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 その晩、当然針子の母子や伯爵一家のことが伝わったのだろう、父親(マグナム)が王宮からすっ飛んで帰ってきた。

 帰ってきたところを母が首根っこ捕まえ、談話室へ引き連れかなり長い時間拘束していた。ときどき悲鳴に似た声や物を投げる音が自室にまで聞こえてきたものの、アリアは聞こえなかったことにした。ちなみに、伯爵令嬢のベアトリーチェは家族で、針子のマチルダとその息子、ユリウスは2人で一部屋を使うことになった。

 今までおとなしかった母親が父親を問いただしているのが小一時間続き、音がやんだと思ったら、4歳のユリウス以外の家族が呼ばれた。談話室へ行くと真っ青になって気配を感じさせないほど縮こまっている父親と鞭を持っている母親の姿があった。


 部屋に入ってきたアリアたち4人を順番に見、

「リリス、あなたはもうすぐ8歳なのだから、きちんとしていなさいっていつも言っているでしょう」

 と、部屋着をはだけさせているリリスに注意した。確かに今までなら2人だけであったのが、いくらベアトリーチェが2歳差であったり、ユリウスがまだ4歳であることを鑑みても常識をわきまえない行為であった。多少、リリスは注意されたことに不服そうだったが、大好きな父親が今まで黙って従っていた母親に詰問されているところを見ると、何も言えなくなっていた。

「はぁい」

 彼女は、渋々きちんと着なおしていた。しかし、あまり人前であるという自覚はないのか、むくれた態度をとり続けていた。

「まず、初っ端にこんな内部を見せて申し訳ないわね」

 エレノアは部屋の状況を見て固まった4人に謝罪した。2家族は曖昧にだったものの頷き、

「いえ、こちらこそわたくしのために尽力いただくことになってしまい申し訳ありません」

 と、セレネ伯爵が代表して言った。しかし、エレノアは、

「私はあなた方にはスフォルツァ家一門、いいえ、少し時間がかかるかもしれませんが、王家の分家の門下に入っていただきたいのです」

 と返した。セレネ伯爵夫妻は驚き、大きく目を見開いた。アリアもまた、この展開には驚きを隠せなかった。


「はっきり言いますと、王家は私の嫁ぎ先を間違えたようでしたね」

 エレノアは、今回の一連の流れを作った首謀者であるアリアも聞いていないことを言い出した。6人をソファへ座らせ、自身も座り、自らお茶を継いだ。

 ちなみに、マグナムはソファで身を隠すようにしていた。

「この人――マグナム・スフォルツァ――スフォルツァ家現当主のその父親である先代当主は、娘のフレデリカ・スフォルツァを現王の愛人にし、中央への発言を強めました。それで満足していればいいものを、王族の力をさらに借りるために王家の姫を欲し、どうしてもといわれ、スフォルツァの家のものと年が釣り合うのが私しかおらず、婚約者がいましたものの、泣く泣く婚約破棄させていただきここに嫁ぐことになりました」

 そうエレノアが言うとマグナムは顔をさらに真っ青にした。

「不幸は重なり、生まれた2人も娘もつい最近までは、性格が父親に似たのか高飛車で人をも人と見ていない態度でしたのよ」

 と、アリアとリリスの方を見ていった。『転生者』のアリアは違った意味で肩身が狭く、顔が自然に赤くなってしまった。

「まあ、幸い片方はきちんと自分で過ちに気づいて、性格を直してくれたみたいだけれど、片方はいまだに目が覚めていないようですので、どうしようもありませんが」

 エレノアはアリアの方を一瞥し、少し微笑み、すぐに表情を消した。

 マチルダと伯爵夫妻はアリアの方を凝視した。

「ふふ。この子には先読みができるみたいで、こうやってベアトリーチェさんとユリウス君に気づいてくれたので、あなた方を手助けするきっかけができましたのよ」

 エレノアはアリアを褒めた。褒められたアリアは、さらに肩身が狭くなり、顔を思いきり隠したくなった。


「で、ここからが先ほどのお願いになるのだけれど」

 と、エレノアはマチルダと伯爵夫妻に向き直った。そんなエレノアの態度に、彼らもまた、背筋を伸ばした。

「まずはマチルダ」

 と、呼ばれたマチルダは、肩を少し震わせた。そんなマチルダを見やって、安心させるように側に行き、手を彼女の肩に置いた。

「嫌だったら断っても構わないのだけれど、貴女さえ良ければここで2人とも暮らして、スフォルツァの一員として暮らさない?もちろん、貴女の息子はスフォルツァの嫡男として」

