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今回は少し短めです。
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あの日から1週間がたち、スフォルツァ家公爵夫人エレノアが主催するお茶会が催された。今回のコンセプトは、『子育て奮闘記』。中流貴族以上の夫人の中でも私と同年齢程度の子女を持つ母親たちが、子供同伴で招待されたのだ。そのため、例の伯爵令嬢の母親も、身分に畏縮せずに娘を引き連れられて公爵邸に招かれていた。一方、本来だったら、妹のリリスも主催者の娘として、出席しなければならないのだが、あの後も素行が7歳にしてひどかったため、お茶会中は監禁状態にすることにしたのだった。
「じゃあ、子供たちは中庭に案内するから、そこで遊んでいらっしゃい」
と言って、次々とやってくる客人を出迎えたエレノアはメイドに子供たちを託させ、メイドには遊んでいる間にけがをしないように気をつけろ、と命じた。
連れてこられたのは十人ほどの子供たち。
その中でも、アリアの意識はヒロインにいっていた。しかし、彼女と幼馴染としてついてきた子爵子息のユリウス以外に『遊び人騎士』であるアランがいたことにその時点では気が付かなかった。
しばらくしていると、アリアの周りに人だかりができていた。どの子たちもアリアに媚を売ってくるような感じ見受けられ、アリアは自分で母親に提案しだしたことだが、今後これを提案するのはやめよう、と思っているくらいうんざりしていた。
次第に適当に相槌を返すだけの返事になっていき、最終的には見かねたメイドが、
「お嬢様、そろそろお手洗いに行かれたいのでは」
と手助けしてくれるまで、拷問は続いた。
もちろん、お手洗い、というのは方便であり、少し近くの小部屋で休息をとり、再び子供たちの会場である中庭に戻ろうとした。その途中、一人泣いているヒロインとそれを慰めている栗色の髪をした少年に遭遇した。
「どうされましたの、ベアトリーチェ嬢」
アリアはそっと声をかけた。すると、2人は近くにいたアリアに気づいていなかったみたいで、かなり驚いていた。
「驚かせてしまってごめんなさいね、ベアトリーチェ嬢とユリウスさん」
アリアは優雅にお辞儀をした。2人は顔を見合わせた、すぐに2人ともそろってフルフルと首を横に振った。まだ、泣いていたヒロインは立ち直っていないらしく、代わりにユリウスが、彼女が泣いていた訳を話し始めた。
「リーチェ、ベアトリーチェ・セレネは伯爵様の娘なのですが、彼女のお父様が勤めていらっしゃる財務で『横領』したものがいたらしいんです。もちろん、彼女のお父様がするはずはないのですが、財務相を勤められている公爵の息子のセタール様や財務相の補佐をされている伯爵様の娘のサジット様に、『それはベアトリーチェの父親がやったんでしょ』って言われたんです」
このシーンは見たことがあった。確かユリウスのルートだ。ユリウスと共に夜会に参加したヒロインが、アリアにそう糾弾されるのだ。アリアは、実家をとらず理路整然とヒロインをかばうユリウスに惚れたものだった。
アリアは早くもフラグが折れかけていることに安堵したが、当然真犯人を見つけなければならない。
「あら、そんなことで悩んでいらっしゃるの?」
少しすまし顔でアリアは2人に言い放った。2人とも唖然としているが、アリアはそんな2人を一瞥して、
「そんな間抜け顔をなさるから、なめられますのよ」
と言い、
「そんなことより、さっきの話」
「は?」
自分と似ている顔から、きつめの言葉が発せられるのを驚いているのに、アリアは気づいていなかった。
「私が解決するための手助けをして差し上げましょうか、と言っているのよ」
彼女はわざと膨れ顔を作って言った。
「そ、それは嬉しいのですが、可能なんですか?」
いち早く現実に戻ったのは、ヒロイン、ベアトリーチェ・セレネだった。彼女の眼は、アリアが本気で言っているのかどうか、見極めをしている眼のようであった。