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十一、デタラメ話


「のう、バクダン」


 おじいさんは野ウサギにたずねました。


「わしらはどこを目指しとるんじゃったかな」


 おじいさんと野ウサギは、もともと野ウサギの抱いたかぐや姫の行動への不信から、この不思議な空間へと足を踏み入れたのでしたが、洞窟探検や水泳、はては山猫退治と、ゲームやネット小説のような展開を迎えることとなり、おじいさんも野ウサギも、わけがわからなくなっていたのでした。


「そういえば、山猫が言っておった『ボス』っちゅうのは、一体全体なんなのじゃ?」

「うーん、たぶんな……」


 野ウサギも憶測で答えるしかありません。


「……俺たちは勇者って位置づけだろう、ってことは、この冒険は姫を助けに行くためのものだっていう図式が成り立つわけだ。で、姫というのはだれか、考えられるのは一人しかいない」

「かぐや姫か」

「そう、あのお嬢さんだ。で、助けに行くっていうのは、単に洞窟内で遭難して救助を待っているっていうんじゃないだろうから、かならず敵がいるはずなんだ。現に俺たちは、これまで猿と山猫に行く手をはばまれた。そして、敵の親玉、それが『ボス』だ」

「なるほどのう。それを聞いてわしゃ、ウキウキしてきたわい」


 おじいさんが野ウサギのデタラメ話をすっかり信じ込んでしまったのも無理はありません。おじいさんのみならず、当の野ウサギでさえ、自分の語ったでまかせを信じるよりほかに、ものを考えるよすがが見当たらない状態になってしまっていたものですから。



「ん、待てバクダン。猿はたしか、かぐや姫のとこでバイトを、と言っとったと記憶しとるんじゃが」


 そうです、猿はたしかにおじいさんに、「まいったか、竹取翁。俺は今日から、かぐや姫さんとこで番犬のバイトをすることになったんだ。給料はきびだんごまるまる一個とはずんでいる。だから、容赦はしないぜ」と言ったのでした。


「ははあん」


 野ウサギはうなります。


「これですべての謎が解けたな」

「な、どういうことじゃ」

「まず、猿のいうお嬢さんとこでのバイトというのは、つまり、お嬢さんがバイトの同僚だったということだな。猿はきびだんごが給料だって言っていたけれど、あれは給料じゃなくて『まかない』で、キッチンスタッフとして働いていたお嬢さんがこしらえたものだったんだ。つまり、本来の対価がきちんと支払われていなくて、バイトに作らせたきびだんごでごまかされてたってわけだ」

「わしゃ、きびだんごでもうれしいがのう。いうなれば、金より団子じゃ」


「となると、お嬢さんにも対価が支払われていない可能性が高い。要するに、ブラックバイトってやつだ。現に浦ノ島うらのしまってやつは、竜宮の亀の手助けで脱走したって話だし」

「ふむ、そりゃあ、けしからんのう」

「で、ここからは推測になるんだけどな……」


 野ウサギもおじいさんも、この話がとっくに……というよりもはじめから、推測も憶測も通り越して爆弾級のデタラメレベルの話だということに、もはや気がつくべくもありません。



「店長は、洗脳されている!」



「な、なんと……っ」

「店長は本当は善良なやつだったんだ。ところがどっこい、店長の一人娘がものすっごく腹黒いやつで、店長をそそのかしてバイトをいじめまくってるんだ。こういうのをなんていうか、知ってるか?」

「ま、まさかこれが……」

「そのまさかだよ」

「『悪役令嬢』……っ!」







 と、そこへ……



 うきゃーっきいっ。



 おじいさんと野ウサギの前へ、猿がころがってきたのでした。


「な、なんじゃ、どうしたんじゃ」


 おじいさんが心配して声をかけますと……


かにだよ、蟹。あいつら、ちょっとちょっかい出しただけなのに、ひどいんだ。寄ってたかって殴りかかってきたもんだから、たまらず逃げてきたんだよ」

「おお、そりゃ災難じゃったのう」

「最初はあんたの家の台所へ逃げ込んで、たまたま棚に入ってた画集で身を隠そうとしたんだけど、すぐに見つかって画集は微塵みじんさ。で、いつのまにかここに逃げ込んでたってわけ」

「が……がしゅう……わしの大事な、ドミニク・アングルの画集が……」

「こうなったらもう、守ってもらうしかない。脱走のことは適当に言い訳してごまかして……、なんてったって、最強を誇るわが雇い主さまは、足首以外は無敵のころもでおおわれているんだからなっ」


 そういって猿は、奥へと消えていったのでした。





「聞いたか、バクダン」

「ああ、聞いたよ」

「悪役令嬢の弱点は、足首じゃ」

「おうっ」





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