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「一応、あなたは様々な政策をされていると思います。その中の一つに役人への平民や女性の登用がありますが、あくまでも貴族たちはそれは国王が民へのポーズだととらえていて、いまだに、平民出身さえ少なく、女性はゼロですが、何か理由でもあるのでしょうか」
アリアは国王からその内容を聞いた瞬間に、言い返した。
彼女の言葉に、国王は笑った。しかし、以前のような柔らかい笑みではなく、少し何かを考えているような暗い笑みだった。
「ああ。君の父親を捕らえたセルドア・コクーンを彼らの脅威に思った軍事卿を始めとする貴族たちは、私に確認することもなく勝手に更迭した。もちろん、いくら勝手に更迭したと言っても、最終的には私の責任だ。それに対して言い訳をすることは出来ない。しかし、これ以上、もしくはこれよりひどくなる状況を変えることが出来る人間がいる。その人物を一介の侍女として、いや、一人の公爵令嬢として持て余すわけにはいかないんだ」
国王はアリアの瞳をしっかりと見てそう言った。アリアはそんな国王の言葉に、一瞬詰まった。そして、少し考えた後に言葉を発した。
「それが、あなたの言い分ですか」
アリアの言葉に国王は瞠目した。まさか、思い通りにならないとは思わなかったらしい。
「恐れながら申し上げますが、私としてはもうこれ以上は結構です。まあ、自分の未熟さが招いたことですが、以前は『スフォルツァ家の恥』として、他の家に妹ともども迷惑をおかけしておりました。しかし、自分自身に降りかかる災難とそれを引き起こす行動を考えたところ、そういう風であってはいけないと思い、改めました。まあ、母エレノアを巻き込んだのは少し想定外でしたが、王太子の婚約者であるベアトリーチェ嬢の一家を救えたこと、我が家の最大の恥でもあった叔母フレデリカを王宮追放できたことは、私が変われたことに対する報酬だと思っております。
しかし、もう、これ以上私はあなたや他の貴族たちに振り回されるのが嫌です。ですので、私は出来ることならば下級侍女に戻るか、侍女をやめて領地に引っ込みたいです」
アリアは相手が国王だとか、そういう心配はしなかった。本当ならば、生き続けるという選択肢を取りたかった。しかし、国王にここまで良いようにされるのならば、ここで不敬罪で捕まり、『ラブデ』開始前に退場するという選択肢でもありだと思ったのだ。その覚悟を見た国王は再び笑った。
「なるほど、そこまでの覚悟なら文官登用の件はいったんあきらめよう。しかし、君には申し訳ないが、スフォルツァ公爵令嬢として生活するのをやめてもらわねばならない」
国王はそう言い、アリアの目をじっと見た。アリアはその眼光にひるみそうになりながらも、しっかりと気を持った。
「ど、ういう意味でしょうか」
彼女は戸惑いながら国王に尋ねた。彼女から尋ねたことを喜ばしく思ったのか、嬉々として国王は答えた。
「つまりは、私付きの侍女、もう少しいうと、一般的な侍女としてではなく、私の秘書として働いてほしい。これは王命だ」
国王の言葉に、今度はアリアが瞠目した。一瞬目を伏せるが、これは逆らえない『王命』だ。
拒否権などなかった。
「承知いたしました」
やっとのことで口にした言葉は掠れていたかもしれない。しかし、国王へは届いていたようで、彼は満足そうに、
「よろしく頼む」
と言った。
その後は仕方なく国王との歓談に興じ、夕食の前に彼の部屋を辞した。
アリア「いまさら気づかなくてもよかったのでは…」





