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セルドアがいた頃ならば、彼に取り次いでもらって、持ってきた武具の受け渡しをする、ということが出来たが、今はできない。王立騎士団の詰め所にまで来たものの、どうすればよいのか逡巡していると、中からかなり若い(とはいえども、アリアよりは上だろう)騎士が出てきたので、その彼を捕まえて、事情を話した。すると、その騎士は最初、不審な目をアリアに向けていたが、だんだん話をしていくうちに、にこやかな態度になっていった(もっとも、話の途中でセルドアの名前を出したのが効果的だったのかもしれない)。
結局、謎の武具類は騎士団に無事に引き渡され、アリアは再び神経をとがらせながら、奥宮に戻った。しかし、尾行をはじめとした敵(?)からの襲撃などはなく、とりこし苦労に終わった。ただ、『今、何もなかった』ことで翌日の本番は何かがあるのではないのかと、不安にもなった。しかし、今の段階ではだれが置いて行ったのか、全くわからないことでもあったので、これ以上詮索することはあきらめ、アリアは翌日の催事に集中することにした。
当日―――――
「君に会えるなんて、夢を見ているかのようだよ」
国王への挨拶が終わった直後に、王女の側に控えていたアリアを見て開口一番、そう言った来賓を目の前に、アリアは戸惑っていた。
「おい、クロード。お嬢さんが困っているではないか」
彼の隣にいるかなり良く似た人物はそう言って、彼をアリアから引きはがした。
「申し訳ない、うちの愚弟が」
引きはがした後、隣の人物はアリアに謝罪した。もちろん、頭は下げなかったが。
「お気になさらないでください」
彼女は少し困惑した顔を見せたが、
(すごい表と裏で差がありすぎてびっくりするわね。人のことは言えないけれど)
と心の中ではそう思ってしまった。そう、会った瞬間、アリアにまとわりついてきた人物はセリチアの王子、クロード王子であり、彼を引きはがした人物は彼の兄であり、セリチア王国王太子、フィリップ王子であることに気づいた。彼は同母弟である、と言われてもおかしくないくらいにクロード王子と似ており、どうやら二人は、父親であるセリチア国王の血を濃く受け継いでいるらしい。
しかし、姿は似ていると言っても、性格は似ても似つかなかった。否、表面上の性格は似ていないだろう。
クロード王子は人懐っこく、誰とでも、とはいかないが、社交的な性格だろう。しかし、兄のフィリップ王子は遭遇したばかりで、何とも言えないが、万人に対して分け隔てなく冷淡な性格だろう。
もっとも、クロード王子も根本はかなり冷酷な性格だろう。しかし、彼はそれを隠しきっている。
アリアはその二人を見ていて、この国の現状に安堵した。今のところ、リーゼベルツには二人の王子がいるものの、二人とも同じ母親から生まれているし、何より異母妹であるミスティア王女の母親であり、国王の元愛妾フレデリカはすでに王宮にはいなく、彼女を取り巻く勢力も下火になっている。王位継承権が上位の王子たちも今は仲がいい。このまま続いてくれればこの国にはきな臭いことは起こらないはずだ。
アリアはそう願った。





