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 アリアが王妃付きの下級(・・)侍女として王宮に上がったことは、すぐさま社交界に広まった。それまで日和見していた貴族たちは、高位貴族の娘がなる上級(・・)侍女ではなく、しがない下位貴族や商人の娘がなる下級侍女として王宮へ娘をやったスフォルツァ家を陰で笑うようになったのだ。

 そして、王宮にいるアリアにも被害(・・)があった。新人いびり、という名前の身分だけ見ればアリアよりはるかに下の下級侍女(同僚)や上級侍女たちによる嫌がらせがあった。例えば、王妃のお茶会の時間を意図的に一時間ずらされて伝えられるのは王宮に入って最初に行われており、その後もわざと掃除道具を掃除する場所とは反対方向の遠いところに隠されたり、王妃の侍女が一堂に会して内々のお茶会をするとき、わざと給仕の恰好をさせ、参加させてもらえなかったりするなど、なかなかいい(・・)扱いをしてもらった。最悪なのとしては、下級侍女の私室としては特別に個室を与えられていたのだが、夜の業務が終わり戻ろうとすると、部屋の前に汚物が巻き散らかされるといった、ここはどこの平安時代に作られた後宮の長編物語だよっていうツッコミを入れてしまった事件もあった(ちなみにその時は、すぐさま『ああ、ここもゲームの中の王城なんだっけ』と思い直したが)。

 しかし、そこでされるがままにならないのはアリアだった。ゲーム内の性格が変わってないアリアだったら実家に頼んで家の名前使ってその家ごとつぶしているとは思うが、今のアリアにそれをする勇気はなかった。その代りにしたのは、2回目に王妃主催のお茶会に間接的に誘われたときは、相手の意図を読んで(・・・・・・・・・)半日前までにすべての業務を終わらせ、会場となる場所において準備をしていた。そして、遅く優雅にやってきた先輩侍女たちは準備を誰がしているのか知らなかったため、お茶の些末な違いなどに気づくはずもなく、簡単に恥をかかせることに成功した(ちなみに、そのときの侍女は間もなくして王宮を辞したらしい)。また、掃除道具については前世で流行った強盗犯対策をこの王宮バージョンに改良して、誰が隠したのか王妃に露見させることが成功した(そして、すぐさま『窃盗罪』として王宮警吏に捕り、彼らに実物を『証拠』として持っていかれたものの、後日感謝状と共に、アリアが作ったものを改良したものが役に立っているという連絡が来た)。侍女同士のお茶会の時も王妃主催の時と同様に侍女長にしか味覚の区別ができず、彼女以外の侍女は顔を真っ青にしていた。


「アリア嬢、すぐに王妃様の元へ参りなさい」

 数か月たったころ、アリアは王宮に入って初めて王妃に呼ばれた。すぐさま彼女の元へ向かった。

「はい」

 彼女はいつも作業用としているドレスから王妃に謁見するにふさわしいドレスに着替え、王妃の居室へ向かった。

「お呼びに従い、馳せ参じました、王妃様」

 アリアは扉の外から声をかけた。すると合図があったのか、扉が開かれた。

「失礼いたします」

 彼女は部屋の奥の正面に座る主人を認め、その場でひざを折り、口上を述べようとした。

「このたびはお招きにあずかり――」

「よい」

 アリアの口上の最中に、王妃が遮った。

「顔をあげなさい」

 そう彼女が言ったので、失礼いたします、といいアリアは背筋を伸ばして王妃を正面から見つめた。

「2人きりになさい」

 王妃は上級侍女たちにそう言って、下がらせた。下がっていく上級侍女の中にはアリアを憎々しげに見つめるものもいたがアリアはすべて無視した。


「なかなかあなたはやりますね」

 上級侍女たちが去って行ったあと開口一番に言われたのはその言葉だった。アリアは心当たりは多少(・・)あったものの、どれのことをメインに指して言っているのかはわからなかった。

「全てについてですよ。ただ、特に掃除道具を隠された件については、画期的なアイディアを考え付きましたね」

 王妃は明らかに微笑んでいたが、目は笑っていなかった。アリアはどう返答してよいのかわからなかったので困惑した。そんな彼女に気づいたのか、純粋に誉めていますよ、と王妃は再び微笑んだ。今度は目もきちんと笑っていた。

「ごめんなさいね。つまるところ、私が言いたかったのは、貴女によって困った上級侍女たちを体よく追っ払えたし、スフォルツァ家もいいネタになったのではないの?」

 彼女は彼女自身の髪をもてあそんでいた。というか、今なんておっしゃいました、と詰め寄りたくなった。かなり過激な発言が聞こえたような気がした。

「はあ」

 かなり困惑していると、王妃はこちらに来てアリアの頭を撫でた。

「あなたが追っ払った娘たちは、私でもかなり厄介な娘たちが多くて、手に負えなかったのよ。だから、あなたがあのようなことをしてくれたおかげで、こちらもお払い箱として王宮から出て行ってもらうのに好都合だったのよ」

 アリアは幻聴が聞こえたような気がしたが、すぐさまその可能性を取り払った。

「あなたなら、フレデリカ一派を片付けれる気がするわ。だから、それまで気長に待っているわ」

 アリアを抱きしめた王妃はそう言った。

「その代わり、あなたの望みは可能な限りすべてかなえてあげるから、いつでも言ってごらんなさい」

 彼女は微笑んだ。アリアはその言葉に、ゲーム内の彼女なら「上級侍女にしろ」などと宣いそうだな、と思いつつ、今まで考えてきた『あること』をお願いしてみようと、決心した。

「では今、一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」

 彼女は王妃の眼を見つめた。なあに、と王妃は言った。

「少しだけ王立騎士団で武術を学ぶ機会をいただけませんでしょうか」

 そのアリアの『お願い』に王妃は軽く目を見開いた。そして、すぐに答えは返せなかった。

「駄目、でしょうか」

 アリアは半分駄目元で言ってみたのだ。許可が下りなくとも、そんなに落ち込む必要はなかった。

「構いませんわ。団長に話を通しておきましょう」

 王妃はお茶目にもウィンクして、アリアの要望を通した。

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