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 アリアはベアトリーチェの言葉に驚いた。

「失礼ながら申し上げると、アリア・スフォルツァ公爵令嬢。貴女様は私と同じ9歳のはずです。その貴女に、それが可能だとは思えないのです。どのようにして、『手助け』をされるか教えていただきたいのです」

 公爵令嬢(・・・・)であるアリアに伯爵令嬢(・・・・)のベアトリーチェが問う。社交界では通常掟破りとして白い目で見られることが多く、また、社交界の『前哨戦』ともいえる子供同士の付き合いでも掟破りに近いことだった。

 しかし、今のアリアは内心舌を巻きたい気分になっていた。


(そうね、『9歳児』のアリア(子供)では普通なら不可能よね)


 アリアは一瞬戸惑った雰囲気を出しつつも、すでにベアトリーチェを発見した時から、どのように解決(フラグ回避)へ向けて辿っていこうか、大体は見当をつけていた。

「そうね、はっきり言えば、全てが私の力ではないわ。私の母は公爵夫人、社交界へは多少顔が利くから、そこから地道にたどれるわ」

 彼女自身の力だけではないことを、先に明かしておいた。

「あえていうなれば、少なくとも私は、あと数年もすれば行儀見習いもしくは花嫁修業と称して、王宮に上がることになるわ。だから、それに乗じて事前に王宮の事だって調べることもできるわ」

 アリアはベアトリーチェの眼を、彼女もまた見ながら言った。


「分かりました、アリア・スフォルツァ公爵令嬢」

 ベアトリーチェはそう言い、優雅にお辞儀をした。

(確かに、彼女はヒロインなだけあってマナーも完璧だわね)

 アリアは先ほど彼女に感じた焦燥感はまだ残っていたものの、ゲーム内の彼女と同じ『マナーも完璧、文句なしの美少女』に安堵した。


 その後、アリアはベアトリーチェからいろいろな話を聞き出した。また、『ベアトリーチェの幼馴染』であるユリウスからも、今までに至る経緯(もちろん、父親のことは知らない(・・・・)ので、アリアは何も言わなかったが、ユリウスは顔の似た少女に出会ったことで、自分が何者であるのか少し察してしまったような気がアリアには感じられた。


 そうして、公爵家で開かれた特別な(・・・)お茶会は終了し、客人を見送った後アリアはエレノアに呼ばれた。

「あなたの目的は達成できたの?」

 部屋に入るなりそう切り出されたのだから、アリアは驚きで、一瞬呼吸をするのを忘れてしまった。

「ええ」

 彼女は静かにほほ笑んだ。

「私はセレネ伯爵令嬢と、デュート子爵令息を個人的に好きになりましたわ」

 直に話してみるのは重要なことですのね、と少し前置きをして、

「ねえお母さま」

 本題を切り出した。


「何かしら?」

 エレノアは娘の今まで以上の真剣な視線に少したじろいだ。

「2人と話していて少し気になったのですが、セレネ伯爵様はどのような方なの?」

 まず、アリアは依頼を直接話す前に、尋ねてみた。社交界で芳しくない評判を持っている人ならば、少しやり方を変えなかいといけなかったためだ。

「その方とわたくしは、面識はないけれど、結構、凄腕の持ち主だそうよ。確か、前回の国王の視察の時には財務庁の現場監督として同行し、領地の状態と王宮への報告や税収が少しでも違っていたら、すぐに見つけることができて、納税が不足していたところからは税を取り立てることができ、逆に多く納税しすぎていたところへは、納められた税を戻したんですって。ただ――」

 エレノアは不自然に言葉を斬った。

「ただ?」

 アリアは首をかしげた。

「ただ、現財務長官はキャスティン・ハワード侯爵――あのフレデリカの妹婿よ」

 なるほど、アリアは理解した。フレデリカ達はある意味貴族らしい考え方の持ち主だ。だが、当然清廉潔白(・・・・)を示す派閥も現れる。その代表と言っていいのが、おそらくセレネ伯爵だ。彼はその視察への同行の際の一件で、もともと目をつけられていたのが、より明確な憎悪へと変化し、今回の件に至ったのではないかと考えられた。

「ねえ、お母様」

 再びお願いをする際の呼びかけをしたが、先ほどとは違いエレノアはたじろがなかった。

「何かしら?」

 すっと目を細めて、アリアに尋ねた。

「もしよければ個人的にセレネ伯爵令嬢たちをお呼びしてもよいかしら?」

「それは、アリアとセレネ伯爵令嬢が仲良くしているのを見せつけて、危害を及ばなくさせるためよね?」

「はい」

「あなたにとっての利益はあるのかしら?」

 エレノアは手に持っていた扇でアリアの頬を撫でた。

「はい」

 今度はアリアが、見たこともない母の雰囲気に押されそうだった。もちろん、全てを答える訳にはいかなかったものの、

「私にとっての利益は、まずあの子たちの信頼を得ることです。そうすれば、今後何かがあったときにこの家――正確に言えば、お母様でしょうが、彼女たちが頼ることができる相手が増えること。そして、私たちも利用――とは聞こえがいいですが、王宮への窓口――反フレデリカ派をまとめるのに一役買ってくれそうではありませんか?」

 と答えた。アリアがそういうと、エレノアはそうね、と言った。

「それに私にとってみれば、かわいい()ですもの」

 アリアのその発言に、さすがのエレノアもついていけなかったのか、唖然となっていた。


「お母様、気づかれませんでしたの?どうやら、ユリウス・デュート子爵令息は私の弟ですわ」


 この世の中には血縁関係を『科学的』に証明する手立ては無い。だが、父親(・・)とユリウスの顔が似ていることを述べれば、母親は納得した。そして、

「私はそのユリウスとやらを恨む気はさらさらないけれど、裏切った人を許す気もないの」

 と言い、すぐさま行動し、ユリウスとその母親の針子を子爵家から合法的(・・・)に連れてきて、一緒に暮らさせることにした。また、セレネ伯爵一家も公爵夫人に招かれた、という態で公爵邸に匿うこととした。

「さすがだわね」

 あきれ半分に言ったのは、ベアトリーチェだった。彼女はあの会話のすぐ後に、家族ともども匿われるとは思わなかったらしい。


 そうして、フレデリカ派との戦いの火ぶたが切られた。

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