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すみません、更新が遅くなりました。

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 突然のスフォルツァ公爵令嬢(妹)の出現と、もう一人のスフォルツァ公爵令嬢(姉)の不在に騒々しかった会場だったが、さらに国王夫妻が現れると、そのざわめきは一段と大きくなった。なぜなら、現れた国王夫妻が一番に挨拶したのは、他でもない突如現れたスフォルツァ公爵令嬢だったからだ。

 その様子を見て、いったい何事が起ったのかと人々はささやきあう。もちろん、それにきちんと答えられる人はいない(・・・)が、憶測を立てあうことはできる。

(さて、今後はどうなることでしょうか)

 物陰に隠れていたアリアは人々がささやきあっていた内容まではわからなかったが、おそらく自分とリリスに関わることをささやかれているのだろうとは想像できていた。

「ふざけていますね」

 突然、背後から声がしたので驚いて振り返ると、そこには剣呑な目つきをしたクレメンスがいた。彼は珍しく茶髪の髪を後ろに撫でつけるのではなく、両脇に分けていた。突如現れた彼に対して、驚いた顔のアリアに彼は笑った。

「驚かせて申し訳ない」

 彼はおそらく今までで一番の自然な笑みだっただろう。

「しかし、最近私も顧問会に呼ばれているため、さまざまな会合に出席しているが、ここ数か月の国王の大貴族派贔屓は酷くなってきている」

「国王陛下がですか」

 アリアは耳を疑った。フレデリカの一件から貴族といえども、うかつに特定の派閥を重用しなかった国王だ。しかし、その国王が再び特定の派閥を贔屓し始めているというのか。

「そうだね。もう少し詳しく言うと、スフォルツァ家以外の重用が激しい。力をつけている貴女を差し置いて、何も実績のないリリス姫を国外へ出そうとしているのが理解できない」

 確かに、と思った。もともと『(政治)』の世界では、スフォルツァ家はある程度家格には見合った役職についていたが、大した基盤というものを持っていない。しかし、先立っての事件により、どうやらリーゼベルツ王国、正確に言うと中央からは見放された形になるのだ。もっとも、現在のスフォルツァ家内で最も力を持っているのはアリア、と言ってもいいので、地方に下って余計なことをしないように、という事で、アリアだけをつなぎとめている、という形にも見えなくもない。そのため、実績のあるアリアの方を外に出すべきだという発言があり、アリアの方が今回の婚約の当事者になってもおかしくない。アリアもそれは考えたものの、国王夫妻にそれを聞く訳にもいかないし、聞く機会もなかったため、まあ、いいやと思ってほかっておいたのだ。

「そうですわね。そういえば、今回の婚約者の話とか聞きましたか」

 アリアは、リリスの婚約者の名前は聞いていたものの、どういった人物なのか聞いていなかったし、調べることもできなかったため、いまさらながらもクレメンスに尋ねた。クレメンスは呆れた表情をしながらも答えてくれた。

「南のスベルニア皇国、第15代皇帝ステファン6世の第1皇子ヨハネスです」

 彼が言った名前に一瞬、誰それとなった。しかし、近隣諸国の王室皇家を考えてみた時に、スベルニア皇国の名前があり、確かに現在の皇帝の名前はステファンだ。しかし、彼に息子(子供)がいた、という記憶はない。

「しかし、貴女が知らなくても仕方のないことかもしれません。なぜなら、その皇子ヨハネスはまだ5歳児だそうですよ」

 そういうクレメンスの目は死んでいた。確かに年下の皇子に嫁がせるってどうよ、と思ったが、そこで矛盾点に気づく。

「でも、国王夫妻は昔リリスの婚約の話をなさったときに、ミスティア王女様を嫁がせるには『申し訳ない相手』と言っているのよ。どういう事かしら」

「おそらくは逆の意味でしょうね」

「逆の意味―――もしかして、ミスティア王女様を嫁がせるには不釣り合いな場所、という事でしょうか」

 淑女教育の時にかの国のことは軽く聞いたことがあったが、あまりこの国(リーゼベルツ)とかかわりのない国であるという事も相まり、深くは話されてこなかったような気がするのだが、違ったのだのろうか。


「ここが政教分離されているのに対して、スベルニアは政教一致の国ですよ」


 クレメンスは憎々しげに言った。どうやらこの大陸で多く信仰されているレゼニア教の総本山があるわけではないものの、レゼニア教を大変厚く保護している国であり、多くの聖職者たちが幅を利かせているらしい。そして、最近はあまり見かけなくなったらしいが、数代前までは貴族社会、特に王家において、近親婚もごく当たり前に行われていたらしい。宗教上重要な国であるスベルニア皇国は鎖国状態になっており、あまり情報がないとのことであった。初めてそれを聞いたアリアは鳥肌が立つとともに、ますます何故自分ではなく妹が送られるのかが理解できなかった。

「おそらくこの国(リーゼベルツ)からしてみれば、近親婚という行為を繰り返していたスベルニア皇国に庶子とはいえども、娘を嫁がせたくはなかったのでしょう」

 クレメンスはそう続けた。


「そして、スフォルツァ姉妹の姉である貴女も同様に、もっと重要な国や家へ嫁がせたい、という思いがあるのではないのでしょうか」

 彼が話すのをまとめると、ステファン6世には5人の妻がいるらしい。しかし、そのどれもが子を成しておらず、彼の息子ヨハネスとされるのは従弟の息子らしい。その事実を知ったアリアは、少なくとも表面上の事情は納得した。しかし、どうして、この平和な時期に、という思いがぬぐえなかった。


 クレメンスと話をしているうちに、園遊会が終わるころになり、そのタイミングを見計らいクレメンスと別れたアリアは再び業務に戻った。

 こうして、波瀾の予感しかない園遊会は終わった。




 ある日――

「ねぇ、この前あなたが言った事、実行してもいいわよ」

 アリアは目の前にいる人物ににっこり微笑んだ。

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