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「ちょっと待ってください」

 クレメンスの言葉に、最初に反論したのはベアトリーチェだった。

「何ですか」

「いくつか伺いたいのです。まず、そこの灰色頭は何者なんですか。そして、ユリウス様はわかりますが、私やアリア様が武術の授業を受けなければならないのでしょう」

 その質問はアリアもしなければならないことだったので、手間が省けた、とベアトリーチェに内心感謝した。

「私もそう思います。社交界では見かけたことがない方なので、どなたか教えていただけると嬉しいです。そして、何故私たちが?」

 アリアが頷きつつ、同じような疑問をした。

「そういえば、先ほど前庭において、アリア姫に初っ端で剣を抜こうとしていたので、うっかり紹介するのを忘れて連れて帰ろうと思っていました」

 といけしゃあしゃあと言ったクレメンス。そんな彼の態度に見かねたのか、ベアトリーチェは、案の定、かなり不機嫌さを隠さない。しかし、言葉にしないだけまともだった。

これ(・・)はウィリアム・ギガンティアです。身分としては一介の平民ですが、かなり剣の腕はいいでしょう。私の屋敷の近くに住んでいた(・・・・・)少年で、5年前に偶々家の前を歩いていたところ、彼をはじめ数人の男子たちが剣に見立てた木の枝で遊んでいたところ、結構腕がたちそうだったんでそのまま引き取りました」


(なるほど、彼は拾い物上手なのだろうな。だから『ラブデ』内でも、社交界に少し疎い主人公をサポートする役割があったんだろうな)

 この言葉によって、アリアはなんとなくこの二年間付き合ってきた男のことを理解した。しかし、もちろん、それがすべて吉と出ることはいだろう、ともまた、思った。

「なるほど。で、二つ目の質問はどうなのです?」

 ベアトリーチェはへえ、と言ってすぐさま続きの質問に対する回答を促した。すると、クレメンスは少し迷惑そうな顔をしたが、

「そうですね、確かにお嬢さんたちには武術は必須ではありません。しかし、必須でないのと必要に迫られるのとは違います。例えば、ベアトリーチェ嬢、貴女は今アリア姫の侍女としています。もし、嫁ぐ前のこの時期に何者かに襲われたら、どうするのです。ただ、泣き叫んで助けを待ちますか」

 その言葉に、ベアトリーチェは少し青ざめた顔で首を横に振った。ベアトリーチェの内心すべてを見ているわけではないけれど、アリアとしては嫌われていなかった、と少しほっとした。

「ですよね。できることならばあなたが盾になりたい、そう思いますよね」

 クレメンスは再び問いかけ、その問いにはベアトリーチェは首を何度も縦に振った。

「そのためには、ある程度の武術の嗜みが必要となってきます。ですので、貴女にも教えると言ったのです」

 ベアトリーチェははい、分かりました、と言って深くお辞儀した。

「分かっていただけなら、よかったです。そして、アリア姫」

 と、アリアの方を度は見た。

「貴女っていう人は、自分がどんなけ凄いことをしているのか知っているのですか」

 そのクレメンスの言葉にアリアはかなり心当たりがありすぎて、冷や汗を流していた。

「えっと、心当たりがありすぎて」

 アリアは正直に言ったが、


「『心当たりがありすぎて』じゃないでしょう」

 クレメンスに叱られた。まあ、当たり前ではあるのだが。

「貴女は騎士団長であるセルドアに個人的に師事してもらっている、と聞きましたが」

 クレメンスは死んだ魚の目をしていた。

「はい」

 アリアはその言葉に逃げも隠れもせず、肯定した。

「前の夜会の時にセルドア様に『なんでも願い事を聞く』って仰っていただいていましたし、じゃあ、と思いまして、侍女仕事に慣れてきたときについでに王妃様にお願いして、『どなたか騎士団の人に武術教えてもらいたい』と言ったら、セルドア様が引き受けてくださったみたいで」

 アリアは開き直って言った。その言葉に(特に『王妃様にお願いして』という部分に)反応したクレメンスは、

「貴女っていう人は、」

 と呆れた顔で言いかけたが、もう何も言いません、と現実逃避をするために一度頭をふって、

「もういいです。貴女については私の予想を超えていくようなので、もう何も問わないでおきましょう」

と言った。

「今回ウィリアムを呼んだのは、先ほども言ったとおり、結構剣の腕がたつので、年は少し離れていますが、剣の稽古には向いているはずです。また、スフォルツァ公爵として平民である彼の生活などに、触れておくのもよいかと思って彼を連れてきました」

 彼は続けて、ユリウスに向かってウィリアムをユリウスの方に押し出しながら言った。押し出されたウィリアムは、

「俺って平民代表なのかよ」

 とぼやきつつも、一応丁寧に、

「お願いします」

 とユリウスに向かって頭を下げていた。

「そして、ベアトリーチェ嬢は私と共に武術の基本から。スフォルツァ公爵と違ってみっちり行うことはありませんが、ある程度の技術を身に着けてもらうようにします」

 ベアトリーチェはクレメンスの一対一の授業を受けることになった。これで、二人の方向性は決まった。

「そして」

とアリアの方に向きなおした。

アリアはすでに、昨年の内に女性が学ぶ護身術に加えて僅かながら、騎士団の子たちが受ける授業を受けさせてもらっていた。

「貴女にはしばらくたったらベアトリーチェ嬢の相手をしてもらう。それまでは、セルドアに学んだ成果をウィリアムに対して見せてみなさい」


 そうして、夜会までの間、ベアトリーチェとユリウスは座学やダンス講義の合間に、アリアは社交のための茶会などの合間に、ウィリアムはスフォルツァ公爵家の下働きとして働く合間に、それぞれから武術を習い、アリアとウィリアムは競い合った。





 しばらくたち、デビュタントの夜会が迫ったころ、スフォルツァ家の4人とマチルダ、ベアトリーチェ、セレネ伯爵夫妻、クレメンスがそろう夕食会を開いた。セレネ伯爵夫妻はしばらく見ないうちに、(ベアトリーチェ)が美しくなったと、感動して泣いていた。


「お母様、ご夫人様」

 食事会が終わり、客人たちが帰宅し、ベアトリーチェも自室に下がったところで、ユリウスが口を開いた。

「何かしら」

 二年前まで下級貴族の子爵夫人として生活を送ってきたマチルダはともかく、エレノアはしばらく夫と別れて王都に暮らす。もちろん、二人ともあまり愛情がなかった結婚生活ではある。

しかし、他の壮年の貴族たちとは違い、誰かを愛するといったことを知らないのか、あまり社交界に行っても男性と話すことはなかったし、必要最低限にとどめていた。そのため、屋敷に男性を招く、という事もせず、家族で慎ましく暮らせればよいと思っていた。そんな彼女たちは次に流行りそうなドレスのデザインを一緒になって考えていた。

「僕、王立騎士になって皆さんを守りたいです」

 彼の言葉に、母親たちだけでなく、その場にいたアリアたち姉妹も固まった。

「ユリウス?」

 マチルダは少し考えたが、

「私は賛成です。もちろん、文官の仕事も重要ですが、少なくとも王都はかなり治安がいい方です。なので、今はそこそこ人材もいるという証明になります。なので、急いで文官になる必要性は感じられないと思いませんか、エレノア様」

 と言い、問いかけられたエレノアも、

「そうね。スフォルツァ家は文門の家です。しかし、貴方が望めば武官にもなれるでしょう」

 と言った。

「入団試験は春にあるはずだから、夜会が終わったらディート伯に聞いてみましょう」

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