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アリアは夢を見ていた。場面は細切れで、実際に起こることの予知夢なのだろうか。やけに生々しい。
ある場面では、リーゼベルツのいつか、いや近い未来。なぜリーゼベルツかと分かるかというと、その着ている服にあった。
この国は、どこかの国と戦っており、王太子のクリスティアン王子ではなく軍服姿の彼女が、天幕内の上座で指揮をとっていた。指揮を執っている彼女の周りには知っている顔は誰も折らず、たった一人で見知らぬ兵を相手に命令を下している。
『 』
天幕の出入り口付近では、血まみれになったが兵士誰かの亡骸が兵士によって担がれて運ばれてきて、彼が言った言葉は聞こえなかったものの、アリアは何故か、彼に無意識に近づいた。その亡骸をきちんと見てみると、国一番の件の実力者であるセルドアだった。夢の中のアリアは悲鳴を上げ、天幕の外へ出て、宿営のあちらこちらを見てみると、疲弊しきった兵士たちが多く、少し離れたところにはたくさんの亡骸があり、その中には見知ったものもある。
クレメンス、ユリウス、アラン―――
何故―――――?何故、みんなは先に死んだの?そして、クリスティアン王子は――――??
場面は反転し、建築当時の意匠が凝らされ、非常に絢爛豪華な建物、リーゼベルツ王宮の中に彼女はいた。今度の彼女は、侍女の服装でも、先ほどの軍服でもなく、公爵令嬢にふさわしい装いだった。謁見の間だろうか、正面には玉座があり、左右には貴族たちが並んでいたものの、全て喪服を着ており、みな悲痛な面持ちであった。何事が起ったのか、と玉座を見上げてみれば、国王夫妻、そして婚約者のベアトリーチェが抱き合って泣いている。その原因を一瞬思い浮かべてしまったが、それを否定したく、横に視線をずらすと、国宝級の装飾が彫られた棺があり、そこにはクリスティアン王子が眠っていた。
国王夫妻とベアトリーチェがひとしきり泣きあった後、アリアの方を向いたが、向けた顔は憎悪に満ちていた。何故、と問う間もなく、国王が口を開き、
『お前のせいだ』
と言った。その言葉に同調するかのように、王妃も、そしてベアトリーチェも、
『そうですわ。クリスティアン王子が死んだのは貴女のせいよ』
『どうしてくれるのかしら。貴女が『悪役令嬢』でなくなったから、この事件は起こったのよ』
『息子をこんな目に遭わせてくれたからには、貴女にはそれ相応の罰を受けてもらいましょう』
と言った。アリアとしては、違う、それは私のせいではない、と叫びたかったものの、身体も、気づかない間に何者かに押さえつけられていたし、思うようにしゃべられない。
(私は昔のアリア・スフォルツァとは違うのに。必死に王太子殿下には恋をしないで生きてきたのに、結局、『悪役令嬢』の役からは逃げられないの―――――???)
「―――アリアさん、起きて」
アリアは誰かに必死に揺さぶられていた。目を開けて飛び込んできたのは、真っ赤な髪の青年だった。アリアの全身は何かでぬれていた。
「良かった、気づいたみたいだ」
青年はアリアの額の汗を乾いた布で拭い、額に手を置いた。少しすっきりしたアリアは、青年をよく見てみると、よく見知った人であることに気づいた。
「熱はないみたいだね。丸二日間眠っていたから心配しちゃった」
赤髪の青年――アラン・バルティアは、そっと彼女の手を握った。どうやら、彼はつきっきりで看病してくれたみたいで、目の下に少しクマが出来ていた。
「あ、ありがとうございます」
アリアはこれ以上思考を引きずられまいとした。が、あれは本当に起こり得るものなのか、それとも単なる夢であるのかはわからなかった。
「いいよ。お礼は僕だけじゃなくて、ここまで運んできてくれた人にもいってね」
アランは背後に目をやった。そこには、かつて屋敷でよく見た灰色の髪の少年、ウィリアム・ギガンティアがいた。
「ありがとう、ウィリアム」
彼女が礼を言うと、ウィリアムは顔を赤くして、そむけたものの、良いよ、と言ってくれた。
「彼はあそこのあたりに住んでいて、毎晩の日課の散歩の途中になんか獣が出ている気配がしたから、仕留めようと思って近づいたら、アリアさんが倒れていたんだって。で、本当に偶然だけれど、狩りの時にうっかり飾りひもを忘れてきてしまったから、それをその日のうちに取りに行こうとしたら、彼と鉢合わせて、君をここまで連れてきたんだ」
と、アランは説明した。どうやら、ここはバルティア家の屋敷らしい。あとでバルティア公爵夫妻に挨拶せねば、とアリアは思った。
「そうだったんでしたか。アランさんにも重ね重ねご迷惑をおかけしました」
アリアは再び頭を下げた。
「ううん。でも、あと少し、発見が遅れていたら大変でしたよ」
彼はアリアの頭を撫でた。
その後、アランはウィリアムにしばらくの間部屋を出るように言い、アリアとアランの二人が部屋に残った。
「まず、いろいろ聞きたいことがある」
アランは今までとは違って、真剣な目でアリアに尋ねた。アリアが頷くと、
「その中でも、一番重要なこと―――――――
―――――――――――――――――――――君も僕と同じで、転生者だよね?」
アリアは一瞬動揺してしまい、それを表に出してしまった。
「やっぱりそうだったんだ。やっと謎が解けた」
アランは一番の微笑みでそう言った。





