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アリアはその後、何とか精神的に立て直し、国王一家と夜会までのひと時を過ごした。
王宮夜会の時間になり、国王夫妻とダリウス王子、ミスティア王女は先に大広間へ移動したが、クリスティアンとアリアは大広間に通じる王族専用扉の背後で、国王夫妻への挨拶を聞きながら合図があるまで待機していた。待っている間のクリスティアンは、アリアに対して以前あったような敵愾心は見受けられなくなったものの、未だ彼女のことを苦手に感じているのをアリアは気づいてしまった。
(これでは私の方が好んでも、彼は私に心開くことはないでしょうね)
アリアは公爵家の娘で、喩え愛がなくても結婚をしていかねばならないことの方が多いことを知っている。しかし、ここまでこれほどまでに苦手に感じられてしまっては、妻として意見すべきこともできなくなってしまう。そのため、アリアさえ変わらなければ、本当に『ラブデ』のような状況になってしまう。そのためには、やはり婚約は止めなければならない。アリアはそう思った。
やがて、国王夫妻への挨拶が終わり、新成人であるクリスティアンとそのパートナーであるアリアの名前が呼ばれ、大広間へ続く扉が明けられた。
大広間はかなり人が多かった。昨年の夜会はアリア自身がデビュタントだったという事でかなり緊張したため、その他大勢のことにまで気に掛ける余裕がなかった。そのため、通常と同じくらいの人数ではあったものの、今と比べたら周りを見渡せる余裕ができていることに気づいていた。
まず、新成人である王太子とそのパートナーであるアリアが踊る。二人が一礼して、大広間の中央に進むと楽師たちが曲を奏で始めた。最初はゆったりとした曲で、アリアは昨年から行い続けている練習のせいか、目をつぶっていても次のステップが踏めるようになっていた。もちろん、目を瞑るようなことはせず、分かる人にてみたらわざとらしい笑みを浮かべて踊っていた。対して、クリスティアンはアリアの方をちらちら見つつ、広間にいる貴族たちに顔を向けているのが分かった。
「お前はそんな笑みも浮かべるのか」
ダンスの最中、突如アリアに小声で言われたのは呆れた言葉だった。彼は、アリアの『わざとらしさ』に気づいたようだった。
「ここは社交界ですよ、王太子様。主役が笑顔じゃなくてどうするのですか」
アリアもまた、彼の言葉に呆れた。アリアにしてみれば、笑顔さえ浮かべていれば、特に若い女と子供には老若男女問わず構ってくれるのだ。それを使わない、という選択肢はアリアにはなかった。
「…そうか」
アリアの答えにクリスティアンはぼそり、と呟いた。
それから、もう一曲二人は踊った。もう一曲は彼女の最も苦手なテンポの速い曲であったが、国内では数人しかいない踊り手によってみっちりと踊れるようにしてもらっていたため、このクリスティアンのデビュタントのパートナーという場所であっても、その自信は彼女を堂々とさせてくれる。
そうして二人はファーストダンスが終わり、脇に退いて他の新成人のデビュタントダンスを見守ることをした。アリアはその中にベアトリーチェの姿を発見した。ピンクの可愛らしいフリルのついたドレスを身に纏っていた。彼女が興味津々にダンスたちを眺めていると、
「お前は誰か好きな奴はいるのか」
と隣から聞かれた。アリアはクリスティアンの方を見て、
「いいえ、いないわ。いたならば、貴方の婚約者の名前に上がっていないでしょう」
と答えた。
「分からんぞ。俺らの身分は、愛だの親密さとか関係抜きに結婚するのはお前分かっているよな」
両親がいないときの彼の口調はかなり雑だった。しかし、その口調はアリアにしてみれば、意外にこそ思えども、あまり驚きはしなかった。
「分かっていますわ。それに、私は貴方の隣に立とうとは思いません」
「何故だ」
「何故って、貴方の隣ではうまくたっていける自信はありませんもの。誰か王女かそれに相当する身分の女子を王妃にしてくださいな」
アリアの言葉は全て本心だった。
「そうか」
彼は真剣な表情で、そして感情を押し殺して言っていたため、彼の感情を読み取ることはできなかったが、アリアはそれでいい、と思った。彼の本当の感情を読み取らねばならないのは、真に隣立つ人間だけだ。





