四、奇妙な事件
それからまた、二週間。かぐや姫とおじいさんの歳の差同居生活は、しごく円満につづいていました。毎日、かぐや姫は川へ洗濯に、おじいさんは山へ竹取りに出かけ、それぞれの仕事をしつつ、その合間に魚釣りや相撲を楽しんで、家へと帰るのでした。
二人の仲は、それはそれは良いもので、二日ほど前の夕方などには、例の野ウサギがおじいさんの画集を燃やそうと書斎に忍び込んだところを連携プレーでひっとらえ、「もうしません」との言質をとってから帰してやったりしたものです。
「まったく、あのバクハツブツ野ウサギのやつ、今度やりおったらウサギ汁にして飲み干してやるわい」
「まあ、ウサギ汁だなんて」
「あやつはウサギ汁で充分じゃ。お前の手をわずらわして、ステーキやらハンバーグやらにしてもらうには及ばん」
「じいじたら」
いっぽう、とある町、おじいさんの家から三里ほどの場所に位置する町では、奇妙な事件が頻発しておりました。若者の失踪事件が相次いだのです。
__今回行方がわからなくなったのは、二十三歳の漁師・浦ノ島太郎さんです。浦ノ島さんは先月、山猫にいじめられていた亀を助けたとして、地域生き物環境課によって表彰され、明日、亀の故国である竜宮国へと出立する予定でした。今回の失踪を受け、現竜宮城主・保成燈次郎さんは……
「物騒な世の中じゃ。にしても、山猫とやらは、まーたニュースに名前を出されて気の毒じゃのう、あのこととは、まったく別の事件なのにのう」
おじいさんは、かぐや姫の調理したスッポン煮とエスカルゴ・ド・ブルゴーニュを食しながら、言いました。
「そうじゃ、かぐや姫。今のところ、誘拐に遭っとるのは野郎ばっかりらしいがのう、なにがあるかわからんから、お前も気をつけるんじゃぞい」
おじいさんは心配顔で、この一連の事件を「かどわかし」と決めつけてしまいましたが、実のところ、テレビのニュースを聞くかぎりでは、若者たちの失踪の理由まではわからないのでした。
「って、おんや……、もう部屋へと戻りおったか」
かぐや姫は、部屋へと戻ってはおりませんでした。
おじいさんの家の屋根のうえへあがって、体育座りをして、まあるい月を眺めておりました。
「ぺったんぺったん、ぺったんこ……」