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 アランの発言に、アリアは驚いていた。

 何故、自分が転生だと気づいたのか。そもそも何故、『転生』という言葉を彼は知っているのだろうか。そして、もし、彼がアリアと同じように『転生者』ならば、何故彼が攻略対象から最も違う行動をとっているのか、さまざまな疑問が彼女の頭の中を駆け巡ったが、一番に出てきたのは、

「どういう状況なんですか?」

 という、今現在の状況を尋ねる質問だった。

「ははは。アリアさん、面白い」

 その質問に、彼は何故か大笑いした。目には涙まで浮かんでいるくらい面白かったらしい。何が面白かったのか、アリアにはさっぱりわからなかった。

(これが、あの人たらしなクロード王子に専属護衛官として、弱冠10歳にして、陛下直々に指名された精鋭の顔なのかしら。いや、そういう問題ではなくて、そもそも私はこれでも死にそうになってたんですけれどね)

 アリアには笑えない冗談だった。


「ここは僕の家だよ。さっきも言ったけれど、最初は僕じゃなくてウィリアムが発見したんだ。で、彼の実家だとあまり薬とかないって聞いたし、彼の家庭教師のディート伯爵の家に連れて行こうと思うとかなり遠いって聞いたから、現場からあまり離れていない僕の家に連れてきたんだ」

 ひとしきり笑った後、アランはもう一度説明したが、そこは理解していたので、そうでしたか、と気のない返事を返しておいた。

「まあ、王宮の方には事実をクロード王子殿下経由で王妃殿下に話してもらって、真実を知っているのはごく一部だよ」

 アランは彼女が知りたいことを少し教えてくれた。

「そうでしたか、ありがとうございます」

 彼女はほっとしていた。先ほど、彼は『丸二日』眠っていた、と言っていたが、自分の体調よりも、そちらの方に気が向いていたのだ。

「大丈夫さ」

 アランは額に乗せられた濡れタオルを替えながら言った。


「で、君は『転生者』なんだよね?」

 アランは再び真剣なまなざしになった。もう確信して問いかけている以上、彼女はなさざるを得ない、と思っていた。

「ええ、そうよ。もしかして、あなたも――」


「そうだよ。僕も転生者さ」


 彼は少し申し訳なさそう顔をして言った。

「君はどうかわからないけれど、僕の場合はもともといた世界から男だったさ。で、当然僕自身は乙女ゲームのプレーヤーじゃないよ。3つ歳が離れた妹が『Love or Dead』を最初にはまったらしく、何故か男であった僕にかなり具体的に話されたせいで、興味を持ってしまったんだよね。で、ネットで攻略対象が誰、とか調べたから一回乙女ゲームをやってみたくなったんだ。その後、彼女がそのゲームを飽きた後にそのゲームを引き取って、僕自身も一通り攻略してみたんだ。彼女いない歴イコール年齢だった僕は、彼女が出来たらあんな甘ったるいせりふを吐かなくちゃいけないのかよ、って思ったけれど、どうやら現実ではむしろ気味悪がられるだけだって、その話をしたときに友人から聞いたから、だいぶほっとしたのを覚えているよ」

 彼は昔を懐かしく思っているように話した。しかし、昔の世界に戻りたい、という感情は見られず、単純に過去を語っているという感じだった。もちろん、アリアにしたって元の世界に戻れるわけがない、と分かっている以上、過去を述べるときに淡々となってしまうだろう。だから、彼の語る口調については理解できた。

「僕が『前世』の記憶を思い出したのは、アリアさん。貴女がベアトリーチェさんとユリウス君と最初に会ったあの茶会なんだよ」


 彼の言う茶会が、ベアトリーチェとユリウスに最初に会った茶会と聞いて、一瞬頭が真っ白になった。その茶会に彼も出ていたのか、と驚いたのだ。確かに彼の家は公爵家であり、彼女の家の茶会に招かれてもおかしくはない。しかし、何故今まで接触してこなかったのだろう、と疑問に思った。そんな疑問を彼女の表情から読み取ったのだろうか、アランは、

「僕がその時の話をずっと黙っていたのは、新興貴族であるバルティア家は本来ならば、名門貴族であるスフォルツァ家とはつながりはないはずだから、だよ」

 アランのいう事に頷けた。確かに『ラブデ』の世界の中においても(特にアランルート)、名門貴族であるスフォルツァ家は新進気鋭の貴族であるバルティア家に敗北する、という社会的、社交的な一面を持つ。そう意味で言えば、実際あの年までは、保守派であるスフォルツァ家が革新派の代表格でもあるバルティア家をお茶会に呼んだりすることはなく、あの茶会はかなり異常なことでもあったようだ。気づかなかった自分がおろかだ、とアリアは少し唇をかんだ。そんなアリアの様子を見て、アランは困った顔をして、彼の持っていたハンカチーフを差し出したので、アリアはありがたくそれを受け取った。

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