五、かぐや姫と野ウサギ
「ぺったんぺったん、ぺったんこ。地球で月見てぺったんこ。大好きじいじもぺったんこ、ぺったんぺったん、ぺったんこ……」
にょきっ。
かぐや姫の目の前に、かわいらしいうさぎの耳が現れました。
しかしそれは、はるかかなたの月面で餅つきをしているうさぎのものではなく……
「どうしたんだい、お嬢さん。竹取翁にいじめられたのか?」
例のイタズラ好きの野ウサギでした。
「あ、わかったぞ。お相撲で負けたんだな。竹取翁、ちっこいくせに力だけは強いんだからなあ」
おじいさんよりもはるかに小さいはずの野ウサギは、そう言ってけらけらと笑ってみせました。
かぐや姫はむっとして、白い右手で野ウサギの二本の耳をきゅっとつかみました。
「ああ、痛い痛い、やめてえっ……」
かぐや姫と野ウサギは、無言で月を眺めていました。
二人の手には、ちいさなおちょこ。お酒は野ウサギが、おじいさんの酒蔵からくすねてきたものでした。
はいいろの雲が、月の明かりに照らされて、ゆっくりと引き裂かれるようにただよっています。
やがて、かぐや姫が口を開きました。
「わたくし、そろそろ行かなくちゃ……」
※ 地球人のみなさんは、国や地域の法に基づいて、飲酒は適齢になってからにしましょうね。




