8(という名の間章)
小話位の内容です。
※アリア視点
8
刻一刻とその時間は迫ってくる。
明日は私、アリア・スフォルツァの13歳の誕生日だ。『公爵令嬢の誕生日』であり、誕生日パーティーを開くために実家に戻ってきていた。
生まれてこの方、誕生日というものは素直に味わってきたものの、14歳で始まる乙女ゲームである『Love or Dead』の悪役令嬢であり、全てのルートによって破滅する、という事を思い出してしまった以上、一つ一つの行動に責任を持ち、その瞬間まで、たとえ誕生日であろうとも気は抜けない。
現在、主人公であるベアトリーチェは、王太子と婚約したため、王妃教育の真っただ中であるが、アリアとも仲は良く、よく王宮の休憩時間にお茶会をして呼んでもらっている。攻略対象である6人の人物たちとも、なんだかんだ交流がある。
王太子クリスティアンとの婚約はそもそも成立せずに終了、セリチアのクロード王子とは文通仲間である。
また、異母弟であるユリウスは彼が当主になっているので、一応立場としては彼の方が上になった。そのため、彼女が何かスフォルツァ家に不利益なことをした場合、真っ先に切られるのはアリアの方になった。また、ゲーム内では近衛騎士として活躍しているアランは自分と同じ転生者であったみたいで、現国王に不審を抱き、クーデタを起こそうとしているところである。
さらに、平民出身のウィリアムはまだ物語には出てきて間もないが、これからがイロイロな意味で楽しみなのと、マクシミリアンはマクシミリアンで無事に当主を務めあげている。
弟であるユリウス以外の彼らは招待していないので、この誕生日パーティーには来ない。せいぜい遠方から休暇をもぎ取ってくるセルドア騎士団長と、『ラブデ』ではヒロインサポート役のはずだったクレメンスが来るだけだ(どちらも事前に宣言された)。しかし、彼らが来るだけでもかなりお姉さま方の視線が怖いのだ。
そうして、眠れない一晩を過ごした後、メイドの手によってかなり磨かれ、朝から祝い客の相手に引っ張りだことなった。
夕方、新調したはずなのになぜか見覚えがある夜会用のドレスに着替え、髪をセットしてもらい、化粧を直してもらった。
すでに、招待客は集まっているはずだ。一呼吸整えて自室を出て、弟のユリウスのエスコートでパーティー会場である広間へ向かった。
「姉上、すごいお綺麗です」
彼は顔を赤くしながらそう言った。この一年でだいぶ彼の身長は伸びてきており、下手すると、来年いっぱいで抜かされそうな気がする。姉としては嬉しかったが、なんだか少し寂しい気分でもあった。
「アリア姫。お誕生日おめでとうございます」
階段を降り、偶々エントランスのところにいたのだろう、真っ先に挨拶に来たのはセルドアとクレメンスだった。セルドアはアリアの異母弟であるユリウスの母マチルダの兄だが、未だに年齢を感じさせない人だ。
「僕たちからささやかなプレゼントです」
そう言って、渡してくれたのは白い花束だった。じっとそれを観察すると、確かコデマリという花のはずだ。様々な花を取り扱っている王宮でさえあまり見かけない花だが、まさか遠方から取り寄せてくれたのだろうか。
「ありがとうございます」
アリアは優雅にお辞儀をした。
「貴女はよく頑張っている。どうか、僕たちの希望であってほしいと願う」
クレメンスはそう言って、顔をそむけた。
そうして、何故か3人の男性にエスコートされ、会場へ入った。一瞬、まぶしくて後ずさったが、光に慣れてきて、会場を見回してみた。ほかならぬ母と共に手配したので、問題は起こっていないようだが、会場の前方付近、すなわち、このパーティーの主役が来る場所にいる一集団だけが異様だった。
「来てるな」
「来ていますね」
クレメンスとセルドアが口々に言った。アリアも声には出さなかったが、同じことを思ってしまっていた。
「特別に来た」
何故、婚約者のいる王子がここにいる?
というか、思い出したけれど、この皆が待ち構えるのって、『ラブデ』内の最も難しいルートとされるノーマルエンドの王宮夜会のシーンそのものじゃないのか。しかも、その時の主人公のドレスが、まさに今着ているものだったはずだ。なぜこうなっている。
「当然君のためならば来るよ」
何故、隣国から一公爵令嬢の誕生日会に来ている?というか、そもそも王族が2人いるとか、警護を増やすべきだった(『来る』という警戒も、また同じく)。
「僕は当然来るよ?」
確かに、君は同じ公爵家だから来るのか。赤毛騎士よ。招待状のリストに無意識に入れていたのだろう。
「お邪魔させてもらっています。ちなみに、料理の素材を提供させてもらいました」
同じく君も同じ公爵家だったから、無意識に招待状のリストに入れていたのだろうな。というか、あの美味しいものが食べれるとは僥倖だ。
「ついでに僕も」
偉そうに交じっているガキが1名いた。
「姉上、僕からもです」
しかし、彼らはそれぞれ何かしらの包みを持っており、その場で彼女に渡された。全てこのパーティーが終わってから開けてほしい、と頼まれた。
あっという間にパーティーが始まり、彼ら以外からも当然、お祝いの言葉を言われた。
王宮夜会では10曲以上踊ることもあるが、貴族主催のパーティーではダンスの時間は短く、今回の夜会ではその平均ともいわれるくらいの6曲だった。最初にユリウスと踊り、続いてマクシミリアン、アラン、セルドア、クレメンス、そしてラストダンスにクロード王子と踊った。
ちなみに、食事は様々な料理が並べてあったみたいだが、当然主催者であるので、食べることは叶わなかった。無念。
パーティーは恙なく終わり、お開きとなった。すべてが終わり、自室へ戻ると同時にベッドにだいぶしたかったが、来てくれた6人からのプレゼントを開封した。
「綺麗―――」
もらったものを机の部分に並べてみると、クリスティアン王子からはこの国では摂ることの難しい翡翠のブローチ(ベアトリーチェからの手紙付き)、クロード王子からは縁取りが紺色でメインはオレンジ色のつた模様が描かれているベージュのスカーフ、アランからは品のいい黒色の扇、マクシミリアンからはシンプルだけれど、フォーマルでもカジュアルでも使えるハンドバッグだった。そして、ウィリアムからは何故か皮手袋で、ユリウスはかなり履き心地のよさそうな靴だった。これもまた、フォーマルでもカジュアルでも使える一品だった。
アランからのプレゼントについていたカードには、祝いの言葉とともに、日本語で『互いにこのゲームを切り抜けような』と書かれており、クロード王子からは『ぜひ君を、セリチアに招待したい』という社交辞令も書かれていた。
このクロード王子からのメッセージが本当に実現することになるとは、この時点ではまだ誰も知る由もなかった。
今回は、特に読まなくても別に重大な伏線が隠されていたり、逆に回収するわけでもありませんが、最後の部分を読んでおくといつかは役に立つはず、というくらいの中身です。
(この話は、7月に完結した某シリーズの一つの巻を参考にしました。流石に王太子を町中に忍ばせるわけにはいかなかった上に、『休日をとらされる』と聞いたアリアだったら、食べものにつられて間違いなくマクシミリアンの領地にすっ飛んで行く、と思われたため、贈り物にとどめました。)
※補足※
・翌朝、マクシミリアンが持ってきた食材が出てきて、アリア感動する。
・コデマリの花言葉:伸び行く姿。努力。品位。など...





