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「名代として各国を回ってきてほしいのだ」

 王の言葉にアリアは、はあ?と素っ頓狂な声を上げてしまった。

「ですが、アランがすでに王位継承者と定められたわけですし、私が行くよりもアランの方が適任なのでは?」

 そうアランが仮にも次期国王と決まっているのだ。その彼が行くべきなのではないかと問い返すと、二人ともが首を横に振った。


「この国の内政は安定したとは言えない。その間に二人ともが各国を回っているとなると、こないだの貴族会議で最後まで渋っていた連中らがここぞとばかりに動く可能性がある。それを叩き潰すために、あえてアリア姫、其方だけで行ってきてもらいたい」


 国王とアランの意図が見えたので、アリアは目を伏せなるほど、と頷いた。確かに国内の状況はまだ、落ち着いたと言いにくい状況だ。各方面でそれぞれの火種を抱えている。それに、アランは急きょ決まった王位継承者であるので、諸国の猛者たちから言質を取られかねる可能性もある。そう言った意味で、アリアは何度も諸国の猛者たちを相手しておりかなり外交官としても優秀なわけであり、なおかつ国内においてはディートリヒ王とアラン、各部署の長たちが揃って反国王派の芽をつぶしやすい時期を意図的に作るのだ。

「そうですか。実際に行く国とその国で行われる式典、というのは?」

 アリアはサイデスカ、と呟き、頭を切り替えた。ディートリヒ王とアランは共に頷き、アリアに説明し始めた。


「まずはミゼルシア。ラシード王の即位5周年記念式典と、王の結婚式だ」

 最初の訪問先を聞いた瞬間、はあ?と思わず突っ込んでしまった。確かに王妃と呼ばれる人とは出会わなかったけれど、本当に結婚していなかったんだ、あの人、とツッコみたくなったのだ。

「そして、スルグランの執政からも其方宛に招待が来ておる」

 と言って王が手渡したのは、スルグランの紋章――――双子百合の封蝋が押されている封筒だった。あまり内容を期待しないで読むと、そこには案の定な中身が書かれていた。

「馬上槍試合って、実際にやるんですね」

 物語や伝記で読んだことはあるが、実際に行っている国は初めて見た。一応騎士団が存在するこの国でも、もうすでに廃れてしまっているというのに。どうやら、その馬上槍試合を執政自ら開くから、もちろん見に来てくれるよな、と暗に脅しのような文章が書かれていた。

「そして、最後は南方のスベルニアだ」

 アリアは最後に言われた国を聞いて、思わず目を見開いた。妹のリリスと会えるのだろうか。

「ちょうど二か国回っている間に蓮祭りが執り行われる時期なるだろう。その時期を見計らって行ってくるとよい」

 『蓮祭り』。それは、レゼニア教の行事の一つであり、リーゼベルツでも行われている。しかし、スベルニアで行われている『蓮祭り』はレゼニア教国家の中でも最大規模のものであり、前世のたとえで言うのならば、南半球のある国における謝肉祭と同じようなものだろう。そして、そこには必ずレゼニア教の宗主猊下が参加するので、猊下に挨拶(・・)してきなさいという事だろう。

 少し横暴な計画だったが、すでに王の退位の話や王太子の継承権辞退の時にすでに、誰が国王になってもそのような状況になっていたのだろう。アリアはまさか自分にそれが降りかかってくるとは思わなかったが、他の誰であってもこの周遊の話はうまくいかなかっただろう、とも考えた。

「分かりました。落としどころは?」

 アリアはただ遊びに行くのではないと考えたので、最終的にどこへ持っていけばよいのか尋ねたが、王は笑って、

「今回は何も考えなくて良い」

 と言う。『今回は』とついているので、次回があるのか、と思ったが、そこにはあえて触れなかった。

「分かりました」

 アリアはそう言い、すでに冷えたお茶を飲み、再びため息をついた。


 アリアは奥宮へ戻ると、すぐに出立の準備をした。

 ミゼルシアのラシード王に留学(・・)の時の礼を言いたかったのもあり、彼と会えるのは非常に嬉しかった。スルグランへ行くのも二回目だが、あの時はあまり観光が出来ず、非常に心残りだった。なので、今回は可能な限り観光もしてこようと思っている。

 そして、スベルニア皇国へは初めての訪問であり、レゼニア教の第二の聖地でもある皇都をぜひ見て置きたい気持ちも昔からあったし、なにより妹が今はどのような状況になっているのかも知りたかった。もちろん、あの反乱の原因となったミスティア王女が誘拐(・・)された道中でもあるので、未だに気をつけねばならないが、それでもやはり心は浮かれている。


 今までアリアはアランと暮らしていた時は二人で寝ていたが、王宮に来てからは結婚前という事もあり、別々の部屋で寝ている。

 全ての一日の流れが終わり、就寝前の儀式として、バラの花びらが浮かんだ風呂に入るという贅沢やそのあとのマッサージを今まで公爵家にいた時は特別な時にしか希望しなかったが、今では必須項目として侍女長自ら支度をしてくれている。


 しかし、王と会話した日の夜は違った。

 その日の夜半。

 アリアが侍女たちとおしゃべりに興じていた時、突然アリアが就寝する部屋の扉が開かれた。侍女たちは一瞬、普段は容認してくれているはずの侍女長が来たのかと思い、かなりびくついたが、実際に来たのは寝支度を整えていないアランだった。侍女たちは来訪者が侍女長ではなかったことにほっとしながらも、突然のアランの来訪により、そそくさと退室した。

「何かあったの?」

 彼はひどく疲れているようだったが、特別緊急の用事でもなさそうだった。アランはため息をつきながら、アリアを見ていた。

「何にもないよ」

 アリアはすでに寝支度を整えており、後は寝転がるだけだったが、少しはしたないと思いつつも、ソファの方へ行こうとしたが、アランに止められた。

「そのままにして」

 彼はそう言うとアリアのそばに来て、ベッドの端に座った。そして、彼女を抱きしめた。

「『少しアリアを補充したい』」

「はっ?」

 アリアは理解できなかった。アランは笑い、

「マクシミリアンルートでの台詞かな」

 どうやら、『ラブデ』での話だったらしい。アリアも言われて思い出した。確かマクシミリアンルートにおいて、ハッピーエンドでマクシミリアンが言う台詞だった。そのほのぼのとした内容がアリアは好きだった。アリアもクスリと笑い、

「そういえばそうだったわね」

 と返した。まさか自分が言われる立場になるとは。嫌ではないが、少しくすぐったく感じられた。

「三か月も会えないって辛いよ。それに他の()と会うなんて」

 アランはどうやら、昼間の話からここに来たらしい。アリアも今なら彼の気持ちを少しはわかったので、彼になされるがままになっている。

「そうね。私もアランに会えなくて辛い。でも、他の男と会うって、アラン(・・・)が言うの?」

 アリアは右手でアランの頬をなぞった。ここまでの至近距離で見るのは久しぶりだ。もちろん、アリアの軽口を真に受けるようなアランではなく、

「俺は()のアラン・バルティアじゃないさ」

 と笑い、アリアも、

「ならいいんだけれど」

 と言う。ひとしきり笑い終わった後、

「まさか、こんな立場になるとは思わなかったけれどね」

「全くだ」

 アリアもアランも笑う。そして、ひとしきりこの一週間で、互いに今まで起こったことを話した後、アランはアリアの部屋から出て行った。

『どうせ公認なんだし、変な噂立てられることはないだろうけれど』

 そう言いつつ出て行った彼の顔は最初入ってきたときよりも、疲れを感じさせなかった。

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