十五、かぐや姫の秘密
画集を携えたかぐや姫は、きょとんとした顔で言いました。
「なにやってるの、金棒。タカアシガニは?」
「あ、いや、その……」
「またちんたらと油を売ってたのね」
「も、申し訳ござ……、かぐや姫さん、もしやその画集は……」
「ああ、これ」
かぐや姫は「きょとん」をやめて、幼子のようなあどけない笑みを満面に浮かべました。
「ジャン=バティスト・カミーユ・コローよ。わたくしね、カミーユって女の子だと思ってたんだけど……、男にも女にも使える名前なのね、知らなかった。観る?」
かぐや姫の白い指が、画集のページを開きます。そこには、なんと……
「コココッ、コレハァッ……!」
コローの絵画『フォンテーヌブローの森』が、見開きで印刷されていたのでした。
「ウオーッ、は、破滅ぅうっ……!」
……例の音を響かせて、金棒の青年はたちまち、「Staff Only ~ 関係者以外立ち入り禁止な件 ~」と書かれた扉の向こうへトンズラしてしまったのでした。
「ところで、かぐや姫。なぜそんな、ジャンヌ・ダルクの絵のような恰好をしとるんじゃ」
おじいさんのいう通り、かぐや姫の衣服はいつのまにか、ドミニク・アングルの描いた『シャルル7世の戴冠式でのジャンヌ・ダルク』の甲冑のようなものに変形していました。
「まあ、似合うからいいがのう」
かぐや姫の表情からは、これまたいつのまにか笑みがたち消えており、哀しげにおじいさんの問いに答えます。
「それはね、じいじ。じいじがここまでたどり着いてしまったからなのよ」
かぐや姫の様子に気づいたとき、さすがの自他ともに認める天下の楽観主義者、竹取翁であっても、「おお、わしを迎えるために鶴に作ってもらったんか」とか、あるいは、「『それはな、ジジズキン。お前を食べてしまうためさ』と言われるかと思った」などという冗談を言うことはできませんでした。
「ど、どうしたんじゃ」
「あのね、じいじ……」




