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転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね? ~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~  作者: 鶯埜 餡
16才編『二つの徒花』

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1

16才編スタートです。

のっけから重いと思います。

1

 年明け―――――

「寒いわね」

 この大陸ではどうやら強烈な寒波が訪れているらしく、非常に温暖な地域に属しているはずのリーゼベルツにおいてもかなり冷え込んでいた。そのため、多少の散歩をするのにも防寒着を多く着込こまなければならなかった。平野部には反乱軍が占拠したという街が見え、その街には反乱軍のシンボルである緑色の旗が立っている。それらを見下ろしながらアリアは言う。隣には同じように多くの防寒着を着たアランがいる。

 二人とも考えが甘かったのだ。王立騎士団が手を焼いているのにも納得するくらい、相手は上手なのだ。狡いと言ってもいいくらいだろう。二つの領から連れてきた騎士たちは、壊滅を免れており、反乱軍の街を取り囲む程度には進軍できているが、実際の戦闘においては反撃に成功していない。

「そうだね。武士の時代に生まれたわけじゃないから、まさかこんな戦場に立つとは思わなかったよ」

 アランは遠くを見つめながら言う。

 自分たちは生まれてくる場所・時代が違えば戦は身近なものだっただろう。しかし現代日本国内では全く戦はなく、こんな『転生』というものをしなければ、アリアもアランも戦場で年明けを過ごす、という事にはならなかったはずだ。もちろん―――――

「ええ。しかも、転生したからって戦場に立つ予定もなかったはずなんだけれど」

 アリアは肩をすくめる。次期バルティア公爵であるものの、元は王立騎士団に在籍していたアランならともかく、アリアの場合は仮にも公爵令嬢だ。よっぽど何かが起こらない限りは市井に下ることもなく、家の中でぬくぬくと過ごしていたはずだ。なぜ、このような状態になってしまったのだろうか。

「はは。アリアの言うとおりだ」

 アランも肩をすくめながら笑う。

「とりあえず詳しい場所は分からないけれど、他の軍のだいたいの位置もすでに分かっていることだから、後はこの目の前の街を落として、ミスティア王女たち(ラスボス)がいる城へ行こうよ」

「――――ええ、そうね」

 アランの言葉にアリアは少し、いやかなり気が重くなった。いくら今回の反乱軍の首領であるとはいえども、自身の運命を予言していたミスティア王女に会うのは気が重い。しかし、彼らが足掻いたところで国王軍、ひいては現王に『義』があるのは言うまでもないことだろう。たとえ、彼らがそれを認めていなくても。

「ねえ、アラン」

 アリアは隣にいるアランを見た。アランは彼女にどうしたのか尋ねる。それを尋ねようとしてから迷いが一瞬生じたが、アリアは思い切って彼の手を握る。アランはそんな彼女の行動に驚きを見せた。

「この戦が終わったら本当に(・・・)私と結婚して」

 アリアの口から告げられた内容にアランはまたもや驚いた。もちろん、アリアも生半可な覚悟で言っているわけではないのはアランにもわかっていたので、彼女の行動に笑うつもりはなかった。

「もちろん、いいよ」

 アランはアリアの手を撫でた。

「本当はこの戦が終わった後、僕から言うつもりだったのに」

 彼は少しむくれた言い方をしたが、今のアリアにはわかる。それが演技であるという事を。

 アリアとアランの場合は少し違う。

 アリアから見たアランという人間は、同じ転生者であり、もともとは『打倒・国王』を掲げていた仲間、そして、今は多くの権限が制限されているアリアのために表立ってくれて契約婚約まで結んでいる男性、という枠だった。しかし、この一か月余りを過ごしている間にアリアは完全にアランのことを『好きな男性』として認識していた。恐らくきっかけを作ったのはアランが『八月朔日蓮』としている間に起こった出来事をアリアに教えてくれたことだと思っている。

「ありがとう」

 アリアはアランがそう言ってくれたことにほっとした。この世界では、女性から男性にプロポーズという行為自体は禁止されていないが、あまりいい顔をされていない。まあ、婚約自体はすでに成立しているわけだから、プロポーズには当たらないのかな、と思いつつ、アリアは再び、目の前の街並みを見た。背後からアランの視線が感じられるが、今は集中しなければならない時、と気持ちを切り替えることにした。



 それから数週間―――――

「何ですって―――――――」

 アリアの叫びが天幕内に響き渡る。天幕内にいる護衛のバルティア・スフォルツァ両家の騎士も驚いて固まっている。アランだけが驚いているものの、想定内の話だったのか全く動じていない。

「ですから、だ、ダリウス王子殿下が、こ、こ、薨御(こうぎょ)されたと」

 知らせを持ってきた騎士はアリアの剣幕に恐る恐るもう一度繰り返した。アリアはアランの胸に顔を埋める。事の重大さは理解している。しかし、何故このタイミングでそんな事態が起こるのかが不思議だった。

「どういう事よ――――」

 アランに問いかけるが彼からの返答はなかった。どうやら、彼も状況の把握が難しくなっているようだった。

「セレネ伯爵夫人からしか話を聞いていないので、仔細はわかりませぬが、伯爵夫人の話によれば毒殺(・・)の可能性が高いとおっしゃっておられました」

 知らせを持ってきた騎士は手紙を差し出す。震える手でアリアは受け取り、アリアはそれを読み始めた。幼い時は何度か見たことのある彼女の筆跡だったので、それが本物であることは間違いないだろう。それを読み終えたアリアはアランを見上げる。その瞳の中にはすでに涙の後はなかった。その手紙をアランに渡すとアリアは言う。

「あと一週間、私はここにとどまり、クリスティアン殿下やセルドア様、そしてユリウスを探し出す。そして、反乱軍(あの連中)を壊滅させる」

 その宣言にアランも頷く。それから、手紙に軽く目を通し、再び頷いた。


「そうだな。これ以上は黙っていられない」

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