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転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね? ~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~  作者: 鶯埜 餡
15才編『不穏な雲行き』

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「むしろ、僕はその反対だ。こんな生活が出来て嬉しかったよ」

 アランは笑った。しかし、その笑みは以前見せた望郷を呼び覚ますような笑みではない。まるで何かにほっとしたような笑みだった。

「うちはお国(・・)が言っていた食育なんて言う事は実践できるわけがなかったんだ。なぜなら、父親は政治家の秘書、母親も救急病院に勤める外科医で、家にいなかったんだよね。だから、小さい時から親とご飯を一緒に食べたことはほとんどないし、僕自身も、父親の仕事を引き継いでからはゆっくりとご飯を食べる余裕なんかなくなった。

 僕たちも空いている時間を作ってご飯は済ます必要性があって、よくコンビニ弁当や定食屋さんにお世話になっていた。だから、『本物の味』というものを知らなかった。だから、リーゼベルツの支配階級とはいえども、家族そろって食べる『手料理』を味わったとき、前世(あっち)では、よくそんな状態で『食育』なんて、政策を推し進めようとしていたのか、自分でも笑えてきたよ」

 アランはしみじみと言った。アリアには議員秘書という仕事はわからない。そんな仕事に興味を持とうとしていなかったので、知ろうともしていなかった。しかし、うわさに聞く議員秘書というのと非常に現実とかけ離れた世界だという事が、()の口ぶりから察せれた。

「そうだったの」

 アリアは彼の話すことにただただ圧倒されていた。

「うん、そうだよ」

 アランはにっこり笑い、


「でも、もう大丈夫。かなりこの世界には慣れたし、家族そろって(・・・・・・)食べる食事(・・・・・)にも、ね」

 と言った。その笑みからは、心底よかったという感情しか読み取れなかった。

 二人は食事を続け、その土地の有名料理らしい煮込み料理に舌鼓を打った。



 その晩、夕食をとった街で止まるための宿を飛び込みで入ったのだが、ここで問題が生じた。

―――――アリアとアランは『駆け落ちのカップル』という設定だ。

 一つの部屋でとらないのはさすがにおかしすぎる。という事で、かなり奮発して金を握らせ最高級の宿に泊まったのだが、アリアは戸惑っていた。この部屋にはベッドが一つしかなく、本当に好きな恋人同士がどのようなことをしているのかは、アリアもさすがに知っている。だが、アランは契約上の婚約者だ。彼の隣にいてほっとするのは間違いないが、好きなのかどうか微妙だし、もし、仮にアリアが好きであっても、彼は受け入れてくれるのかどうかわからない。だから、そういうことをするのは、問題外だ。

「ねえ、おかしいわよ」

 彼女は同じ部屋で異性と寝る、という事が初めてだ。この婚約がどうであっても、さすがに顔が割れてしまったときにどう思われるのかは、明白で、それに対しての対処法は持ち合わせていない。アランにそう抗議すると、

「僕はどう思われたって別にいいよ」

 と、どこ吹く風だ。

「何なら一緒に(・・・)寝たっていいんだよ」

 彼はウィンクした。その姿は、一応現在はアリアよりも年下のはずなのに、何故か転生前の年齢である二十歳より上の立派な男性に見えている。そう思えてしまったアリアは、すぐに顔が赤くなり、

「い、いいえ!!」

 と後退ってしまった。しかし、そんな彼女に諦めるどころか、アランはアリアを抱き寄せた。慌てて退こうとジタバタしたが、流石は元王立騎士のアラン、アリアの力ではびくともしなった。

「ちょ、何をしているんですか―――――」

 アリアは抗議の声を上げたが、アランはアリアの肩に顔を埋めて言う。


「『こうでもしていないと貴女(アリア)は、どっか行っちゃいそうで怖いんだよ―――――』」


「え――――――?」

 アリアはその台詞(・・)を聞いて驚いた。それは、

「それってアランの台詞ではない、よね?」

 そう『ラブデ』における台詞を、本来ならばベアトリーチェが相手である部分をアリアに置き換えて言っているのだ。しかも、スチルが見ることが出来るそのイベントに、とても状況が似ているような気がした。

「うん、そうだね。ウィリアムのハッピーエンド、だね」

 アランは名前を呟いてから、しまった、という表情をした。確かに、何故今ここで彼のルートの台詞を呟いたのか、アリアにも分からないが、現在の彼の心情として最も近いのは、そのウィリアムがベアトリーチェに言った台詞だったのだろう。アリアも気持ちが分からない訳ではなかったので、アランの髪をなでた。


 結局、二人は一つしかないベッドに一緒に寝た。

 翌朝、アリアはすっきりとした気分で起きたのだが、隣にいる人物を見て、そう言えばそうだったのか、と昨夜の出来事を思い出した。

「ねえ、アラン。起きて」

 彼との間に何も起きなかったようだ。それに安心するものの、少し残念な気持ちになったが、それが、どうしてなのかはわからなかった。

「―――――ん?ああ、おはよう」

 アランは寝起きがあまりよくないのか、一瞬不機嫌そうな顔をしたが、すぐに起きてくれた。彼は寝ている間中、本当にアリアを離さなかったみたいで、今でも抱かれている。

 そんな状況に恥ずかしくも思ったが、少し嬉しかったのが本音だろう。

 こうして、アリアはその感情が『恋』だと知らずに、自分の気持ちに整理をつけた。


「じゃあ、行きましょう」

 それから、二人は宿を出発し、バルティア領へ向かった。

議員秘書の仕事は半分はフィクションですので、実際のご飯の実態とかはこの限りではありません。

アラン君、羊の皮をかぶり続けた狼の回。

アリア→アランとは契約としての婚約。アランのことは悪くない、と思っている様子。

アラン→アリアのことが好きすぎてたまらないが、時勢が時勢である、という手前と、絶対本当の婚約だったらアリアがうだうだ悩みそうだから、という理由で建前としては契約婚約の形をとっている。

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