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 結局その後、マチルダの了解を得て、新しい当主となったユリウスと共にエレノアとアリアは王宮へ向かった。移動手段にはディート家の家紋が彫られた馬車を用いた。誰もいなかった屋敷から庶民が使うようなぼろい馬車が王宮へ向かうのも怪しいし、だからと言って公爵家の馬車を使う訳にもいかなかった。

「で、貴女はどこまで掴んで、セルドアを巻き込んだんですか」

 馬車に乗り、走り出した瞬間、クレメンスがアリアに尋ねた。彼は、アリアが彼の友人(・・)に若干『お願い』したことについて、気づいていたらしい、と追及されることを諦めた。その質問には、エレノアも驚いていた。

「私が確証を得て掴んでいて、貴方に話せるのは二つ、まず、ベアトリーチェ嬢の実家であり、貴方のご親戚でもあるセレネ家が誰かによって陥れられていた、という事。二つ目は、今回の事件のように、父が誰かの妨害を受ける、という事だけです」

「それで、騎士団長であるセルドアに反乱分子の監視と捕縛を命じたのですか」

 彼の喋り方は穏やかだったが、その言葉とは裏腹にこめた視線は鋭かった。

「正確に言えば彼らの捕縛はついででした。どちらかというと、父の警護をお願いしました」

 そういうと、ユリウス以外の面々が驚いた顔をした。確かに、アリアも二人の関係性を知らなかったら驚くことない事実として受け止められるが、関係性を知っている面子ならこのような反応を示すことは想像に難くなかった。

「貴女っていう姫は、無謀過ぎませんか?いくら騎士団長だからと言っても、セルドアですよ。あなたの『お願い』なんか破って私情に突っ走ったかもしれませんよ」

「全くです。貴女は今頃マグナム様の命はなかったのかもしれないのですよ」

 クレメンスとエレノアに口々に言われたが、アリアは全く動じた様子を示さなかった。


「あの方がお父様の命を奪う事だけは絶対にしない、と思っていました」

 アリアは少し考えるそぶりをした後、口を開いた。

「なぜなら、あの方は『騎士団長』なのですよ」

 大人二人は、子供の言葉に静かに耳を傾けていた。

「いくら6年前のことがあるからと言って、父に恨みを募らせていても、国王の親戚にあたるスフォルツァ公爵を殺した、となれば自分自身に悪評が付きますし、騎士団の管理体制を問われます。なので、愛国者でもある彼は、自らそんな真似をするはずがないんです」

 『セルドアが愛国者』、といった部分にクレメンスが多少反応したが、無視をさせてもらうことにした。

「だから、もしかしたら状況によっては父を牢に繋ぐことはしたかもしれませんが、命だけは奪えない理由があるんですよ」

 アリアは断言した。話を聞いていた二人は、唖然とした顔でこちらを見ていた。

(本当は他に二つ(・・)の作為を感じるけれど、ここでは言えないよね)

 彼女は、それ以降は王宮に着くまでの間、窓の外、王都の流れる景色を見ていた。



 王宮に着くと、速やかに王族専用の通路を使わせてもらい、王族の居住エリアにたどり着いた。

 エレノア、アリアとユリウスのみが部屋に通され、クレメンスは部屋の外で待機することになった。

 ちなみに、3人が部屋の中に入っていくときに、クレメンスが『良いなぁ、こんなところで暮らせるなんて』と小声で言っており、アリアがそれに対して小声で『責任とリスク生じますけれど、暮らします?』と尋ねたら、『あ、そうだった。じゃあ、いいや』と言ってさっさと逃げ出したのに、アリアは笑いをこら切れなかった。


