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500円玉

作者: 真

住み慣れた田舎の街から抜け出して、都内で暮らしたい。

田舎ものなら誰もが憧れを抱く。


原宿ってオシャレなんでしょ?


渋谷って怖いらしいじゃん。


東京って言うけど、東京駅って駅名があるんだ!


当時はそんな印象しかなかった東京も住み慣れ始めた3年目。

仕事の関係や、ダークな生活の為、3年間で引っ越しも3回。


やっと一息落ち着けた最寄駅は、学芸大学駅。

東横線で渋谷から約7分の場所。


近くには、自由が丘、中目黒、少し足を延ばせば横浜。

何よりこの街が気に入った。昔ながらの商店街に大きな公園。あまり都会的ではなく、落ち着ける街。


今は、別の場所だがまた都内に住むならここが良い。


そんな自分にとっては好立地へ住み、とある企業へ就職し、数年が過ぎた。


当時はブラック企業と言う言葉もあまり聞かず、とにかく


「気合」  「根性」 の毎日。


もし倒れる事があるなら後ろへ倒れるな。前へ倒れろ!


死ぬ気でやれ!!  死なないから。


「お前何で昨日休んだの?」  いや、もう2ヶ月休んでないんですけど・・・・


今じゃビックリ発言でも、当時はこれが普通であり、この精神は今も変わらない。



この日も自分は朝から満員電車に乗り、東銀座にある本社へ出勤した。


8月の真夏日。 

このクソ暑い日に、スーツ、ネクタイとかマジ無理だし。死ぬし。



こんな事を国民が思うから、クールビズって言葉が出来たんじゃないのか?

と、今じゃそう思う。


電車を降り、歩道を歩く。


出勤時間の為、大勢の人が列をなして行進する。


自分もその流れに沿って歩いていく。



と、その時だった。



3m先に光る物を見た。 そうだ、あれは・・・・500円玉だ。


道に500円玉が落ちている。

静かにひっそりと、しかし堂々と落ちている。


気づいている人もいる。 チラチラ500円玉を見ている。


しかし、人の流れがある為、皆スルーしていく。


ほしい。  あの500円欲しい。


しかし、膝を曲げて腰を落とし500円を拾ったら、人の流れを止めてしまう。


後ろの人が「おっとッ!な、何??」

と、なってしまう。


どうすればいい?  


500円まで残り2メートル。


時間がない。


そうだ。こうすればいい。


流れを止めず、流れのまま膝を曲げて、腰を落とし、「自分が落としました。」と言わんばかりの態度でとる。


自然だ。 


誰も「おい、こいつ落ちてる500円拾って自分のものにしてんじゃねーか!」と思う奴はいない。



500円まで距離1メートル。


ここで俺は腰を落とし、膝を曲げる。


500円まで距離30センチ。 もうすぐだ。 待っててくれ。 今、いくから。


距離5センチ。


このタイミングだっ  グッと手を伸ばす。 頼む!いまこの姿、誰も見ないでくれッ


そして、3メートル手前から始まったこの格闘も終焉を迎えた。 時間にして約3秒。


掴んだ!  俺は500円玉を掴んだ。  頼むからこのニヤニヤしてる顔、誰も見ないでくれ、と

思っている矢先、非常事態がおこった。



掴んだ500円玉をポロッと落としてしまったではないか。

よく事故の瞬間、スローモーションに見えると言うが、正にそれ。


しかし、人の流れがある。戻って500円を拾うことなど出来るはずがない。

満員電車で、「ちょっと、すみませ~~ん。降りま~す!」と、人をかき分けて降りる感じになってしまう。


仕方なく、一度は手にした500円玉を恨めしそうに見ながら、歩を進めた。



その時だった。


トントンッ


後ろから肩を叩かれた。 ん?だれ? なに??


知らないサラリーマンの方に声をかけられた。


あの日の事は、今も決して忘れない。忘れてはならない。

ありがとう、やさしい知らないサラリーマンの人。



「おに~さん、500円落としたよ。 はいどーぞ。」






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― 新着の感想 ―
[良い点] 500円玉に葛藤する主人公が愉快でした。大都市東京なんだし、行き交う人は他人のことなんてそうは見ていないでしょう。だからといって、自分が主人公の立場になったら、割とみんな、主人公に似た葛藤…
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