……、あんたと違って耳がでかいからだ、それだけのこったあ」
「ふへっ、なにを言ったか、よう聞こえんわい」
「うわ、うぜえ。竹槍でもブッ刺してやりてえ。槍だけに、ぐふふ」
「なんじゃと、聞こえたぞい」
「ああ、痛い痛いっ。この、地獄耳ジジイめっ……」
「……こりゃ、どういうことじゃ」
「扉が、開いてる。さっきは開いてなかった扉が」
「そりゃあつまり、どういうことじゃて」
「つまりそれは……、あんたと俺がふざけてじゃれあってたあいだに、お嬢さん、出てっちまったっていう……」
「それはつまり……」
「つまり……、怪力ジジイの怒りが俺に向くってことだから、ドロンしますっ」
「あ、こりゃバクダン、待ていっ」