「して、エレノア。其方の夫の所業は聞き及んでおるな」

 国王は初めに従妹のエレノアに尋ねた。ちょうど一年前にあったときは面白そうにその紫の瞳を細めて笑っていたのを覚えていたが、今は全く笑っていなかった。

「はい」

「いくら内部の膿を出すためとはいえ、彼のように無実の貴族を本人にも知らせず、勝手に追い落とすなど、呆れた所業だ」

 彼は、肩をすくめた。エレノアは誠に申し訳ございません、と、さらに深く頭を下げた。それに対し、国王は、

「いや、ここまでは大半が建前で、残りの少しは本音だ」

 と言った。その言葉に、エレノアとアリア共に頭の上に疑問形がのっかっている状況だった。

「もう少しでフレデリカにたどり着こうとした状態にまでもっていってもらえたこと、なかなかの働きであった」

 国王はウィンクをそう言った後にし、エレノアとアリアを共に更なる疑問のるつぼに陥らせた。それを隣で見ていた王妃が、

「あなた。それをするから皆さんが困るのではなくて」

 と言って、国王に詳しい説明を促した。

「はは、そうだな。其方たちが動き出してから、マグナムもきちんと(・・・・)動き出した。だけれど、わざわざ聞くのも野暮だったから、放っておいた」

 非常に軽いノリで国王は笑い飛ばした。

「もちろん(アリアを指しながら)今までの其方みたいに、あらゆる人に害をなすような存在だったら、排除したが、彼の男が実際に動いたのは一件。セレネ伯爵の件だけだ。少し気になって、『ああ、何か危険を冒してまで、やりたいことがあるのか』と思い、双方の関係性調べてみたら、とても驚いた。財務の部屋の方が真っ黒だったからな」

 と、国王は鼻歌を歌い始めそうなテンションで言った。

「で、機を熟して、なんて、思っていたんだが、なかなか出てこないから、こちらもそろそろ痺れが切れてきて、こちらから攻撃しようと思ったら、とうとう昨日の晩のように誰かさんが暴走したんだ」

 ともう一度ウィンクをした。

「処分もしたが、あくまでもフェティダ家のついでだから気にするな。まあ、フェティダ家はしょうもなくアホなことをしてくれたから、当主を罷免(・・)するといった形にしたし、本来ならば、マグナムの処分もそのようになった。だが、いきなり違う罪で2家もおい落としたとなれば、ただでさえ砂上の楼閣である王宮が瓦解する」

 国王は、もう一度笑った。

「して、其方らスフォルツァ家の嫡子(・・)はユリウスだとマグナムは去り際に行っておったが、本当か」

「はい」

 エレノアはまっすぐ従兄を見て言った。その後、彼女はユリウスの頭を下げつつ自分の頭を下げた。

「ユリウスがスフォルツァ家嫡子で間違いありません」

「そうか」

 宣誓した彼女を見、王侍従に一つの巻紙を渡し、エレノアに渡した。彼女はそれを開き、中に書いてあったことを読み、驚いていた。

「ユリウスを次期当主とし、成人までは姉であるアリア(・・・・・・・)・スフォルツァを当主代行とする」

 国王は書の内容を口頭で述べ、その発言に驚いたアリアに微笑んだ。呆気に取られているアリアを傍目に、今度は王妃が続けた。

「エレノア、其方はアリア嬢が当主代行であることを悟られないようにしなさい。そして、次期当主代行の任が終わるまで王都におりなさい。アリアは引き続きあなたは私の侍女を務めて頂戴ね」

 王妃のそのにこやかな口調に抗えるはずもなかった。

 その後、正式な書類と家紋を象った印があしらわれている指輪を、ユリウスが受けとり、アリアもまた、彼女しかわからないような形にした代行の印を受け取り、略式ではあるものの当主就任式が終わった。

 部屋から去ろう、としたとき、エレノアとアリアは引き留められた。


「アリア・スフォルツァ嬢に尋ねたい」

 国王は部屋にあったソファに座るよう指示した。

「何でしょうか」

 アリアは自分に質問が来ると思っていなかったので、かなり焦っていた。

「其方は婚約者やそれに準ずる者はいないか」

 国王は軽く尋ねたが、もともと見合いなどをしている暇のなかったアリアは否と答えた。

「ならば、一人の父親として、一人の国王として、頼みたいことがある」

 そう言って国王は頭を下げた。困って隣を見たが、王妃もまた、頭を下げていた。その様子にエレノアもまた、困惑していた。



「我が愚息、クリスティアンの婚約者となってほしい」

 アリアは一瞬、その意味がつかめなかったが、それを理解した後は、ここが王宮であるという事も忘れて、思いっ切り叫んでいた。


(いやっ、これって俗に言う『ゲーム補正』かしら)

 アリア、11歳の夜会直前の出来事だった。

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