 くすんだ金色の髪を持つマチルダは、その言葉に迷っていた。唯一残されていた公爵との子供(ユリウス)がこの夫人によって取られるのではないか、と。それに気づいたエレノアは、

「迷っていただいて構いませんわ。腹を痛めた子は、かけがえのないものです。心配して当然だわね」

 と笑い、

「しばらくの間は、様子を見ていてくれていいわ。私とアリア(・・・・・)がもし、貴女方の意にそぐわないことをしたり発言したら、即刻この屋敷を出て行っていただいて構わないわ」

 と言った。おそらく、父親やリリスを含めなかったのは、それをする自信があるのだろう。尤も、アリアもそれは同感だったが。

「このような身分の低い私が、お願いするのは烏滸がましいかもしれませんが、その条件でお願いいたします」

 マチルダは頭を下げた。

「マチルダさん」

 エレノアは少し伏し目がちに言った。

「何でしょう」

 これ以上何かあるのか、とマチルダは少し強張っていた。

「あなたは母親なんです。子供を守るのは当たり前です。今までの生活を変えてほしい、と願う私たちにより良い条件飲ませたくなるのは、たとえ身分が低くてもしょうがないことなのですよ」

 エレノアはごめんなさい、と謝っていた。

「私がもう少し強く持っていなければ、おそらくこんなことになってはいなかったのでしょう。これからは、共にこの家を直していきましょう、マチルダさん」

 彼女はマチルダの手を強く握っていた。

「―――はい」

 少し公爵夫人の言葉に驚きつつも、了承したマチルダだった。


「そして、セレネ伯爵夫妻」

 と、今度は2人に向き合った。

「あなた方の家のことはわたくしが、全力を持って疑いを晴らして見せます」

 その発言に2人は驚いた。エレノアは続けて、

「それができるまで、あなた方3人をこの家に住んでいただきます。その方がいろいろと危なくないでしょうしね」

 と言い、ベアトリーチェの方に視線を合わせた。

「ベアトリーチェさん」

 エレノアは優しく言った。彼女はたかが子供の自分に何か用があるのかという顔をしていた。

「あなたにお願いがあります。しばらくの間、少し気が早いかもしれないけれど、アリアの侍女見習いをしてみる気はない?」


 それを言われた瞬間、アリアは頭が真っ白になった。

(()の侍女見習い?)

 ゲーム内では絶対にありえない話だ。当然アリアが『悪役令嬢(・・・・)』であり、その運命に勝ちたいので、すでにゲームのシナリオは意図的に破綻させつつある。もちろん、よくある(・・・・)『ゲーム補正』なるものが働く可能性だってある。


(もしかして、これがそのゲーム補正なの?)

 アリアは少し頭が痛くなった。もしかすると、これでアリアが身分的に低い伯爵令嬢(ヒロイン)をいじめるといった、今度こそ根も葉もない(・・・・・・)悪評が出てくるのではないかと考え始めてしまった。

(あー、自分は絶対にやらないけれど、リリスならやりかねないわね)

 と別の意味で頭が痛くなっていた。


 そんなことを考えていると、ベアトリーチェとエレノアの話はまとまっていた。

「っていう事で、これからリーチェがアリアのもとで働くからよろしくね」

 エレノアはかなり上機嫌で、アリアに言った。


(絶対に起こしたくない未来。巻き込んでしまったからにはユリウスもベアトリーチェも救い出したい)

 スフォルツァ家という悪のダメ一族に巻き込まれることになってしまった彼女たちの未来は自分にかかっているのだと、アリアは強く思った。

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