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 朝食後、アリアは妹・リリスを連れて馬車で王宮へ向かった。

 ちなみに、2つ下のリリス・スフォルツァもまた、『悪役令嬢』であり、姉妹はそろって救いようのない破滅エンドがこのままだと待ち受けているのだった。ちなみに、リリスの容姿は姉・アリアと瓜二つで、年の差による身長差だけであった。また、彼女の性格は、というと、

「ねえ、お姉さま、今回は叔母様に何をおねだりいたしますの?わたくし、叔母様のようなお爪に塗る紅が欲しいのです。あのエターナル侯爵家のミリアさんを見せたら羨ましがるかしら」

 そう、つい昨日まで(覚醒前)のアリアと瓜二つだった。どうやら、姉のしていることはかっこいいと思っている節があるので、妹の性格を軌道修正させるのが一番手っ取り早いと思った。

「リリス」

 アリアは少し感情を押さえていった。

「何ですの?」

 昨晩の噂は耳に入っているのだろう、少しおびえた表情をリリスは取った。

「あなたは生きたいの?それとも死にたい?」

 普段の(アリア)からそのような言葉が出てくると思わず、リリスは混乱した。

「おそらく、昨日までの私たちの性格じゃ、生きていくことは難しいわ。良くて没落(・・・・・)悪くて殺されるわね(・・・・・・・・・)

「―――で、でも、今のままの私たち(・・)でも、何とか回避できる手段はありませんの?」

 リリスには、(アリア)の変化は受け入れがたかったのかもしれない。

「それならば、勝手になさい。私はいつでもあなた(・・・)を切る」

 アリアはわざとリリスを突き放した。


 それから、しばらく重い雰囲気が馬車の中に漂っていたが、やがて王宮に着き、ミスティア王女の部屋へ通された。

「あら、いらっしゃい。可愛い姪っ子たち」

 部屋の中で妖艶にほほ笑んだのは、部屋の主(ミスティア王女)の母親・フレデリカだった。彼女は、いつでも自分(と娘)を美しくすることで知られており、王妃やその息子達である王太子兄弟の方が慎ましい生活を送っている。ちなみに、部屋の主(ミスティア王女)は母親と共にお茶を飲んでいた。

「叔母さま、お願いが――っ。お姉さま」

 リリスがこの部屋の()であるミスティア王女への挨拶をすっ飛ばして、叔母に『お願い事』をしようとしたため、アリアはヒールでリリスの足を踏んだのだった。

 キッとリリスににらまれたが、アリアは素知らぬ顔で、

「ミスティア王女殿下、フレデリカ叔母様、再びご招待いただきましてありがとうございます」

 アリアはきちんとした礼をとった。

「あら、いつもの強気な態度はどうしたの、アリアちゃん」

 フレデリカは自身が国王の愛人という立場のためか、ごく一般的なマナーはあるのだが、モラルという観念はなかった。

「で、リリスちゃんは何が欲しいの?」

 叔母からの救いなのか、同性でもたじろぐ色気が強くリリスは強者のほうに押されてしまいそうだった。

「リリス!」

 アリアは、今度は、はっきりと強く言った。

「うっ――」

 姉の変化にリリスは負けた。それを見たフレデリカは、

「あら、つまらないの」

 と自ら(・・)の社交に向けて準備をするために、奥の私室へ向かい、その場にはアリアたち姉妹とミスティア王女が残された。


「アリアお姉さま」

 侍女に連れられ、3人で中庭に来て花を摘んでいた。春先であったので、パンジーやシロツメクサと言った花が咲いていた。花冠を作っている最中、ミスティア王女がアリアに話しかけてきた。リリスがひとり離れたところに行った直後に王女が近づいてきたので、王女がアリアに何か話しかけたいことがあったのはすぐにわかっていた。

「何でしょう、王女様」

 彼女はあくまで『家臣の娘』という立場をとった。ゲームの中では、アリアとミスティアの接点はわからなかったが、ゲームの性質上、『ため口』をきいていた、なんていう展開(フラグ)がありそうで、折れるものは少しでも折っておきたかったのだ。

「もうすぐ嫌な事が起こる予感がするのです」

「嫌な予感ですか?」

「はい」

 花冠を作る作業は自然と手が止まっていた。ミスティア王女は、確かゲーム内で夢占いの王女だった、とアリアは思いあたった。

「王女殿下は何か知っていらっしゃるのですか」

 その言葉に、ミスティアは驚いた。今まで夢占いについて誰にも言ったことはなかった――母親にでさえ。


「私の場合は、少し想像がついただけですよ」

 アリアは転生前の記憶(機密事項)について漏らすつもりはなかった。

「もし、それを止めたければ、あなたは自分の母親を切りなさい」

 先ほどはリリスに向けて自分自身の覚悟を示した言葉を、対象は変更したものの、全く同じことを王女に言った。

「私は今後、今と同じ状態だったらフレデリカ叔母様を切る。そして、妹を切るわ」

 彼女は、9歳とは思えない真剣なまなざしをしていた。


「私はまだ、本当に守りたいものはありません。ですが、殿下を守る力はいつか必ずつけますので、それまで待っていていただけませんか?」

 アリアなりの覚悟だった。父親の反対を得るかもしれない、母親の悋気をこうむるかもしれない。

 だが、『ラブデ』の中では王女に仕えるというルートは存在しないが、これならいっそ、そもそも物語(ストーリー)を成立しなくさせるのもいいかもしれない、とも思っていた。



 そして、夕暮れ時に王宮を辞し、帰宅した。

「母上」

 アリアは夕食前に母親のもとを訪れた。

「どうしたのですか?」

 アリアが自ら母親の元を訪れることは今までになかったので、訝しむと同時に、少し嬉しそうだった。

「叔母様のことで少しお伺いしたいのです」

「フレデリカ様の事?」

「はい。なぜ、父上は叔母様の浪費癖をお知りになっているのにもかかわらず、お諫めにならないのですか?」

 アリアは、前世でこのゲームをプレイしているときから気になっていたことを聞いた。

 エレノアは、アリアが聞いてきた内容について、少し驚きつつも、

「マグナムの実家―スフォルツァ公爵家は、先代まで中央での派閥を形成していなかったの。だけれど、フレデリカ様が愛人となられてから、フレデリカ様のお口添えによって、公爵家は政界に進出できたの」

 これで納得がいった。

「だから、あなたもフレデリカ様には逆らわないで頂戴」

 エレノアは膝をつき、目線をアリアに合わせ、頬を撫でた。もちろんアリアは納得がいっただけであって、共感できる話ではなかった。


「母上様」

 ゆっくりとアリアは母親を見た。


「私は、叔母様を超えて見せます。母上様にそんな顔をさせないよう、必ずこの公爵家とこの国の民を守って見せます」

 そして、深くお辞儀した。

「どうか、王宮侍女として、修行させていただけませんでしょうか」

 彼女は必死になって頼み込んだ。


「分かりました。では、その前に徹底的に、マナーを学んでもらいましょう」

 エレノアは(アリア)の覚悟に自らも動くことにした。

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