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王宮夜会の次は園遊会であり、そこで初めてリリスは『スフォルツァ公爵令嬢』として、
皆の前に立つことになる。ちなみに、アリアは裏方としてリリスの影にいることとなった。それ自体には何らアリア自身、興味もなかったので良かったのだが、当然参加している人たちから、妹は『スフォルツァ公爵令嬢』として出席しているのに、なぜ姉の方は出てこないのか、という憶測が生まれることは懸念材料なのだが、人事権を持っている接待部といえども、『国王からの命令』である以上、それは覆せない。そのため、アーニャをはじめとするアリアと仲の良い人たちはそれを不満に思う人が多かった(特にアーニャは同じ公爵家であり、その立場の重要性を知っていたため、アリアも真っ青になるほど憤慨していた)。
そして、接待部の面々の怒りが増していたある日、アリアが休みで城下町へ降りた日に事件が起こった。
王宮へ戻ると、そこには真っ赤に目を腫らした接待部の面々がいた。
「皆さん、どうされたんですか」
アリアは王宮の敷地内ではあるものの、少し奥まったところに位置する東屋で接待部の全員が揃っていることに気づき、そこで会合を開いているのかと思い、素通りしようと思ったが、そのような状態だったため、慌てて声をかけたのだ。
まだ少し泣いていたものもいたが、比較的落ち着いていたアーニャが事情を説明しはじめた。しかし、その彼女も非常に言いにくそうな顔をしていた。
「私としては、あまりアリアさんに聞かせて良いものなのか分かりませんが、とりあえずあった事実だけ言いますと、誰が吹き込んだのかわかりませんが、どうやら私たちがアリアさんのことを言っているのが国王陛下に聞こえてしまって、国王陛下から今回の園遊会には接待部は関わらなくて良いと、言われましたの」
それでも彼女はきっぱりと言い切った。恐らくはリリスのことは触れていないだろうが、アリアのことを言っただけで、このようなことになるとは不測の事態だ。
「もしかして誰かが何かを言われたのですか」
アリアはもちろん、自分で言う訳がない。この会を取り仕切っている接待部の誰かが、正義心に駆られて言ったのではないか、と思った。しかしそれに対して、アーニャは首を振った。
「それも違うのよ。いくら王宮侍女であり、さまざまな行事の重要な部分に関わる仕事といえども、普段は接待部の長以外は、王族の前に出る、という事は出来ませんし、さすがの私もこの場において、公爵令嬢、という身分を笠に立てるわけにはいかないから」
確かに、この接待部の面々の性格からすると、国王に向かって直訴する、という事は考えにくい。では、誰が言ったのだろうか。
しかし、このままでは接待部が報われない。それだけは何としても回避したい。なぜなら、たかだか2年だけれど、お世話になった恩がある!何とか回避できる手段を思いつこうとしたが、なかなか難しかった。一番困っているのは、王宮内の女性を取りまとめるはずの侍女長は、今では王妃の駒になっていることである。少しアリアも考え込んでいたが、偶然考え付いた一つの案しか方法がないことに気づいた。
「アーニャさん、今現在の表の責任者は誰でしたっけ」
「表?」
アーニャをはじめ、他の接待部のメンバーはきょとんとした顔になったが、そのうちの一人、アマンダがはっとしたようにアリアの方を見た。
「まさか、表に働きかけてもらう、とかでしょうか」
彼女は灰色のおさげを揺らしながら尋ねた。その彼女の言葉にいいえ、とアリアは答えた。
「こちらの意見を伝えるのよ」
アリアの言葉に、誰もが唖然となった。
「正確に言うと、園遊会の要望を表に出して、表の意見として取り入れてもらう方法しかないと思うんだけれど」
彼女の分かりやすく言いなおした言葉に、今度こそ誰もが呆然となった。いち早く立ち直ったアーニャがクスっと笑った。
「なるほど。確かに一番面倒くさくない方法ね。試してみるわ」
先ほどまで泣いていた彼女たちだったが、その言葉をきっかけに何とか立ち直ってくれた。
そして、園遊会当日―――
「どうなっているんだ」
突如現れた公爵家の妹に、その場は騒然となった。中でも、文官見習のウィリアムはかなりキレていた。
(いや、君は一番下っ端だよね)
裏からこっそり見ていたアリアはそう思ったが、突っ込めなかった。





